演出家 齋藤吉正が語る『Killer Rouge(キラー ルージュ)』の見どころ<前編>
星組トップスター・紅ゆずる誕生からのサードステージ。
今年は花吹雪のあとに“紅(くれない)色”が咲き誇る。
そして “紅前線”は東京へ、さらに、台湾の地へ——
4月27日に初日を迎える、タカラヅカ・ワンダーステージ『Killer Rouge(キラー ルージュ)』。
稽古がまもなく開始しようとする頃、作品づくりも大詰めの齋藤吉正に話を聞いた。
その名からも強烈なインパクトを残す
星組の今を大切にした、齋藤ならではのショー作品
「タイトルにある、言わずと知れた“Rouge(ルージュ)”は、まさしく、星組トップスターの紅ゆずるのことです。ルージュはフランス語で“赤” “紅色”の意味で、紅ゆずるの“くれない”を、タイトルカラーに掛けました。そして“Killer”という言葉は、俗にいう“かっこいい”“魅力がある”“イカシてる”という意味合いになります。エッジの効いた語感が、今回のショーのイメージにリンクしているかなと思っています。英語の“so cool”に近いニュアンスでしょうか」
紅ゆずるのカラーを生かした“Killer”なショー『Killer Rouge』は、紅がトップ就任後、三公演目の大劇場作品となる。
円熟の境地を迎え、パワーの充実した“今”だからこその作品。
第一幕『ANOTHER WORLD』を担当する谷正純とともに、今回は、星組の新しい一面も二面も三面もをお魅せする番だと意気込む。
「前回の星組大劇場公演『ベルリン、わが愛』『Bouquet de TAKARAZUKA』では、このように星組の魅力をお届けしたから“次はお前に頼むぞ”と、私は演出家の酒井澄夫先生や原田諒先生からバトンを託されたと思っています。そのバトンを受けて、今度は、谷正純先生とともに、自分にしかできない星組の魅力をお届けしたいなと。今回に限りませんが、常々そのように思って作品づくりに臨んでいます。
今回は、ルージュという表現にふさわしい、紅色の強烈な華をもって、そして少し尖がった感じのショーをお客様にお楽しみいただきたいと思っています。皆さんがまず思い浮かべられる紅ゆずる像は、とても明るく伸びやかで、そしてちょっとユニークといった感じではないでしょうか。イメージに違わず彼女は快活で、まるで部活動のリーダーみたいな人柄ですが、一方で、とても細やかで純粋な一面もあり、広い視野をもち、いつも周りに心を配ってくれています。繊細さと大胆さを持ちあわせる彼女は、舞台においても、振り幅がとても大きなスターであるところが魅力だと思っています。
今回のショーを通じて、彼女のもつ真逆の魅力を、そのゲージの示す全ての幅を、この55分のショーでお見せしたいです。ナンバーも多彩なジャンルを予定していますので、ぜひ楽しみにしていてください」
タカラヅカ・ワンダーステージ『Killer Rouge(キラー ルージュ)』は、宝塚大劇場公演を皮切りに、東京宝塚劇場公演を経て、新たな演出を加え『Killer Rouge(キラー ルージュ)/星秀☆煌紅(アメイジングスター☆キラールージュ)』として台湾は台北・高雄へと羽ばたく。
日本の多様な現代文化を紹介することも、この『Killer Rouge』の役割のひとつ。国内のお客様のみならず、台湾のお客様、幅広い世代で楽しめるショー作品に期待が高まる。過日、台北で行われた制作発表会では『Killer Rouge』の書き下ろし楽曲「Killer Rouge」と「Rouge Comet」の2曲を披露した。
「制作発表会で披露した2曲は、作品の表紙となるテーマ曲です。あの楽曲が舞台仕様になって、さらにスケールアップしてゆきますが、とてもパンチのあるナンバーに仕上がりました。まさに『Killer Rouge』を物語っているかと。
ほかにも、お客様にお楽しみいただける場面が目白押しです。たとえば、日本のポップスや日本のアニメーションの曲など“日本の今”と宝塚歌劇がコラボレーションすることによって、星組出演者の多面性や、宝塚歌劇の可能性を感じていただけるのではないでしょうか。聞き馴染みのある曲からオリジナル曲まで。紅や綺咲、礼以外も歌い手、踊り手のバラエティに富んだ星組で、より多くの出演者のさまざまな面をお伝えできるよう、現在鋭意制作中です」
齋藤が星組とタッグを組むのは、宝塚大劇場・東京宝塚劇場公演『桜華に舞え』(2016年)以来2年ぶり。
ショーを担当するのは、今回が初めてとなる。
「星組の大劇場作品のショーを初めて担当しますが、助手時代を含めると星組の作品に携わる機会は意外と多く、紅ゆずるの第88期生の初舞台公演である、中村一徳先生作・演出『LUCKY STAR!』(2002年 星組)では演出助手をしていました。昔から星組はその名の通りキラキラしていて、華やかで、いかにもタカラヅカらしかったです。それは、紅の時代まで確実に受け継がれています。
今の星組は、紅をはじめ、上級生から下級生に至るまで、個性豊かで頼もしい人材がひしめいていまして。
出演者の本来の魅力と、彼女たちが気づいていない魅力の両方を導き出すように創ることが、自分が作品を担当するうえでのモットーなので、一人ひとりに存分に発揮してもらいたいと思います。限られた時間のなかで全てをお見せしようとすることは大変な作業ですけれど、やはり、とてもやりがいがあります」
演出家 齋藤吉正が語る『Killer Rouge(キラー ルージュ)』の見どころ<後編>
夢や希望、明日への活力がみなぎるショー
劇場を“紅色”に染め上げる
今の宝塚随一のエンターテイナーと評される紅は、星組のDNAを色濃く受け継ぎ、可憐さとコケティッシュな魅力を併せ持つ同じく星組育ちの相手役、綺咲愛里との並びは、ひときわゴージャスな輝きを放つ。
その熱いトップコンビを力強く支える星組スターのひとり、礼真琴も、このショーを通じて新境地が期待される。
「もともと星組のイメージは、トップスターを中心としたキレイなピラミッドがなされていて、結束力を強く感じます。
紅は星組の生え抜きで、相手役の綺咲も、紅の脇を固める礼真琴も、生粋の星組育ちなんですよね。
綺咲もタカラヅカのヒロインになるため生まれてきたような、美しく可憐な娘役だと思いますが、普段の彼女と接してみると、そのビジュアルからは想像できない、また違った魅力も持っているなと思うことがあります。そういうオフで感じた、彼女のスタイリッシュな部分にも、今回フォーカスしたいですね。
そして、礼が持っているテクニックと彼女の舞台に対する真摯な姿勢には、我々スタッフ陣から見ても尊敬に値するくらいですが、そんな彼女の魅力はもちろん、さらにセクシーさを導き出すことが、今回のショーにおける私の役目のひとつだと思っています」
今回は、未来のタカラヅカを担う第104期生の初舞台公演でもある。
初々しい宝塚歌劇のスターたちが“華”開く瞬間を、どのように魅せるのか。
気になる初舞台ロケットの内容についても少し明かしてくれた。
「演出助手時代から、初舞台生公演に携わった際は、初めての舞台に上がるまでの厳しい道のりを間近で見てきました。今回初めて初舞台公演の作品を演出するにあたり、もうすでに親心というか、第104期生40人のデビュー作に恥じぬ公演にしたいという思いが自然と湧いています。彼女たちがこの公演で初舞台を踏んだことを誇りに思ってもらえるようなショーにしたいですね。
テーマはもちろん“Rouge”に掛けた“紅桜(べにざくら)”です。私は「Sakura Rouge 104(サクラ・ルージュ・ワンオーフォー)」と呼んでいますが、彼女たちにもこのコードネームを植えつけていこうかなと(笑)。第104期同期全員が一緒の舞台に立つのは、この宝塚大劇場公演だけなので、いわば一生に一度の春ですよね。初日の頃、ちょっと遅れた“紅色の桜が咲く”というイメージで創ってあげたいです」
“Rouge”紅ゆずるを筆頭に、出演者全員が紅色に染まり、その熱気は客席へ。そして宝塚から、世界に『Killer Rouge』旋風を巻き起こす——
「この公演を私自身とても楽しみにしています。まだ模索中ではありますが、自らのカラーを加味しながら、出演者の持つ魅力を出し惜しみせずに最大限に表現したいといつも思っています。この『Killer Rouge』では、紅カラーがより充実してきた今、その星組の魅力を余すところなくお届けしたいですね。
また、希望や夢、明日への活力を持って帰っていただくというのがタカラヅカの一番の役割ですから、これがなければどんなに野心的にチャレンジしても、タカラヅカのショーとはいえませんよね。宝塚歌劇を初めてご覧になるお客様やリピートされるお客様、幅広い老若男女の方たちに“タカラヅカって素敵だな”と感じていただけることが、ショーを担当する、齋藤の役割だと自負しています」
演出家・齋藤吉正の情熱と、紅色の星組公演出演者、そしてフレッシュな初舞台生による、今しか味わえないタカラヅカ・ワンダーステージ『Killer Rouge(キラー ルージュ)』にぜひご期待いただき、劇場でその魅力をご体感ください。
【プロフィール】
齋藤 吉正
神奈川県出身。1994年宝塚歌劇団入団。1999年宝塚バウホール公演『TEMPEST』(宙組)で演出家デビュー。宝塚大劇場デビュー作である2000年『BLUE・MOON・BLUE』(月組)は独自の世界観を描き、インパクトあるショーに創りあげた。青池保子氏の代表作をミュージカル化した2007年『エル・アルコン—鷹—』(星組)、ネルソン海軍提督の波乱に満ちた生涯を描いた2010年『TRAFALGAR』(宙組)、大ヒット漫画を原作とした2012年『JIN-仁-』(雪組)など、ミュージカルでも豊かな感性でヒット作を生み出した。ショー作品においても、人生の喜怒哀楽をゲームに譬えた2011年『ROYAL STRAIGHT FLUSH!!』(雪組)、旅の途中で遭遇する様々なエピソードを華麗に綴った2012年『Misty Station』(月組)、情熱の愛と夢の数々を描いた2015年『La Esmeralda』(雪組)と、多種多様な趣向を凝らした作品を発表し続けている。