毎日が淡々と過ぎてゆく。42歳の杉山正平はフツーのサラリーマン。結婚し、父親となり、そして念願のマイホーム。自分でも幸せな人生だと思っていた。通勤電車の窓越しに、あの女性を見るまでは―。
彼女の名は岸川舞。さびれてはいるが、伝統のある岸川ダンス教室の教師だ。窓からのぞく愁いのある表情が、ためらいつつも気になって、淡い期待も感じながら、正平はダンス教室に入会する。
ところが、実際にダンスを教えてくれるのは、たま子先生というおばさん教師。講釈好きな時計店の主人・服部に、若いのに健康のために来たという田中と新人同士でダンスを始めることになった。舞と踊るという当てははずれたものの、正平はもともとが真面目な性格。ステップを踏むうち、いままで忘れていた何かが、彼のなかに灯りはじめた。
もちろん、妻にも会社にも内緒で始めた社交ダンスだったが、意外にも身近なところに隠れたダンサーはいた。正平の同僚・青木はダンス歴5年、情熱のラテンダンサーとして日夜バートナー探しに明け暮れていた。社交ダンスは、奥が深い。ダンスホールから海外ツアー、競技会と完全にハマッている青木に誘われるまま、ダンスパーティに出てみるものの、中年以上の男女が派手な服と振りで踊っているのを見て面くらい、ステップを間違えては罵倒され、少々ダウン気味。その上、妻・昌子から浮気と疑われ、探偵を雇われる始末。探偵の三輪は、正平の行動に問題は無いと告げるが、昌子はダンスに嫉妬する。
ある晩、いつもの愁いの表情の秘密を解こうと、思い切って正平は、舞を食事に誘う。ところが返ってきた言葉は、思いがけない一言だった。「不純な気持ちでダンスを踊ってほしくないんです」正平はショックだったが、その言葉が却って彼をダンスに駆り立てた。そんな中、おせっかいなおばさんダンサー豊子から、舞は去年、ダンス大会の最高峰、英国・ブラックプールの大会に出場、セミ・ファイナルまで残ったものの事故に遭い、それが原因でパートナーとも別れてしまったと聞かされる。舞は、またブラックプールへの夢を追いたいが、父親から事故の原因に目をさますまでパートナー探しも禁じられ、素人ダンサー相手のレッスンを続ける日々だった。
大会が近づいてきたある日、パートナー探しをしていた豊子が、フロアで突然倒れてしまった。病院で、豊子が亡き夫への思い出のために踊っているという意外な側面を知って驚く正平と舞。その帰り道、彼らは歩道橋から見えるダンス教室のフロアで、楽しそうに踊る人々をじっと見ていた。その光景は競技会ダンスばかりに夢中になり、踊る本当の楽しさを忘れていた舞の心に、突き刺さった。その時、たま子から豊子と組んで大会に出てみることを勧められ、迷う正平。だが、それを後押ししたのは舞だった。
それから3ヵ月、本来の情熱を取り戻した舞と、正平、豊子、青木は大特訓を重ねる。大会の直前、二人きりなった舞と正平。舞は彼に自分がダンスを始めるようになったプラックプールでの出来事を、アクシデントがあっても最後までパートナーを信頼し、ホールドし続けたカップルの話を聞かせた。それは去年の大会で、舞がおかした過ちへの自分の償いの言葉でもあった。二人はお互いに「ダンスが好きになったのは、あなたを見つけたから」と語り合った。
いよいよ大会の日、正平は、フロアに足を踏み入れた。彼のダンスは、豊子を、昌子を、自分自身を、そして舞をホールドする事ができるのか―。
杉山正平 | 役所広司 |
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岸川舞 | 草刈民代 |
青木富夫 | 竹中直人 |
高橋豊子 | 渡辺えり子 |
三輪徹 | 柄本明 |
歌姫ナツコ | 清水美砂 |
木本弘雅 | 本木雅弘 |
- 『Shall we ダンス? プレミアム・エディション』
価格¥4,935(税込)
発売元・販売元 株式会社KADOKAWA
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1956年、東京都出身。立教大学文学部仏文科卒。在学中に高橋伴明監督の助監督となり、若松孝二監督、井筒和幸監督らの助監督も経験する。1989年、本木雅弘主演『ファンシイダンス』で一般映画監督デビューする。再び本木雅弘と組んだ『シコふんじゃった。』(92)では日本アカデミー賞最優秀作品賞ほかその年の数々の賞を受賞。1993年に映画製作プロダクション、アルタミラピクチャーズの設立に参加。1996年に監督した『Shall we ダンス?』は、第20回日本アカデミー賞13部門独占受賞という快挙を果たした。その後、全世界でも公開され、国内に留まらず海外でも注目されるようになる。2005年には、ハリウッドでリメイク版も製作された。2007年、11年間の沈黙を破り、『それでもボクはやってない』を監督。痴漢裁判というセンセーショナルな題材でも話題を呼び、各映画賞を総なめにする。2011年にはバレエ映画『ダンシング・チャップリン』を、2012年には『終の信託』を発表。2014年には最新作『舞妓はレディ』が公開予定である。
- 1997年 第20回 日本アカデミー賞 作品賞 受賞
1997年 第20回 日本アカデミー賞 主演男優賞 役所広司 受賞
1997年 第20回 日本アカデミー賞 主演女優賞 草刈民代 受賞
1997年 第20回 日本アカデミー賞 助演男優賞 竹中直人 受賞
1997年 第20回 日本アカデミー賞 助演女優賞 渡辺えり子 受賞
1997年 第20回 日本アカデミー賞 監督賞 周防正行 受賞
1997年 第20回 日本アカデミー賞 脚本賞 周防正行 受賞
1997年 第20回 日本アカデミー賞 音楽賞 周防義和 受賞
1997年 第20回 日本アカデミー賞 撮影賞 栢野直樹 受賞
1997年 第20回 日本アカデミー賞 照明賞 長田達也 受賞
1997年 第20回 日本アカデミー賞 美術賞 部谷京子 受賞
1997年 第20回 日本アカデミー賞 録音賞 米山靖 受賞
1997年 第20回 日本アカデミー賞 編集賞 菊地純一 受賞
1997年 第20回 日本アカデミー賞 新人俳優賞 草刈民代 受賞
1996年 第70回 キネマ旬報 ベスト10 受賞 1位
1996年 第70回 キネマ旬報 男優賞 受賞 役所広司
1996年 第70回 キネマ旬報 脚本賞 受賞 周防正行
1996年 第70回 キネマ旬報 助演女優賞 受賞 草村礼子
1996年 第70回 キネマ旬報 新人女優賞 受賞 草刈民代 - 1996年 第51回 毎日映画コンクール 日本映画大賞 受賞
1997年 放送映画批評家協会賞 外国語映画賞 受賞
1996年 第39回 ブルーリボン賞 主演男優賞 受賞 役所広司
1996年 第21回 報知映画賞 作品賞 受賞
1996年 第21回 報知映画賞 主演男優賞 受賞 役所広司
1996年 第21回 報知映画賞 助演女優賞 受賞 渡辺えり子
1996年 第51回 毎日映画コンクール 監督賞 受賞 周防正行
1996年 第51回 毎日映画コンクール 男優主演賞 受賞 役所広司
1996年 第51回 毎日映画コンクール 女優助演賞 受賞 草村礼子
1996年 第9回 日刊スポーツ映画賞 作品賞 受賞
1996年 第9回 日刊スポーツ映画賞 主演男優賞 受賞 役所広司
1996年 第9回 日刊スポーツ映画賞 助演女優賞 受賞 草村礼子
1996年 第51回 毎日映画コンクール 脚本賞 受賞 周防正行
1996年 第51回 毎日映画コンクール 日本映画ファン賞 受賞
1997年 第20回 日本アカデミー賞 助演女優賞 ノミネート 草村礼子