『今夜、ロマンス劇場で』の魅力
月組新トップスター・月城かなとを中心とした新生月組が、ファンタジックな世界観で見る人の心を捉えた大ヒット映画の、初のミュージカル化に挑みます。
月組公演『今夜、ロマンス劇場で』をさらにお楽しみいただくために、原作となる映画、そして、今作の脚本・演出を手掛ける小柳奈穂子による映画を原作としたミュージカル作品をご紹介し、小柳の今作への想いに迫ります。
原作紹介
原作となった映画「今夜、ロマンス劇場で」は、数多くのヒットドラマを演出し映画「のだめカンタービレ」「テルマエ・ロマエ」シリーズを代表作に持つ武内英樹監督により、2018年に公開された、とびきりロマンティックなラブストーリー。ヒロインの美雪を綾瀬はるかさんが、映画監督を夢見る青年の健司を坂口健太郎さんが演じ、その奇跡のような純愛が、コミカルに、そして切なく描かれ、好評を博しました。
あらすじ
映画監督を夢見る青年・健司が密かに想いを寄せるのは、通い慣れた映画館・ロマンス劇場の映写室で見つけた古いモノクロ映画のお姫様・美雪。今は誰も見なくなったその映画を、毎日のようにくり返し見ていた健司の前に、ある日奇跡が起きる。美雪が健司の目の前に突然現れたのだ。その日から2人の不思議な同居生活が始まった。
モノクロの世界しか知らない美雪にカラフルな現実世界を案内する健司。同じ時間を過ごす中で、2人は次第に惹かれ合っていく。しかし、美雪にはある秘密があった。
切ない真実に2人はどう向き合い、どんな答えを出すのか──
登場人物紹介
美雪
モノクロ映画から飛び出したお姫様。スクリーンの中から見える色のついた世界に行ってみたいという想いから現実世界に飛び出してきた。健司と恋に落ちるが……。
牧野健司
映画会社の京映で助監督として働く真面目な映画青年。馴染みの映画館・ロマンス劇場で見つけたモノクロ映画のお姫様・美雪に恋をしている。
成瀬塔子
京映の社長令嬢。容姿端麗だが、恋愛には奥手な性格。映画監督を目指す健司のことを心から応援し、密かに恋心を抱いている。
俊藤龍之介
大人気映画『ハンサムガイ』シリーズの主演を務める、京映の看板スター。ナルシストだが超ポジティブな性格でもある。
山中伸太郎
健司と同じく京映で働く映画青年。健司のよき友であり、よきライバル。塔子に片思いしている。
本多正
健司が通うロマンス劇場の館主。お金にがめついが実は映画のことをとても愛している、健司のよき理解者。
吉川天音
老人が入院している病院の看護師。老人が持っている脚本に興味を示す。
病室の老人
余命いくばくもない病室の老人。結末が書かれていない映画の脚本を大事に持っている。
Check!! 月組公演のキャストは人物相関図へ
小柳奈穂子による映画原作ミュージカル
演出家・小柳奈穂子は、これまで映画の舞台化を多数手掛けてきました。原作のもつ魅力を生かした宝塚歌劇作品をつくり上げ、いずれも高い評価を得ています。
映画を原作とした、小柳による演出作品を紹介します。
『フットルース』(2012年雪組)
<主な配役>
レン・マコーマック:音月 桂
アリエル・ムーア:舞羽 美海
『Shall we ダンス?』(2013年雪組)
<主な配役>
ヘイリー・ハーツ:壮 一帆
ジョセリン・ハーツ:愛加 あゆ
エラ:早霧 せいな
『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(2015年星組)
<主な配役>
フランク・アバグネイル Jr.:紅 ゆずる
ブレンダ・ストロング:綺咲 愛里
カール・ハンラティ:七海 ひろき
『オーム・シャンティ・オーム -恋する輪廻-』(2017年星組)
<主な配役>
オーム・プラカーシュ・マキージャー/オーム・カプール:紅 ゆずる
シャンティプリヤ/サンディ:綺咲 愛里
ムケーシュ:礼 真琴(1月・東京国際フォーラム)/七海 ひろき(7月・梅田芸術劇場)
『幕末太陽傳(ばくまつたいようでん)』(2017年雪組)
<主な配役>
居残り佐平次:早霧 せいな
女郎おそめ:咲妃 みゆ
高杉晋作:望海 風斗
宝塚歌劇の2022年の幕開けを飾る月組公演。小柳奈穂子と月城かなと・海乃美月の新トップコンビ率いる月組とのタッグでお届けする、宝塚版『今夜、ロマンス劇場で』、ぜひ劇場でご堪能ください!
『フットルース』FOOTLOOSE Stage Adaptation by DEAN PITCHFORD and WALTER BOBBIE Based on the Original Screenplay by Dean Pitchford Music by TOM SNOW Lyrics by DEAN PITCHFORD Additional Music by ERIC CARMEN, SAMMY HAGAR, KENNY LOGGINS and JIM STEINMAN FOOTLOOSE is presented by permission of Toho Music Corporation on behalf of Rodgers & Hammerstein Theatricals, New York City. www.rnhtheatricals.com.
『Shall we ダンス?』~周防正行 原作・脚本・監督「Shall we ダンス?」(アルタミラピクチャーズ)より~
『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』CATCH ME IF YOU CAN The Musical Based on the DreamWorks Motion Picture Book by Terrence McNally Music by Marc Shaiman Lyrics by Scott Wittman, Marc Shaiman 原作映画/ドリームワークス 脚本/テレンス・マクナリー 作詞・作曲/マーク・シャイマン 作詞/スコット・ウィットマン 日本語脚本・歌詞、演出/小柳 奈穂子 “CATCH ME IF YOU CAN is presented through special arrangement with Music Theatre International (MTI). All authorized performance materials are also supplied by MTI. 421 West 54th Street, New York, New York 10019 USA Phone: 212-541-4684 Fax: 212-397-4684 www.mtishows.com”
『オーム・シャンティ・オーム -恋する輪廻-』(C)Red Chillies Entertainments Pvt Ltd./Asian Films Co.,Ltd.
『幕末太陽傳(ばくまつたいようでん)』~原作 映画「幕末太陽傳」(c)日活株式会社 監督/川島 雄三 脚本/田中 啓一、川島 雄三、今村 昌平~
演出家 小柳奈穂子が語る ミュージカル・キネマ『今夜、ロマンス劇場で』の見どころ
オリジナル作品のみならず、数々の映画の舞台化も手掛け、宝塚歌劇の新たな可能性を拓いてきた演出家・小柳奈穂子。新生月組の幕開けとなる公演で、多くの人々に愛される日本映画のミュージカル化に挑む。月組の大劇場公演を担当するのは初めてという小柳に、作品に懸ける意気込みを聞いた。
2022年の幕開け、大劇場はロマンス劇場に!
原作映画「今夜、ロマンス劇場で」の魅力とは?
ファンタジックな設定と、リアルな共感を生むストーリーに、1960年頃の日本の時代性が融合された映画です。そして、主演の綾瀬はるかさん、坂口健太郎さんの魅力が詰まった作品ですね。
初めて観た時、キャラクター設定、現実と映画の世界の交差、恋愛を主軸としたストーリーなど、宝塚で舞台化しやすいのではないかと感じました。
宝塚版『今夜、ロマンス劇場で』の見どころを教えてください。
映画が宝塚の世界観に近いので、あまり手を加えず、忠実につくるつもりです。ただ、舞踏会のシーンをさらに華やかにお見せするなど、宝塚らしさは追求したいですね。
また、原作では映像ならではの色彩表現が施されていましたが、舞台ではそこに拘らない形で、登場人物の心理によりフォーカスする形にしたいと思っています。
他には、劇中劇として挿入する映画の一場面を撮影するのですが、なかなかない機会なのでどのようなものができるか楽しみにしています。心強いスタッフの手で素敵な映像になると思いますので、ご期待ください。
コミカルな場面と切ない場面のどちらもある作品です。
私自身は、笑わせようとか、泣かせようということを特に意識はしていません。人生は笑えることばかりではないし、泣くことばかりでもない。一見、笑えるような出来事でも、見方によっては切なくなることもありますし、逆もまた然りで、それが人生だと思うのです。でも、そうは言ってもやはり観ているほうは笑ったり泣いたりしてしまう映画ですよね(笑)。
主人公の牧野健司が日々を一生懸命に生きた積み重ねの結末として、彼が考え得る最上のハッピーエンドを提示するところに感動があるのだと思います。そこに至るまでの心理をしっかり表現し、それに対してヒロインの美雪の気持ち──何を諦め、何を諦めなかったのかを、一つひとつ積み重ねて描きたいですね。
新トップスター・月城かなと時代の“芝居の月組”を
月城かなと演じる主人公の牧野健司は、映画監督を夢見て助監督として働く青年です。
繰り返し観てきた映画のフィルムを売却されると聞き、「僕は彼女(ヒロイン)に会えなくなったらもう生きていけません!」と本気で言うのですが、映画1本のことでそこまで思い込むような人物です。また、映画の中の憧れのヒロインが現実世界に出て来た時も、非常に受け入れが早い(笑)。この二点を見ても、結構極端なキャラクターであると言えます。でもその極端さは、なかなか監督になれないなど、現実の人生が上手くいっていないことが原因ではないでしょうか。だからこそ、映画の中に救いを求めているのであり、表面的に見える印象よりも切羽詰まった人なのだと思います。
感情の振り幅の大きい役ですね。
観ているぶんには等身大で演じられる役に思えますが、実は特殊な状況にある健司の心の動きを違和感なく見えるように演じるのは大変かもしれませんね。特に演劇の場合は尺が決められていますので、その中で気持ちを動かすのは困難な作業だと思います。そして、健司の性格を成立させて演じるのは、しっかり考えてつくるタイプの役者であればあるほど、余計に手間取るとも思います。宝塚の男役が時間をかけて身に付ける“男役の武器”とは違うもので演じなければいけないという意味では難しい役ですが、月城は心情の表現に長けた演技巧者なので、どのように演じてくれるのかとても楽しみです。
新トップスター・月城かなとについて。
私は今まで月組を担当することが少なく、博多座公演『川霧の橋』(2021年10~11月)まで、月組での彼女と組むことがありませんでした。久々に一緒に仕事をして、良い意味で本質的には変わっていないと感じましたね。トップスターというポジションを意識するのではなく、常に“役と自分”に向き合い、役をどう表現し、台詞をどう発するか、といった演技に対する突き詰め方は昔のままです。ただ、自分のことだけではなく、下級生にアドバイスしている姿に、頼もしさを感じますね。
新トップ娘役・海乃美月は、モノクロ映画から現実世界へと飛び出す王女の美雪を演じます。
美雪の魅力は、浮世離れした可愛らしいお姫様でありながら、お転婆でもあるところだと思います。おしとやかなお姫様像を求められることへの息苦しさから、自由な世界に憧れを抱き、自分の存在を認めてくれている健司にひと目会いたいと思うところなど、お客様の視点となり得る役ではないでしょうか。
お姫様と言っても、健司に対してはいたって普通の人間らしい感情で接しています。その“人間らしい”彼女の葛藤や、選択の先にある覚悟に、観客が共感し、心を動かされるのだと思います。
海乃もこれが大劇場でのトップ娘役お披露目公演ですが、ヒロイン経験が豊富ですし、浮世離れした雰囲気も上手く出してくれるだろうと思います。彼女は見かけによらず殺陣が大変得意ですので、美雪が格好良く暴れる姿にも期待しています(笑)。
月城と海乃の新トップコンビについて。
安定感があり、とても収まりの良いコンビですね。例えるなら、同じ画家が描いた、同じタッチの絵のような印象です。
お互いに舞台経験も豊富ですので、こちらから細かく提示しなくても、それぞれに考えてきたことを突き合わせてつくることができるプロフェッショナル同士だと感じます。どんな役を与えても大丈夫、という安心感がありますね。
鳳月杏が演じる映画俳優・俊藤龍之介の大スターぶりも楽しみです。
映画会社ごとに撮影所システムが確立されていた時代の看板俳優である俊藤が持つ、昭和の二枚目スターの雰囲気はすでに完成されていますので、何も言うことはございません(笑)。このまま鳳月の思うように演じてほしいですね。
殺陣を指導してくださっている清家三彦先生は、東映剣会の会長もやっていらっしゃる本物の映画人なのですが、その清家先生が、稽古場での鳳月を見て楽しそうに笑っていらっしゃるので、彼女の役づくりで間違いはないと確信しています。昭和の大スターがそこにいる、という存在感が満点なので、是非、皆様にも楽しみにしていただきたいと思います。
暁千星が演じる大蛇丸は、どのような役ですか?
劇中劇で美雪がお供の三獣士と一緒に闘う大蛇を擬人化したのが大蛇丸です。美雪を追って現実世界に飛び出し、健司とはある種三角関係のライバルになる、という役どころになります。ナルシストの王子様で、暁には弾けた演技を期待しています。原作映画の武内英樹監督が撮られた、別の作品に登場する個性的なキャラクターをイメージとして伝えたところ、色々な演技パターンを考えては試してくれて、それが本当に面白く、私自身も稽古場から楽しんでいます。見た目はビジュアル系でとても格好良いので、どうぞご期待ください。
風間柚乃が演じる山中伸太郎は、健司の親友であり、ライバルでもある役です。
伸太郎は、健司の助監督仲間の中でリーダー的存在です。彼らの葛藤を見ていると、私も演出助手時代は同じようなことを考えていたな、と思い出すこともありますので、風間にはそのような感情も表現してもらえたら、個人的に嬉しいです(笑)。助監督だけのナンバーでは、場面を引っ張る役割も果たしてほしいですね。
新生月組の印象はどうですか?
実は月組の大劇場公演を担当するのは初めてなのですが、自分が出ない場面も熱心に見て、コミカルなところでは笑い転げていて、とても明るい組だと感じています。何事にも全力投球で、見る人を楽しませようと稽古場から本気で仕掛けてくる、これは月組の伝統かもしれませんね。
感心するのは、例えば私が演技に関して「こうしてほしい」という注文を出すと、周りの上級生たちが具体的なアドバイスをして、次にはしっかり仕上がっているということです。よく“芝居の月組”と言われますが、それは芝居が上手な人が揃っているというだけではなく、みんなで協力し合って一つの作品をつくり上げていく力が強い、という意味だと感じます。受け身ではなく、場面を良くするために全員で試行錯誤してくれるので、今回のような比較的自由につくれる作品は、より月組の良さが発揮できるのではないでしょうか。
最後に、お客様へのメッセージをお願いします。
とても素敵な原作を、月城かなとと海乃美月のお披露目公演として上演させていただくことになり、私自身、楽しみながらつくっております。
宝塚歌劇の作品の中でも、現代の世話物のような感覚で観られる作品で、宝塚ファンの皆様には役者の新たな魅力をお届けできると思います。また、原作のファンで宝塚は初めてというお客様にも、入門編としてあまり身構えずにご覧になれる作品ですので、お気軽にお楽しみいただきたいですね。
幅広い層の方に喜んでいただける作品にしたいと考えておりますので、是非、観にいらしてください。
【プロフィール】
小柳 奈穂子
東京都出身。1999年宝塚歌劇団に入団。2002年、創世記のハリウッドで映画製作に情熱を傾ける人びとを描いた青春群像劇『SLAPSTICK』(月組)で演出家デビュー。コミックをミュージカル化した『アメリカン・パイ』(2003年雪組)、近未来を舞台にしたファンタジー作品『シャングリラ -水之城-』(2010年宙組)、「不思議の国のアリス」をモチーフにした『アリスの恋人』(2011年月組)など多様な作品を発表。宝塚大劇場デビュー作『めぐり会いは再び』(2011年星組)が好評を得て、翌年には続編『めぐり会いは再び 2nd ~Star Bride~』(星組)を上演した。2013年、2018年に実施された台湾公演でもその手腕を発揮し、高い評価を得た。アジアを舞台にしたコメディ作品『GOD OF STARS-食聖-』(2019年星組)では、音楽クリエイターのヒャダイン氏とのコラボレーションも話題を呼んだ。漫画や映画を原作とした作品にも定評があり、『Shall we ダンス?』(2013年雪組)、『ルパン三世 —王妃の首飾りを追え!—』(2015年雪組)、『オーム・シャンティ・オーム-恋する輪廻-』(2017年星組)、『幕末太陽傳(ばくまつたいようでん)』(2017年雪組)、『天(そら)は赤い河のほとり』(2018年宙組)、『はばたけ黄金の翼よ』(2019年雪組)、『はいからさんが通る』(2017年、2020年花組)など数多くの作品を手掛けている。2021年、博多座公演『川霧の橋』(月組)で、大劇場公演に先駆けて月城かなとのトップスターお披露目作品を担当。運命に翻弄される若者たちの心の機微を丹念に綴り、傑作と呼び声の高い時代物の再演を成功に導いた。