演出家インタビュー
演出家 正塚晴彦が語る 『私立探偵ケイレブ・ハント』の見どころ
1976年に宝塚歌劇団に入団、デビュー作『暁のロンバルディア』(1981年星組)で、早くも才能を見せた演出家・正塚晴彦。手塚治虫氏の名作漫画を初ミュージカル化した『ブラック・ジャック 危険な賭け』(1994年花組)など、硬派な作品を中心に独自の世界観を築き上げてきた。タンゴを巧みに盛り込み複雑な人間心理を描いた『ブエノスアイレスの風』-光と影の狭間を吹き抜けてゆく…-(1998年月組)、主演の宙組トップコンビが菊田一夫演劇賞を受賞した『BOXMAN—俺に破れない金庫などない—』(2004年宙組)など、男女の揺れる心や関係性を、自然な会話やしぐさから引き出してゆく。正塚にとって雪組の宝塚大劇場・東京宝塚劇場公演は、心に傷をもつ刑事が主人公のハードボイルドな『ロジェ』以来6年ぶり。久々の雪組公演を前に意気込む正塚に話を聞いた。
早霧せいなの優れた感覚が生かされる等身大の男
——早霧せいな演じる主人公のケイレブ・ハントとは?
タイトルにもあるように、ケイレブ・ハントは「私立探偵」を生業としているのですが、決して一般的な職業ではないですよね。ストレートに「私立探偵」という職に就いたというより、彼はさまざまな道をたどってきているわけです。その中で正義に基づいた生き方、人間としての矜持みたいなものを持っている、そんな人間らしい人物です。「等身大の男」と言うと簡単ですが、あくまで男役が演じますので、“そういう人いるよな”というところを、早霧なら男役として成立させてくれると期待しています。
——早霧せいなの演技に対して感じていることは?
舞台で“生きている”というのを感じさせる人ですね。芝居の役はこの世には存在しないわけなので、それを存在するように“見せる”のではなく、役の言動の原因になる部分を自分なりに見つけて自らがつくっていくというのが、一番説得力があると思います。2010年の雪組公演『ロジェ』で早霧が演じた「クラウス」は、単なる殺し屋ではなく組織の目的があって、という面がありかなり複雑です。そこを色々と想像して演じるわけですが、早霧は自分の感覚を生かして役をうまく創り上げてくれました。
——どのような作品を目指していますか?
私はこれまで2回ほど探偵物の芝居を創りましたが、どちらかというとシリアスな作風でした。今回は笑いの要素も取り入れた探偵物で、事件解決に向けてリスクとの板挟みになるなど、各人の想いやプライベートな部分もしっかりと描いていきたいです。笑いとは言っても、早霧が3枚目の役を演じるのではなく、人物同士のやりとりから、思わず笑ってしまうような要素がにじみ出てくる、そんな作品を創りたいと思っています。
トップコンビの魅力、人材豊富な男役が引き立つものを
——主人公とその恋人の関係性については?
ケイレブと、その恋人イヴォンヌ(咲妃みゆ)は恋人同士で互いの生き方を尊重しながら、新たな段階へと踏み出す機会を見出せずにいるところからスタートします。
二人の関係は「恋人同士」で、決してうまくいっていないわけではありません。そこから次の段階、つまり“結婚”ですね、その段階へ踏み出せない二人というわけです。今回の早霧と咲妃の役は、はじまりから恋人同士なので、その関係性をしっかりとお見せしたいです。
咲妃みゆが演じるイヴォンヌは、自立している大人らしい女性です。彼女にとって、今回の役は挑戦になるでしょう。彼女は宝塚音楽学校の予科時代から演技のセンスがあったので、さらにどう成長しているのか、稽古場が今から楽しみでもあります。
——主人公には探偵仲間がいるようですが。
まず、望海風斗が演じるジム・クリードは、映画業界に精通し、監修のようなことをしている人物です。ケイレブとは根本的な部分で価値観が一致していて、共同出資者として一緒に探偵事務所をやっています。望海は最近、早霧と敵対する「悪役」が続いていましたが、望海自身はゆったりおっとりとした部分も持ち合わせています。今回は、そのような空気感が出る望海自身に近い役になるのではないかと思います。
もう一人の探偵仲間はカズノ・ハマー、彩風咲奈が演じます。彼女は学年的にも3人の中で一番若いので、突っ走っていくようなキャラクターを演じてもらいます。
今の雪組は、早霧を中心に男役の人材が豊富という印象がありますので、そういう特性やトップコンビの魅力がどう引き立つかも考えて、雪組に添うものにしたいと思っています。
——今の雪組から“ひらめき”があったようですが。
そうですね。雪組は早霧せいな主演で、映画『ローマの休日』といった恋愛物の名作の舞台版を直近で上演しました。映画をご覧になったお客様にはとても懐かしく感じるような原作の良さを残している一方で、今の雪組らしい新しい作品にもなっていると思います。私の担当する作品では、さらに新鮮で味わい深いものを目指したいですね。
『私立探偵ケイレブ・ハント』は1950年代のアメリカが舞台で、制作発表でのパフォーマンスの際に早霧と咲妃が披露した「シティ・ラプソディー」のように、曲自体もその時代をイメージしています。懐かしいと感じる半面、物語のクライマックスで各人が各人で色んな想いを歌い継いでいく大きなナンバーを、という構想もありますので、今の雪組だから実現し得る新しさを感じていただけるのではないでしょうか。
——男役の格好良さ、作品づくりで大切にしていることは?
一人ひとりのキャラクターがさまざまなシーンで岐路に立ち“選択”をするときに、観ている側を納得させられるか、ということです。それが出来れば作品としても、面白いものになると考えています。“格好いい”というのは外見ではなく「そいつの生き方が格好いい」と思わせなければなりません。
——お客様へメッセージを。
久しぶりの宝塚大劇場・東京宝塚劇場での新作、そして雪組公演の担当となります。稽古場では、出演者とライブでコミュニケーションを取りながら、今の雪組の魅力が最大限に生きるように、そして作品としても面白くなるように、取り組んで行きます。どうぞ楽しみにしていてください。
演出家 稲葉太地が語る 『Greatest HITS!』の見どころ
2006年にシアター・ドラマシティ公演『Appartement Cinéma(アパルトマン シネマ)』(花組)で演出家デビューを果たした稲葉太地。時代の寵児たちにスポットを当てた『Celebrity』(2012年星組)やジャズのリズムが胸を焦がす『Mr.Swing!』(2013年花組)、熱いラテンの世界『パッショネイト宝塚!』(2014年星組)など次々と勢い溢れるショー作品を発表。2015年、日本古来の美が息づくレビュー作品『宝塚幻想曲(タカラヅカ ファンタジア)』(花組)が好評を博し、同年の台湾公演でも上演、宝塚歌劇の魅力を印象づけた。常に新しいテーマに挑み、スターの魅力を引き出す稲葉が、自身の宝塚大劇場・東京宝塚劇場公演デビュー作『Carnevale(カルネヴァーレ) 睡夢(すいむ)』(2010年)以来6年ぶりとなる雪組公演で、どのような作品を生み出すのか……。今なお愛され続ける数多の楽曲に乗せて展開する今作について、稲葉に話を聞いた。
さまざまな名曲でスターの個性を生かす
——制作発表会で披露したショーのパフォーマンスについて。
早霧せいな、咲妃みゆ、望海風斗の出演者3人が、遅くまで自主稽古もしてくれたようで、その成果がとてもよく出た完成度の高いパフォーマンスだったと思います。冒頭の早霧のシーンは、ソウルミュージックで幕が開く実際のショーのオープニングとは異なる場面となりますが、今作のテーマにもある“クールでホットな早霧”の一端をお見せできたのではないでしょうか。
——現時点での演出プランは?
名曲に乗せて描き出すショーです。まず、お客様が曲を聴いて、当時のご自身を思い出し、何かを感じていただけたらという思いがあります。また、馴染のある曲を使うことで、お客様と出演者が密なコミュニケーションを図ることができるのではないかと考えています。そこを目指して、さらにエンターテインメント性豊かな作品を創りたいと思います。
——曲の年代やジャンルは?
『Greatest HITS!』というタイトルなので、アメリカの楽曲が多くなると思いますが、幅広い年代やジャンルの曲を取り入れたいです。一番の盛り上がりの中詰は、クリスマスの楽曲で展開します。幕開きはソウルミュージック、そこからジャズになったりクラシックになったり、という流れを考えています。さらに、望海風斗が制作発表会で披露した主題歌に加えて2曲のオリジナルナンバーもあります。高橋城先生、太田健先生、お二人のオリジナル曲で、宝塚歌劇の“Greatest HITS!”を感じていただけたら嬉しいですね。
——バラエティに富んだ作品になりそうですが。
今の雪組は、早霧せいなを筆頭に下級生に至るまで、色々な男役が揃っている印象があります。それぞれの個性がありますから、曲に対してどのような個性が発揮されるのか、私自身も楽しみにしながら今作のテーマを選びました。
2016年を締め括る洋物ショー。“歌謡祭”的な楽しさを届けたい
——ずばり、雪組トップスター・早霧せいなの魅力は?
やはり“エネルギッシュ”なところですね。いつもモチベーションが高く、そのパワーが周りの人にも波及していく……。観た人が元気になれるポジティブさが、彼女の一番の魅力だと思います。今作では楽しいサンタクロースからセクシーな場面まであり、男役だけで踊るシーンも考えています。雪組を率いてどのような格好良さで魅せるのか、彼女の持つ多面的な魅力を最大限に味わっていただけるような作品にしたいです。
——雪組トップ娘役・咲妃みゆの印象は?
『タカラヅカスペシャル2015 -New Century,Next Dream-』で、各組トップ娘役4人で「ドリームガールズ」の楽曲(And I Am Telling You I‘m Not Going)を歌う場面を担当した時、咲妃はいい意味でイメージを裏切ってくれました。とても格好良かったのです。そんな彼女には、可愛らしさだけではない、一人でたくましく生きる女性像のような場面を担当してもらう予定です。
——トップコンビとしての見どころは?
実はフィナーレ前、本編の最後には、舞台空間をめいっぱい使った早霧&咲妃のデュエットダンスを考えています。トップコンビといえば大階段でのデュエットダンスが定番ですが、本編の終わりを二人のダンスで締めようと思っています。二人の代表的なデュエットダンスと言われるような目玉のシーンになれば嬉しいです。二人の結びつきを楽しみにされているお客様が多いと感じていますので、舞台の奥行きを生かしたスケール感のある、これぞ“ちぎみゆ”といったデュエットダンスにご期待いただければと思います。
——トップコンビ以外にも魅力的な出演者が揃っていますが。
まず、望海風斗には素晴らしい歌唱力を生かした場面を創ろうと思っています。彼女が最近主演した『ドン・ジュアン』でも感じたのですが、色っぽさも魅力の一つ。早霧せいなと望海という並びのバランスも非常に良いので、「もう一人の早霧」が「望海」という二人のアダルトなシーンも取り入れたいですね。
——その他の主な出演者の印象は?
雪組を支える中心の一人、彩風咲奈は男役としての方向性が定まり、最近は特に役を演じていても本人の魅力がストレートに伝わってくるように感じます。さらに色々なキャラクターを表現してもらいたいですね。そして、男役として安定感のある彩凪翔は、アイドル的な魅力に加え、男役としての色気も増してきた印象を受けます。一方でコミカルな役づくりもはまる人なので、ショーでどのように魅了してくれるのか、色々な場面で彼女に求めていきたいです。また、成長著しい月城かなとは、端正できれいなイメージの中に見える“人間らしさ”を今作のショーで発揮してもらいたいと思っています。
——ショー作品の中で大切にしていることは?
何よりも“娯楽”であることです。お芝居とショー、合わせて約3時間、お客様に「タカラヅカって楽しいな」と思っていただけるものにしたいと常々考えています。作品そのものにエンターテインメント性が溢れ、明日からも元気に頑張ってもらえる作品を創ることを目指しています。
——お客様へメッセージを。
雪組にとって一年ぶりの宝塚大劇場・東京宝塚劇場でのショー作品となりますので、出演者がどのように輝き発散するかを楽しみにしていただきたいと思います。また、今年最後の洋物のショーとなります。まさに“歌謡祭のような”楽しい作品を目指しますので、どうぞご期待ください。