演出家 石田昌也が語る
演出家 石田昌也が語る 『カンパニー -努力(レッスン)、情熱(パッション)、そして仲間たち(カンパニー)-』の見どころ<前編>
個性溢れるキャラクターが躍動するミュージカルやショーを生み出してきたベテラン演出家・石田昌也。2016年、珠城りょうが月組トップスターとして初めて主演を務めた『アーサー王伝説』を演出した石田が、再び月組で伊吹有喜氏の小説『カンパニー』を舞台化した新作に挑む。
原作『カンパニー』の魅力について。
バレエが題材となっていますが、少女漫画で描かれているようなプリンシパル(主役クラスのダンサー)が主人公の物語ではなく、地道にアルバイトとバレエを両立しているバレリーナが登場するなど、バレエ・ダンサーやバレエ団の裏側も丁寧に、リアリティー溢れる台詞で描かれています。その世界観に感銘を受けました。伊吹先生は執筆にあたって、バレエ団、バレエ教室で細かな取材をされたそうです。そして、普通なら脇役になるような人物にスポットを当てているのですが、そこにも私は惹かれました。今回、伊吹先生のファンを裏切るわけにはいかないですが(笑)、舞台は短い上演時間の中で緩急をつけないといけない。ですので、とにかく“人間”を描き出し、「舞台にしたらこうなるのか!」と思っていただける娯楽性の高いエンターテインメントを届けたいと思っています。
月組での舞台化にあたって。
宝塚歌劇の舞台はファンタジーやロマンのある作品が多く、現代の日本人の役を演じること自体が珍しいのですが、珠城りょう、愛希れいか、美弥るりかを中心とする今の月組だからこそ、『カンパニー』を舞台化したいという思いがあります。実際、原作を読みながら、月組を“カンパニー”として当てはめてみると、自然と映像が頭に浮かんできたので、とても魅力的な作品になるのではと期待しています。珠城が演じるのは、製薬会社総務部の青年サラリーマン、青柳誠二です。奥さんを亡くし気落ちしている彼が、出向先のバレエ団で色々な人に出会い、仲間意識の中で成長していくという物語です。派手なことはせず、縁の下の力持ちとして尊敬されるという役柄は、トップスターとしては難しいものになりますが、珠城なら英雄ではない普通のサラリーマンであっても、物語の主人公として存在することができると思いました。愛希は『グランドホテル』でもバレリーナを演じましたが、この作品で演じてもらうバレリーナはタイプが全く違います。美弥にも、これまでとは違う一面が見せられる役柄を演じてもらいます。出演者の新しい部分を引き出すのが我々座付き演出家の役目だと思っていますから、そういう面でも楽しみにしていただきたいです。
“新感覚のバック・ステージ・ミュージカル”ということだが。
バック・ステージものは、コーチや先生が出てきて、みんなで頑張り、何かひとつのものを目指す、創り上げるという物語ですが、この作品では「きれいごとばかりではない」というところまで描かれているのが“新感覚”だなと思います。タカラヅカでは「努力は必ず報われる、夢は必ず叶う」というのがテーマの基本にありますが、伊吹先生の小説では「個人の努力だけではどうにもならないことがある」ということに気付き、それを受け入れ、次の希望を見つけるということも描かれています。夢と希望を描いているけれど、いつもの宝塚歌劇とは少しベクトルが違うのですね。でも、そこが面白いと思いますし、私たちの等身大の姿に重なるのではないでしょうか。孤軍奮闘して頑張っているサラリーマン、日々の生活と両立しながらバレエの舞台に立つために努力するバレエ団員たちが、熱意や夢、希望を抱き、明日につながるものを探求するドラマになっています。40年近く宝塚歌劇団におりますが、こういった物語を描くことは、私自身としても新たな挑戦となりますね。
演出家 石田昌也が語る 『カンパニー -努力(レッスン)、情熱(パッション)、そして仲間たち(カンパニー)-』の見どころ<後編>
インタビュー<後編>では、出演者の魅力を中心に話を聞いた。
月組トップスター・珠城りょうの魅力について。
私が演出した『アーサー王伝説』で主演をしましたが、稽古でも舞台でも真摯な姿勢で月組をまとめ、きっちり物事を進めるところがまず魅力だと感じました。男役としての体格にも恵まれ、キザでニヒルなプレイボーイの役も似合うと思うのですが、今回演じる青柳誠二は、目立つことはしないけれども存在感があるという役。バレエなど芸術に関して初心者で女性に奥手、さらに原作から少しキャラクター設定を変えさせていただき、文学を愛し空手や柔道をしている文武両道の人物にしています。背中で演技をしないといけない難しい青柳役を、珠城なら魅力的に演じてくれるでしょう。
月組トップ娘役・愛希れいかの魅力について。
舞台人としての“体幹”がしっかりしているので、何をやっても芯のぶれないところが大きな魅力ですね。十分なキャリアを持っているのに、彼女自身はそれにおごることなく、自分がどうすれば全体がさらに良くなるのかを考えています。そういう部分が今回演じる高崎美波というバレエ・ダンサーの役の中にも反映されるのではないでしょうか。美波は素晴らしいテクニックと美貌を持ち、海外留学も経験しているのに、なかなか主役にはなれない。しかし、団員を気遣い、コンビニエンスストアでのアルバイトを頑張りながら、主役の座を目指し奮闘している。そんな中、会社の影の存在である総務部の青柳に惚れていく、美波という等身大のバレリーナ役で新たな魅力を発揮してくれるはずです。
月組男役・美弥るりかの魅力について。
彼女はいい意味で冷静な観察眼を持っていると感じます。例えば『エリザベート』のトート閣下のように、周囲を俯瞰で見ているようなところが魅力だと、『アーサー王伝説』に出演してもらったときにも思いました。星組から月組に組替えしてきましたが、すぐに順応し、いま、月組という庭で美しい大きな花を咲かせています。そんな彼女に今回、とても冷静なプリンシパル・高野悠を演じてもらいます。劇中の『新解釈版・白鳥の湖』では悪魔のロットバルトに扮しますので、そこもお見逃しなく。
作品の見どころ。
今作は、どこにでもいそうな“普通の人”が主人公で、その周りに通常は主役になりそうな個性の強い人物が登場します。本来、縁の下の力持ちであるはずの存在を中心に据えるという構図は、芝居としては難しいのですが、今の月組であればやりきってくれるはずです。もちろん、夢を届けるのが宝塚歌劇の舞台なので、衣装は多少デフォルメするなど、趣向を凝らす予定です。また、クラシックバレエのグループだけではなく、ヒップホップのヴォーカル&ダンスグループがあり、そのふたつがひとつの“カンパニー(仲間)”としてグッと結束するというところも見ていただきたいですね。お客様に楽しんでいただけるようにといろいろ考えておりますので、ご期待ください。
最後にお客様にメッセージを。
今作は皆様の身近にもいるような登場人物たちが繰り広げる物語です。その中で、珠城や愛希、美弥たちの新たな魅力を引き出したいと思います。三人をはじめとした“芝居の月組”が、しっかりと心の通った人間的な温かみをもって演じてくれるでしょう。伊吹先生の原作に敬意を払って、日本人のキャラクターならではのハートフルな物語をお届けしたいと思いますので、ぜひご覧ください。
【プロフィール】
石田 昌也
兵庫県宝塚市出身。1979年宝塚歌劇団入団。1986年『恋のチェッカー・フラッグ』(雪組)で演出家デビュー。ディナーショーや武道館コンサートを手掛ける一方で、2018年に雪組全国ツアー公演での再演が決定している『誠の群像』(1997年星組 初演)や『維新回天・竜馬伝!』(2006年宙組)など幕末の日本を舞台にしたオリジナル作品をはじめ、映画や小説を原作とした作品まで幅広いジャンルでの演出に挑み続け、好評を得ている。2016年には中世の騎士道物語をもとにしたフレンチ・ミュージカル『アーサー王伝説』(月組)の日本初上演の演出を担当し、この作品がトップお披露目公演となった珠城りょうの快活で包容力あふれる魅力を存分に引き出した。