『NEVER SAY GOODBYE』-ある愛の軌跡- の世界

演出家・小池修一郎と、世界で活躍する作曲家フランク・ワイルドホーン氏とのコラボレーションで生まれた傑作ミュージカル『NEVER SAY GOODBYE』-ある愛の軌跡-が、16年振りに、初演と同じ宙組の舞台に帰ってきます。2006年の初演で初舞台を踏んだ真風涼帆が、今回トップスターとして挑む、この作品の魅力についてご紹介します。   

STORY

1936年ハリウッド。「カルメン」を下敷きにした新作映画「スペインの嵐」の制作発表パーティーが開かれる。主演スターのエレン・パーカーや、エスカミリオ役の現役闘牛士ヴィセント・ロメロらが、居並ぶ。と、そこへ原作の戯曲を書いた社会派の新進劇作家キャサリン・マクレガーが現れ、自らの戯曲が改ざんされていると非難する。キャサリンはプロデューサーのマークたちと大喧嘩するが、そんな彼女の写真を撮る男が現れる。パリの風俗を撮影した写真集で一世を風靡しているカメラマンのジョルジュ・マルローその人であった。ジョルジュはエレンの愛人としてハリウッドに滞在していた。キャサリンはフィルムを返せと言うがジョルジュは拒絶する。
怒ったキャサリンは、マリブ・ビーチのジョルジュのアトリエまでフィルムを取り返しに行く。そこで見たジョルジュの未発表の写真の持つ社会性に、キャサリンは驚く。実はジョルジュはパリジャンではなく、ポーランド生まれのユダヤ人であり、母国の混乱を逃れパリに辿り着いたのだった。アメリカの知識人らしいキャサリンのものの見方を、ジョルジュは現実に即さない理想論だと諭す。キャサリンは、反発を越えて、ジョルジュに尊敬の念を抱いて行く。二人は、再会を約束して別れる。
折からスペインでは、ナチス・ドイツのオリンピックに対抗して、バルセロナで人民オリンピックの開催準備が進んでいた。スペイン共和国の文化省のカレラスは、マークたちを開会式に招く。闘牛士のヴィセントは、開会式に出場することとなり、興味を覚えたジョルジュは一同と共にバルセロナに赴く。
開会式のリハーサルたけなわの時、突然、一部のファシストである軍人がクーデターを起こし、内戦が始まったことが伝えられる。人々がパニックに陥る中、オリンピックの中止が決定する。人民オリンピックを快く思わないナチス・ドイツが、裏で画策していたのだ。スペインの存続を掛けた戦いの火蓋が切られたことを知って、ジョルジュは、その行方を記録しようと計画する。一方、世界作家会議に出席する為スペインを訪れたキャサリンもバルセロナに入り、二人は再会する。
ジョルジュは闘牛士を捨て、一人の民兵としてファシストとの戦いに参加するヴィセントの取材を重ねる。人民委員のアギラールは、キャサリンに共和国側の宣伝への協力を要請し、ジョルジュの写真も、世界中のメディアに発信される。風雲急を告げるバルセロナで、理想を実現しようとする二人の男女は、恋の炎を燃やし出す。しかし、内戦が呼び起こす歴史の渦は、二人を巻き込んで行く……   

主な登場人物

写真

ジョルジュ・マルロー(真風 涼帆)

パリを拠点に活躍する世界的フォトグラファー。ポーランドのワルシャワで生まれ、貧しい人々のために治療を施す医者の父を手伝いながら、自身も医者になることを夢見ていたが、母国の混乱を逃れて出国し、やがて写真家として成功を収める。
映画「スペインの嵐」制作発表パーティーで知り合ったキャサリンとバルセロナで再会を果たし、互いに惹かれあう。スペイン内戦の真実を記録するべく、その使命を燃やす。   

写真

キャサリン・マクレガー(潤 花)

新進気鋭のアメリカ人劇作家。自らの戯曲が原作となった映画「スペインの嵐」のシナリオ改ざんに憤り、抗議に押し掛けたパーティー会場で、ジョルジュと出会う。同じ志を持つジョルジュに強く惹かれ、彼がバルセロナで取材活動をする間、現地のラジオ番組で情報を発信し続ける。   

写真

ヴィセント・ロメロ(芹香 斗亜)

映画「スペインの嵐」でエスカミリオ役を演じる、バルセロナ出身の現役マタドール(闘牛士)で、ジョルジュの親友。ファシズムから祖国を守るため、民兵となって戦う。   

キーワード解説

激しく歴史が動いた1936年のスペインを舞台に展開する今作。当時のスペインと、それを取り巻くヨーロッパの国々では何が起こっていたのでしょうか。ジョルジュやキャサリンが記録し、伝えようとした時代の背景や、劇中の出来事にまつわる4つのキーワードを紹介します。   

ファシズム

第一次世界大戦後、社会不安が蔓延した時期に、イタリアからヨーロッパや世界各地に広がった全体主義的な国家体制で、独裁政権によって国民の権利や自由を抑圧した。その代表的な指導者として、イタリアのムッソリーニ、ドイツのヒトラー、ポルトガルのサラザール、そして今作の舞台であるスペインのフランコなどが挙げられる。   

人民オリンピック(オリンピアーダ・ポピュラール)

「人民オリンピック」は、1936年、ベルリンオリンピックに対抗してスペインのバルセロナで計画された大会。反ユダヤ主義、軍国主義を推し進めるナチス政権下のドイツ・ベルリンでの開催に反発し、20か国以上のオリンピック代表選手が賛同したものの、開催直前にスペイン内戦が勃発し、中止を余儀なくされた。   

スペイン内戦

1936年7月17日、スペイン領モロッコで起こった軍事反乱を皮切りに始まった内戦。この軍事クーデターは一般市民である労働者たちの武力抵抗によって一旦鎮圧されたが、ドイツ、イタリアの両ファシズム政権の援助を得た反乱軍は再び抗戦。一方の共和国軍には55もの国から共鳴した義勇兵が集まり、世界のファシズム勢力と反ファシズム勢力の代理戦争の状態となった。内戦は1939年に反乱軍の勝利で終結した。   

サン・ジョルディの祭り

バルセロナを中心とするカタルーニャ地方の祭り。ドラゴンに捕らわれた姫を助けた騎士サン・ジョルディが、姫に赤い薔薇を贈った、というロマンチックな伝説から生まれたとも言われる。
サン・ジョルディが殉教したとされる4月23日は、同地方では「サン・ジョルディの日」「恋人の日」と呼ばれ、カタルーニャの守護聖人サン・ジョルディを祝う風習が今も残っている。