演出家 谷貴矢に注目

デビュー以来、個性的かつファンタジックな作品で新風を巻き起こしてきた、注目の若手演出家・谷貴矢。本年担当した往年の名作『ダル・レークの恋』の潤色・演出では、一転、古き良き時代を繊細に表現し、その実力を裏付けました。
宝塚大劇場デビュー作となる花組公演『元禄バロックロック』の上演にあたり、彼のこれまでの作品を振り返ってみましょう。   

花組公演『アイラブアインシュタイン』(2016年宝塚バウホール)

  

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愛とは何か、アンドロイドに人間の感情を持つことができるのか、をテーマに繰り広げるセンセーショナルなデビュー作。主演の瀬戸かずや演じる天才科学者アルバートと亡き妻に似たアンドロイドが、亡き妻との失われた記憶を追う過程で答えを見つけるも、思いがけない結末を迎える…。大きなテーマにエンターテインメント性をもたせて魅せる手法に、演出家としての大いなる可能性を見せました。   

谷貴矢が語る ~制作時のコメントより~

主人公のアルバートと同じく、タカラジェンヌも“研究者”であると私は思います。彼女たちは、先人たちが積み重ねてきた大きな遺産の上に、熱い情熱を持って、日々研究を重ねています。今回、瀬戸かずやという優秀な研究者と共同研究ができたことを、非常に嬉しく思います。そして我々の研究成果が、少しでも皆様の心になんらかの作用を与え、これからのそれぞれの道に小さな影響をもたらせたら、これに勝る幸いはありません。   

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<主な配役>
アルバート:瀬戸 かずや
ミレーヴァ:桜咲 彩花
トーマス:水美 舞斗
エルザ:城妃 美伶

雪組公演『義経妖狐夢幻桜(よしつねようこむげんざくら)』(2018年宝塚バウホール)

  

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次に挑んだのは“源義経”を題材にした、日本によく似た国の、よく似た人々によるおとぎ話。従来の日本物とは異なる、ビビッドなビジュアルも話題になりました。主演の朝美絢と美貌の武将・源義経のイメージの調和性を巧みに利用し、その裏に往来する主人公の懊悩を見事に浮かび上がらせた意欲作です。   

谷貴矢が語る ~制作時のコメントより~

「源義経=チンギスハン説」を最初に知った中学生の頃、荒唐無稽なその説には、子供心に大きなトキメキを感じたのを覚えています。そのトキメキに対し誠実にチャレンジした結果、この作品もファンタジー性を多分に含むものになりましたが、私の真の願いは、荒唐無稽さそのものを見せることではなく、それでこそあぶり出せる現実世界や人間の本質を見せたいこと、そして、それを体現する朝美絢の新たな超人的魅力を見せたいということ、それに尽きます。   

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<主な配役>
ヨシツネ:朝美 絢
ツネ:星南 のぞみ

月組公演『出島小宇宙戦争』(2020年シアター・ドラマシティ/東京建物 Brillia HALL)

  

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宇宙の真反対に位置する、パラレルワールドでの出島を舞台にした物語。幕末に起こったシーボルト事件を題材に、主人公のカゲヤスが宇宙人から日本地図を守るため繰り広げるファンタジックな物語が、テンポよく展開します。和と洋の混在する舞台に放たれた主演の鳳月杏の多面的な光が複雑に反射し、無二の空間を構築。宝塚歌劇の新たな未来を映し出しました。   

谷貴矢が語る ~制作時のコメントより~

開国前夜という新しく変わる瞬間の世の中と、男役としてのキャリアを積みつつさらにイメージを掻き立ててくれる、主演の鳳月杏の姿に感じるトキメキがリンクして出来た作品です。作品の主軸に据えた“月”は、ちょうどよくフィクションとリアルの狭間にあると思います。そんな夢物語こそ、宝塚という夢舞台で素敵に紡ぎたい。その思いのもと、未知の世界に向けて一歩一歩踏みしめ中です。   

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<主な配役>
カゲヤス:鳳月 杏
タキ/カグヤ:海乃 美月
リンゾウ:暁 千星

月組公演『ダル・レークの恋』(2021年TBS赤坂ACTシアター/シアター・ドラマシティ)

  

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インド北部のダル湖を舞台に、若き騎兵大尉ラッチマンと貴族の娘カマラの身分違いの恋、そして運命的な結末を描いたドラマチックな名作。菊田一夫氏が書き下ろし、後に酒井澄夫がリメイクした作品を、潤色・演出として担当。月城かなとを主役に据え、宝塚歌劇の伝統を守りながら、心の機微をより映し出すために台詞の言い回しの変更や新曲の追加をしたほか、“水の精”という役を創作。作品に新たな命を吹き込みました。   

谷貴矢が語る ~制作時のコメントより~

宝塚歌劇が脈々とこの百年受け継いできたのは、”守るべきものとチャレンジの天秤を、リスペクトを持って考え続ける精神”だと思います。そして宝塚の魅力は、進むべき先に確かな道標があることです。そこには必ず、人間の理想に対する願い、人の世のプラスのエネルギーへの信念がこめられています。時代によらず普遍的に存在するそのエネルギーが、今この新時代に戸惑い迷う我々の道標になりますように。   

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<主な配役>
ラッチマン:月城 かなと
カマラ:海乃 美月

先人たちへの感謝と敬意を胸に、その広い見識と着眼点でチャレンジの限界を模索する谷。宝塚歌劇の魅力を研究し続ける彼が手掛ける『元禄バロックロック』は、古来より人々に愛され続けてきた忠臣蔵の物語を下敷きに、今の花組の魅力を盛り込んでお届けする、エンタメ感たっぷりの作品です。
伝統と革新のなか紡ぎ出されてきた宝塚歌劇作品の歴史に、また新たな一頁が刻まれます。どうぞご期待ください。

>>制作発表会 演出家コメントをチェック

  

【プロフィール】

谷 貴矢

東京都出身。2011年2月、宝塚歌劇団に入団。2016年『アイラブアインシュタイン』(花組)で演出家デビュー。アンドロイド技術が発達した架空の世界を舞台に、ドラマチックな展開を見せて注目を集める。2018年『義経妖狐夢幻桜(よしつねようこむげんざくら)』(雪組)では、源義経と頼朝の物語を和風ロックファンタジーに大胆にアレンジ。観客を巧みに異次元へと誘う演出が好評を博した。2020年『出島小宇宙戦争』(月組)では、長崎の出島を舞台に多彩な登場人物が活躍する奇想天外なストーリー展開で、出演者の新たな魅力を引き出すことに成功。2021年2月『ダル・レークの恋』(月組)では潤色・演出を手掛け、不朽の名作の世界観に新鮮さを加味した舞台は好評を博した。史実とフィクションを巧みに織り交ぜたSFタッチの作風が光る新進演出家であり、11月から始まる花組公演『元禄バロックロック』で宝塚大劇場公演デビューを飾る。