演出家 岡田敬二が語る

ロマンチック・レビュー『モアー・ダンディズム!』の見どころ

宝塚歌劇のレビュー史に燦然と輝く“ロマンチック・レビュー”シリーズの中でも、特に“男役の美学”を追求した“ダンディズム”シリーズ。宝塚レビューに愛と情熱を注いできた演出家・岡田敬二に、“ダンディズム”シリーズ第三弾となる今作への意気込みを聞いた。   

変わることのない“美学”を魅せる!

宝塚歌劇における“ダンディズム”とは?

“ダンディズム”は、19世紀にイギリスで使われるようになった言葉です。元は、勇気や孤独、女性に対する献身など多くの意味を含んだ言葉ですが、宝塚歌劇におけるダンディズムとは、男役の凛々しさ格好良さ、美しさ、そしてその中の儚さといった、男役に求める理想の姿そのものを指します。本物の男性を超越した理想の男性像をどこまで演じられるのかというところが、男役の一つの美学だと思います。
よく“男役10年”と言われるように、それを極めるにはとても長い年月が必要です。しかし、だからこそ生まれるのが、宝塚でしか演じられない、美しい男性像であり、ダンディズムではないでしょうか。   

対して、娘役の美学とは何でしょうか?

男役には、女性が演じるならではの独特の魅力がありますよね。一方で、娘役は、男役の魅力に呼応して、女性が演じる女性として、より一層美しく可憐であることが特徴的です。男役と娘役のどちらもが十分に魅力を出しあうためにも、娘役の美を引き出すことが、私の作品づくりのポリシーの一つでもあります。
今作でも、『ビューティフル・ピープル』(1976年花組)の中の一場面「ビューティフル・ラブ」を新たに構成した、娘役だけのロマンチックな場面を用意しておりますので、宝塚の娘役ならではの魅力をお楽しみいただけると思います。   

“ダンディズム”シリーズ第三弾となる今作では、どのようなダンディズムを見せたいですか?

第一弾は真矢みきさんを中心とした花組で『ダンディズム!』(1995年)を、第二弾は湖月わたるさんを中心とした星組で『ネオ・ダンディズム!』(2006年)を上演し、その時々で最善のものをつくってきました。第二弾から10年以上が経ち、現代のダンディズム像とは何だろうかとあらためて考えたのですが、宝塚歌劇を応援してくださる幅広い世代の皆さまに、いつの時代も我々が追い求めてきた美学が感じられる作品をご覧いただきたいと思っています。
今回の主演の礼真琴は、男役の中でも稀有な個性を持つスターですので、彼女ならではのダンディズムを描くのは、私にとって魅力的であると同時に取捨選択が難しくもありました。そんな中、55分という限られた時間でも、礼真琴、そして星組男役のダンディズムを、ページをめくるごとに趣を変えるように、バラエティに富んだ構成でお見せしますので、どうぞご期待ください。   

場面ごとにストーリー性のある作品をつくられますが、今回はどのような場面がありますか?

どの場面にもテーマを決め、起承転結、つまり物語性を持たせていますが、第2章の「ミッション」の場面が、ストーリー性という意味では特に挙げられますね。ここでは兵士に扮した礼真琴が、あるミッション(使命)を持って戦地に赴きます。舞空瞳扮する恋人への想いなど、謝珠栄先生振付のダンスでストーリーをお見せします。
芝居では時間をかけて描くことも、レビューでは1場面5分前後でお伝えしなくてはいけません。とても難しい作業ですが、逆にレビューでしか表現できない魅力もあります。この場面も、歌と踊りを融合させて、一つの想いを昇華させるようなつくり方をしていますので、楽しみにしていただきたいですね。   

シリーズを象徴する場面も楽しみです。

『ダンディズム!』以降も度々再演している「キャリオカ」の場面を入れました。ラテンの名曲を、ビギンやタンゴ、ロックなど、様々にリズムを変化させて一つの場面を構成しています。音楽とダンスだけで盛り上がりを見せる、これもまさにレビューの極致ですね。
そして同じく『ダンディズム!』から、「ハードボイルド」の場面も入れました。ワイルドで男臭い、新たな礼真琴を見せてくれるだろうと、大いに期待しています。   

礼真琴率いる星組が繋ぐレビューの灯

トップスター・礼真琴の、レビュースターとしての魅力は?

礼は、私が担当した『Amour それは…』(2009年宙組)で初舞台を踏んでいますが、スターをたくさん輩出している95期の中でも、当時から抜きん出て優秀な印象がありました。すべてにおいて満点なスターです。“満点”と、言葉にするのは簡単ですが、なかなかあり得ないことで、それこそが彼女の最大の特長ではないでしょうか。
ただ、いわゆる王子様的な男役ではなく、モダンで若々しくてシャープなタイプですので、その持ち味をどう魅せるかが彼女自身の課題ですし、どう生かしていくかは、演出家としての課題でもあると思っています。   

トップ娘役・舞空瞳の魅力は?

舞空が私の作品に出演するのは初めてですが、彼女のこれまでの舞台を観ていると、歌、踊り、芝居、どれをとっても素晴らしく、非常にバランスのとれた才能のある娘役だと感じています。今回の作品では礼だけでなく、舞空にも七変化してもらいますから、それぞれの場面でどのような色を見せてくれるか、とても楽しみです。未知の可能性を感じさせる彼女にとって、今作が大きな節目となれば嬉しいですね。   

この公演は男役スター・愛月ひかるの集大成になりますね。

退団する愛月のために、3場面用意しました。まずは、『ラ・ノスタルジー』(1986年月組)で作曲家の小椋佳さんにつくっていただいた「おもい出は薄紫のとばりの向う」を一人で歌ってもらいます。また、彼女は軍服がとても似合うので、オペレッタの名作「The Student Prince」の楽曲「Golden Days」で、軍人士官や淑女たちと踊る場面をつくりました。そして、フィナーレ前には、「アシナヨ」という韓国の曲を使った、礼、舞空、愛月の3人の場面を用意しています。愛月の魅力をたっぷりお見せできると思いますので、ファンの方には是非期待していただきたいですね。   

瀬央ゆりあにはどのようなダンディズムを?

瀬央には『ラ・パッション!』(1989年雪組)の主題歌を、銀橋で歌ってもらいます。彼女は大変な努力家で、今まさに素晴らしい男役へと成長を続けていますね。役者は作品によって育つと言いますが、元々力のあるスターですから、この作品でさらに、星組のためにも、宝塚歌劇団のためにも、大きく成長してほしいですね。   

レビューへの想いを教えてください。

残念ながら、日本ではレビュー作品に日が当たることは、芝居に比べて未だに少ないのが現実です。この“ロマンチック・レビュー”シリーズも『モアー・ダンディズム!』で21作目を数えますが、こうして私がつくり続けることによって、たくさんの、そして幅広い層の方々に、宝塚歌劇とレビューの魅力を知っていただきたいと思っています。そして、レビューを観終わった後、幸せな気分で、明日への希望を胸にお帰りいただきたいというのが、私がいつも抱いている想いです。
レビューは、歌、踊り、音楽、衣装、セット、照明など、すべての要素が統合されてこそ成り立つものです。そのどれか一つでも欠ければ、総合芸術として認められません。非常に繊細な芸術ですが、若手演出家の先生方も続いてくれていますし、21世紀もレビューの灯が消えることなく、ますます燃え上がることを願っています。   

最後に、お客様へのメッセージを。

礼が率いる星組は、内容的にパンチが効いていると言いましょうか。彼女が与えるインパクトが星組全体に影響して、非常にエネルギッシュな組だなと感じています。これまで多くのレビューをつくってきましたが、今の星組のカラーを最大限に生かせるよう、最善を尽くして取り組んでいます。
お客様には是非、この作品で宝塚歌劇の魅力をあらためて感じて、楽しんでいただければ嬉しく思います。どうぞよろしくお願いいたします。   

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【プロフィール】

岡田 敬二

1963年4月、宝塚歌劇団入団。1967年『若者達のバラード』(星組)で演出家デビュー。1974年文化庁海外研修員として1年間の海外留学を経て帰国後、『ザ・レビュー』(雪組・花組)で1977年度芸術祭大衆芸能部門2部優秀賞を受賞。『アップル・ツリー』-三つの愛の物語-(1979年花組・雪組初演)、『ディーン』(1981年月組初演)、『キス・ミー・ケイト』(1988年花組)など海外ミュージカルの演出を数多く手掛け、『グランドホテル』『BROADWAY BOYS』(1993年月組、『グランドホテル』は2017年月組で再演)ではアメリカ演劇界の第一人者トミー・チューン氏と共同演出し、話題を呼ぶ。ドイツ・ベルリン公演の『サンライズ・タカラヅカ』(2000年)、リチャード・ロジャース生誕100年記念『With a Song in my Heart』—君が歌、わが心に深く—(2002年月組)、宝塚歌劇90周年記念『タカラヅカ・グローリー!』(2004年雪組)、宙組誕生20周年を祝う『シトラスの風-Sunrise-』 ~Special Version for 20th Anniversary~(2018年)など、記念碑的な公演でも手腕をふるい、観客の期待に応えた。レビューでは、1984年『ジュテーム』(花組)を皮切りに、伝統的な様式に独自の美学を反映し「ロマンチック・レビュー」と銘打った作品を大劇場公演でシリーズ化。『ラ・ノスタルジー』(1986年月組)、『ル・ポァゾン 愛の媚薬』(1990年月組)、『シトラスの風』(1998年宙組)など、常に新鮮でエレガントなオリジナルレビューを次々に発表。「ロマンチック・レビュー」から生まれた『ダンディズム!』(1995年花組)と、そのリバイバル場面を織り交ぜて構成した『ネオ・ダンディズム!』—男の美学—(2006年星組)では、男役の美学を追求し、“ダンディズム”シリーズとしてファンの熱い支持を得た。『ロマンス!!(Romance)』(2016年)以来の星組作品『モアー・ダンディズム!』は、シリーズ最新作となる。1996年から2004年にかけて株式会社宝塚クリエイティブアーツ代表取締役社長を務めるなど、宝塚歌劇のエンターテインメント事業に従事。宝塚歌劇のみならず、外部舞台でもミュージカルやレビューの演出を手掛け、日本の舞台演劇において不動の地位を確立している。