『壬生義士伝』の魅力
宝塚歌劇の新選組隊士たち
幕末から明治へと向かう時代の、大きなうねりのなかで生まれた新選組。そこには、今も数々の逸話とともに語り継がれる隊士たちがいました。
ここでは、これまでに宝塚歌劇に登場した、実在の新選組隊士たちをご紹介します。
ミュージカル・ロマン『星影の人』-沖田総司・まぼろしの青春-
(1976年雪組、1977年雪組、2007年雪組、2015年雪組)
新選組一番隊組長・沖田総司の、短くも激しい青春の日々を、沖田と芸妓玉勇との恋物語に焦点をあて、爽やかに、そして哀しく謳い上げた。
登場した新選組隊士
- 沖田総司(早霧せいな)、土方歳三(華形ひかる)、近藤勇(奏乃はると)、井上源三郎(鳳翔大)、山崎丞(蓮城まこと)、永倉新八(央雅光希)、山南敬助(彩凪翔)、佐藤忠四郎(煌羽レオ)、原田左之助(天月翼)、藤堂平助(和城るな)、高木剛(真地佑果)、並木祐一郎(水月牧)、斎藤一(真條まから)、篠原幸三郎(鳳華はるな)、江波大介(諏訪さき)、松本吉次郎(星加梨杏)、室宅之助(眞ノ宮るい)、伊東隼之助(ゆめ真音)
浪漫活劇『るろうに剣心』(2016年雪組)
かつて “人斬り抜刀斎”と恐れられた流浪人・緋村剣心が主人公の、大ヒットコミックを舞台化。新選組の生き残りとして、加納惣三郎と、斎藤一が登場した。
登場した新選組隊士
- 加納惣三郎(望海風斗)、斎藤一(彩風咲奈)
幕末ロマン『誠の群像』-新選組流亡記-(1997年星組、2018年雪組)
滅びゆく幕府に最後まで忠誠を尽くした、新選組副長・土方歳三の壮絶な生き様をドラマティックに描いた群像劇。
登場した新選組隊士
- 土方歳三(望海風斗)、山南敬助(彩風咲奈)、芹沢鴨(夏美よう)、近藤勇(奏乃はると)、山崎烝(透真かずき)、斎藤一(煌羽レオ)、谷三十郎(桜路薫)、原田左之助(天月翼)、永倉新八(真地佑果)、沖田総司(綾凰華)、井上源三郎(叶海世奈)、藤堂平助(鳳華はるな)
宝塚歌劇でも馴染み深い新選組を、新たな角度から描く、雪組公演『壬生義士伝』。
主人公・吉村貫一郎をはじめとする、さまざまな新選組隊士たちと、彼らを取り巻く人々の人間ドラマが鮮やかに紡ぎ出されます。
人物相関図で登場人物をチェックして、ご観劇をお楽しみください!
吉村貫一郎の生きた時代
決して信念を曲げず、己の“義”を貫き続けた新選組隊士・吉村貫一郎。そんな彼が生きた時代は、日本が大きく変化した時期でもありました。
一体どのようなことが起こっていたのかを、年表で見てみましょう。
下線のキーワードには解説があります
青字は小説「壬生義士伝」で描かれた、吉村貫一郎に関するできごとです
年 | できごと |
---|---|
1834 (天保5) |
奥州南部藩の下級武士の家に、吉村貫一郎生誕 |
1853 (嘉永6) |
ペリーが浦賀に来航、幕府に開国を要求 |
1858 (安政5) |
安政の大獄。尊皇攘夷派を弾圧 |
1862 (文久2) |
吉村貫一郎、南部藩を脱藩 |
1863 (文久3) |
|
1864 (元治元) |
池田屋事件、蛤御門の変(禁門の変)で、新選組は京都の治安維持と幕府擁護に貢献 |
1865 (慶応元) |
吉村貫一郎が新選組に入隊 |
1866 (慶応2) |
薩長同盟締結 |
1867 (慶応3) |
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1868 (慶応4) |
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1868 (明治元) |
雫石・橋場口の戦いに、吉村貫一郎の息子・嘉一郎(16歳)出陣 |
南部藩(盛岡藩)
江戸時代に陸奥国岩手郡盛岡地方(現在の岩手県)に藩庁を置いた外様藩。覇権争いに勝利した三戸南部氏26代南部信直が、1590年に豊臣秀吉より7郡の本領を正式に与えられ、藩となった。1870年に他藩よりも早く廃藩置県を実施し、盛岡県となるまで、その歴史は続いた。
安政の大獄
独断で日米修好通商条約を締結するなど、強引な政治を行っていた大老・井伊直弼が、自身に向けられる反感を封じ込めるため、大名や公家らを弾圧した事件。長州藩の吉田松陰などが処刑された。
尊皇攘夷
天皇を尊ぶ「尊皇」論と、他国からの干渉に対抗する「攘夷」論が組み合わさったもの。安政の大獄をきっかけに、この考えを支持する運動が激化していった。新選組の前身「浪士組」は、尊皇攘夷派の取締りにあたった。
浪士組
第14代将軍・徳川家茂が京の都に向かう際、警護のために幕府が募集をかけた。志を持つ者なら身分を問わず応募が認められ、三百人組と呼ばれるほどの大所帯となった。
八月十八日の政変
薩摩藩・会津藩などから成る公武合体派(朝廷と幕府の協力体制を望む勢力)が、長州藩を中心とする尊皇攘夷派の勢力活発化に危機感を抱き、長州藩と急進派公卿を一挙に朝廷から追放したクーデター。浪士組は会津藩の要請で出動し功績を挙げた。
池田屋事件
新選組が、旅館・池田屋で謀議中の長州藩など諸藩の討幕派を急襲、捕縛。御所放火計画を未然に防ぐ手柄を立てた。
蛤御門の変(禁門の変)
京都御所の蛤御門付近で起きた、長州藩と会津・薩摩藩との激戦。長州藩が敗れた。朝廷は御所を攻撃した長州追討の勅命を下し、第一次長州征伐が行われた。
王政復古の大号令
薩摩・長州両藩が中心となって発表した宣言。幕府による政治を廃止し、新政府を樹立させ、天皇を中心とした政治を行うとした。
鳥羽・伏見の戦い
幕府が朝廷に政権を返上した大政奉還後、新体制に不満を持つ会津藩を主力とする旧幕府軍と、薩摩藩を中心とする新政府軍が京都で衝突した戦い。新選組は旧幕府軍として参加した。この戦いを機に、1年半に及ぶ日本を真っ二つに分けた戊辰戦争が勃発。旧幕府軍は、函館で新政府軍の総攻撃を受けて力尽き、戊辰戦争は終結する。
新選組 組織図
さまざまな身分の者を広く受け入れ、いわゆる寄せ集め的な集団であった新選組。人数は常に大きく変動し、そのたびに組織を再編成し、隊をまとめてきました。ここでは吉村貫一郎が役職に就いていた頃の組織図をご紹介します。
原作「壬生義士伝」
雪組公演『壬生義士伝』の原作「壬生義士伝」は、作家・浅田次郎氏の代表作の一つとして、多くの読者に愛され、ドラマ、映画、コミックへと展開、幅広い世代に支持されてきました。そして今、タカラヅカの舞台に、新たな風を吹き込もうとしています。
実にさまざまなジャンルの作品を世に送り出し、時代小説も数多く発表してきた浅田氏。日本を舞台にした時代小説としては初めての作品である「壬生義士伝」は、広く人々の心を打ち、第13回柴田錬三郎賞を受賞しました。
週刊誌での連載スタートは1998年ですが、そのルーツは浅田氏が作家デビューする前、28歳の時に書いていた短編小説にあったといいます。新選組に惚れ込み書き上げた、その小説の主人公は、誰もが知る有名な隊士ではなく、無名の田舎侍でした。
時は幕末。鳥羽・伏見の戦いも決着が付きかけた頃、大坂は南部藩蔵屋敷に、傷を負った侍が辿り着きます。男の名は吉村貫一郎。北辰一刀流免許皆伝の剣の達人として新選組に重用されてきた彼が、ここに来るまでに何があったのか——約50年後、すっかり様変わりした時代まで生き長らえた人々の口を借り、それは徐々に解き明かされていきます。
家族を愛し、友を想い、故郷を慕い続けた吉村。そんな彼の生き様が浮かび上がるとともに、語り手たちもそれぞれの心に眠っていた“何か”に気づいていく壮大な仕掛けは、原稿用紙1200枚にも及ぶ大作を、一気に読ませる力強さに満ちています。