演出家 野口幸作が語る
タカラヅカ・スペクタキュラー『Délicieux(デリシュー)!-甘美なる巴里-』の見どころ<前編>
伝統的な様式美に現代的なアレンジを加えた華やかなレヴュー、ショーを得意とする注目の若手演出家・野口幸作。今まさに円熟期にある宙組トップスター・真風涼帆を主演に挑むパリ・レヴューについて、見どころをたっぷりと聞いた。
美男子パティシエと巡る、甘美なる巴里(パリ)
“スウィーツ”がテーマとのことですが。
名だたる演出家の先生方が築いてこられたパリ・レヴューの伝統を受け継ぎつつ、作品に一貫したテーマを持たせるために「スウィーツを題材にしたパリ巡り」という設定を考えました。真風涼帆扮する美男子パティシエ、ル・ヴォンが、潤花扮する美少女ラ・フルールを伴い、さまざまな時代のパリを名曲とともに巡る作品です。
真風と潤の新トップコンビお披露目公演なので、二人の絡みはもちろんですが、芹香斗亜も加えた“ゴールデントリオ”としての魅力も描きます。その他、勢いのある宙組スターたちが活躍する場面や、第107期生たちの初舞台を鮮烈に印象づけるような演出も考えています。
作品の構成についてお聞かせください。
真夜中のパリの街で迷ったラ・フルールが、スウィーツの化身たちに導かれパティスリーに迷い込み、ル・ヴォンと出会う幕開きで始まります。そしてスウィーツにまつわる言葉や、宙組スターたちの名前をちりばめた“胸キュン・シャンソンメドレー”へと展開します。ここでは大階段をデコレーションケーキに見立てたセットを予定しています。
続くシーンでは、客席から一体感を感じていただける演出を用意しました。公演グッズの「マカロン・シャンシャン・ペンライト」を手に、楽しんでいただけると嬉しいですね。次にチャイコフスキーの「くるみ割り人形」メドレーによるカンカンが続き、冒頭から贅を尽くして皆さまを甘美なるパリの世界へと誘います。
豪華なプロローグの後は、どのようなシーンが展開されますか?
ヴェルサイユ宮殿のプティ・トリアノン宮を舞台に、マリー・アントワネットのお茶会を喜劇的に描いた後は、フォレノワール(黒い森)というチョコレートとチェリーのケーキをモチーフにした場面です。真夜中のブーローニュの森の奥深く、地下のレヴュー小屋で繰り広げられる、男女の禁断の愛を耽美的にお見せします。その他にも、フルーツタルトをモチーフにシャンソンの名曲をラテンアレンジにした華やかな中詰め、キャンディケーンを使用してコール・ポーターの名曲を格好良く踊るシアターダンスなど、スウィーツを贅沢にちりばめたシーンをお届けします。
セットも華やかになりそうですね。
18世紀フランスのロココ調をベースに、場面によっては19世紀末のアール・ヌーヴォーや20世紀初頭のアール・デコなど、各時代の意匠もセットのあちこちにちりばめます。全体的に煌びやかでありながらも品良く、クラシカルな雰囲気でまとめていけたらと思っています。パリのムーラン・ルージュやフォリー・ベルジェールといったミュージック・ホール、ブロードウェイのジーグフェルド・フォリーズで上演されていたような王道のレヴューをイメージしています。
“スペクタキュラー・シリーズ”第4弾となる今作への思い入れは?
スペクタキュラー・シリーズのモットーは、“少し新しく どこか懐かしく かなり感動する”としていますが、今回は音楽のアレンジや捉え方を“少し新しく”しようと試みました。プロローグで歌う、宝塚歌劇ではお馴染みのシャンソンのメドレーは、私が歌詞を新たに書き直し、音楽のアレンジも現代的にしました。また、フィナーレではシャンソンの名曲をヒップホップ調にするなど、意外性を感じていただけるのではないでしょうか。宙組創立以来、本格的なシャンソン・レヴューは初めてなので、出演者やお客様にとっての新鮮な出合いになればと思っています。
タカラヅカ・スペクタキュラー『Délicieux(デリシュー)!-甘美なる巴里-』の見どころ<後編>
インタビュー<後編>では、真風涼帆ら出演者や、宙組の魅力を中心に話を聞いた。
真風涼帆率いる宙組の魅力溢れる、パリ・レヴュー
宙組トップスター・真風涼帆の魅力とは?
かつて私が担当した新人公演で、若手ながらすでに正統派男役として舞台に存在し、高木史朗先生が重要視されたレヴュースターの条件“カーテン前を持たせる華”を持っていました。シャンソンの名曲を歌う姿が非常に魅力的で「彼女主演でいつかパリ・レヴューを!」と心に秘めていたのです。真風といえばこれまで包容力のある役やミステリアスな役が多く、大人っぽくスマートなイメージがありますが、今回は、普段の面白さや周りを和ませる可愛らしい面など、私が下級生時代から見てきた“愛すべきギャップ”という魅力を引き出したいです。
真風の今作での見どころを教えてください。
まずプロローグで、「胸キュン」な歌詞を思いきりキメて歌ってもらいます。シャンソンの名曲に私が歌詞を付けたのですが、私自身、楽しみで仕方がありません(笑)。他にも、正統派男役としての美学を感じさせる見せ場や、真風がかつて演じたある作品の役に再び出合える場面、ターバン姿で大羽根を背負って踊るラテンのシーンもあります。また、この時代を生きるすべての人たちへ向けて熱唱する感動的な場面も作り、彼女の魅力をたっぷりとお見せしたいと考えています。
潤花は、大劇場での新トップ娘役お披露目公演になります。
彼女は初舞台に始まり、私の作品に数多く出演してくれています。美しさや華だけではなく、躍動感のあるダンスと存在感でお客様を魅了する力がありますね。トップ娘役に就任してから初めての大劇場ショー作品なので、まずは大カンカンの中心で、彼女の卓越したダンスを披露します。そして、宝塚歌劇のレヴュー作品でもお馴染みの「ラ・ヴィオレテラ」のスパニッシュアレンジでは、カルメンのような強い女性像を表現してもらいます。
新トップコンビにどのような魅力を感じますか?
『Hotel Svizra House ホテル スヴィッツラ ハウス』(2021年宙組)を観た時、すでに大人のコンビとして成立しているというか、二人の雰囲気や佇まいが似ていると感じました。ダンスシーンでは身長差もバランス良く、非常に魅力的に映りますね。開襟した軍服姿の真風と、真風が大好きなフルーツであるアメリカンチェリーに扮した潤が、耽美的なダンスを繰り広げる場面もありますので、ぜひご期待ください。
芹香斗亜にはどのようなことを期待しますか?
芹香とは8年前の私の宝塚バウホールデビュー作『フォーエバー・ガーシュイン』(2013年花組)以来ですね。当時から正統派男役としての品の良さや立ち姿の美しさに魅了されましたが、今回は違う面も引き出すべく、宝塚歌劇ではお馴染みの役に扮したコミカルな場面を任せています。中詰めでは一転、ある名曲をほぼため息と掛け声だけでワイルドに荒々しく、そしてフィナーレでは彼女との原点でもあるガーシュインの曲を、パリ・レヴュー風にアレンジして歌い踊ってもらいます。男役同士のデュエットダンスから総踊りに発展する場面では、真風との絡みもぜひお楽しみに。
桜木みなとや和希そらなど、他にも勢いのあるスターたちが揃っていますね。
端正な顔立ちの桜木は、成熟した雰囲気が漂う魅力的な男役に成長しましたね。妖しく歌った後の真風との甘美な絡みなど、中性的でミステリアスな魅力を堪能していただきたいです。ダンス、歌、芝居と三拍子揃った和希には、今回は健康的な明るさを発揮してもらいます。満面の笑顔で溌溂と歌う彼女にもご注目ください。また、その後に続く若手スターたちが活躍する場面もございます。
久しぶりのショー作品に挑む宙組の雰囲気は?
約1年半ぶりのショー作品に宙組生全員が揃うということもあり、一人ひとりの意気込みを感じますし、それがチームワークにも繋がっていて、大変良い雰囲気で稽古が進んでいます。私自身、彼女たちの姿勢に勇気づけられていますし、出来上がるのがとても楽しみです。
第107期初舞台生の公演でもありますね。
39名の人生の門出に、“明日への希望と新たな時代への祝福”をテーマとしたマカロンタワーのロケットを考えました。衣装もマカロンをイメージしています。巨大なケーキや鏡のセットに、舞台機構を組み合わせ、豪華にお見せします。音楽はタカラヅカ・レヴューの原点ともいえる「モン・パリ」や「パリゼット」をはじめとした馴染みのあるナンバーからマニアックなナンバーまで幅広い楽曲を選びました。“タカラヅカ・スペクタキュラー”のクライマックスを体感していただきたいですね。
彼女たちには、お客様を勇気づけられるような立派な舞台人を目指して、未来を信じ、鍛錬を忘れずに頑張ってほしいと思います。
最後に、お客様へのメッセージをお願いします。
このような時代だからこそ、ご覧になったお客様すべてに「宝塚ってやっぱり素晴らしい」「明日も頑張ろう」と思っていただける作品を目指しています。宙組生全員と初舞台生が揃っての豪華なステージで、しばし現実を忘れ、この上ない贅沢さを味わっていただきたいですね。時節柄、劇場までお越しいただけないお客様もいらっしゃると思いますが、皆さまに甘美なるパリの世界をご堪能いただければ幸いです。
【プロフィール】
野口 幸作
神奈川県出身。2006年宝塚歌劇団入団。2013年に『フォーエバー・ガーシュイン』(花組)で演出家デビュー。2014年にスタンダールによる小説をミュージカル化した『パルムの僧院 —美しき愛の囚人—』(雪組)、2015年に若手スターを中心としたワークショップ公演『A-EN』(月組)を発表。2016年には究極のエンターテイナーをテーマにした『THE ENTERTAINER!』(星組)で、宝塚大劇場デビュー。続く2017年には新生雪組の大劇場お披露目公演となる『SUPER VOYAGER!』(雪組)、2018年には『BEAUTIFUL GARDEN −百花繚乱−』(花組)を発表。大劇場での3作品は“スペクタキュラー・シリーズ”と銘打ち、伝統的なレヴュー、ショーに現代的なアレンジを加えた演出が、好評を博した。2019年には神尾葉子原作の少女漫画の金字塔的作品『花より男子』(花組)を舞台化。同年ブロードウェイ・ミュージカル『ON THE TOWN(オン・ザ・タウン)』を新演出・新振付による「宝塚歌劇バージョン」として再構築。今作は“スペクタキュラー・シリーズ”の第4弾となる。