原作者インタビュー
宙組公演『天(そら)は赤い河のほとり』 原作者インタビュー<前編>
今作の原作者であり、累計発行部数1900万部を超える名作「天は赤い河のほとり」を生んだ漫画家・篠原千絵先生のインタビューを前後編でお届けします。
インタビュー<前編>では、原作「天は赤い河のほとり」について伺いました。
本作品は古代オリエントのヒッタイト帝国が舞台になっていますが、もともとこの時代や場所に興味をお持ちだったのですか?
いえ、最初はシルクロードに興味があり、その最終地点に近く、一番訪れやすい場所としてトルコに足を運びました。そして、たまたまトルコの中央部にあるハットゥサ(ヒッタイト帝国の首都)の遺跡を訪れた時、ただ礎石(そせき)だけが残る大地をみて、その空気感に心を奪われてしまったと言いますか……。「いつかここを舞台にした漫画を描きたい」と思ったのがきっかけです。遺跡の絵で終わるラストシーンがその場で浮かび、そこに辿り着くために「天は赤い河のほとり」を描き続けていたように思います。
篠原先生にとって1995年から2002年まで7年半という最も長期の連載となった作品であり、思い入れも深いですか?
そうですね。やはり願いが叶って描かせていただいた作品であり、連載後、長い時を経た今も、こうして舞台化することで皆さんに思い出していただく機会をもらえて、幸せな作品だと感じます。私が描いた漫画ですが、手が離れた子どもを見守るような気持ちでいます。漫画家として、そう思える作品を描けたことが、本当に嬉しいですね。
現代の日本人の中学生(宙組公演では高校生)・鈴木夕梨(ユーリ)が、古代にタイムスリップするところから物語がスタートします。
当時連載していた「少女コミック」(小学館)を読んでいる、10代半ばの女の子が共感しやすいように現代の普通の少女をヒロインにして、対するヒーローは女の子が憧れる“王子様”という設定にしました。もともとは完全な古代物にするつもりだったのですが、この設定のおかげで、私としても物語を動かしやすかったです。
先日、16年ぶりに新作エピソード「天は赤い河のほとり ~書簡~」(小学館「Sho-Comi」2018年6号に収録)が発表されました。
描いていて「久しぶり」という感じはなかったです。今回の舞台化のお話もあり、あらためて読み返したり、編集部の方とも作品のことを話したりしていたからだと思います。この新作は私にとって、素敵なタイミングでした。ずっとお仕事させていただいている雑誌「Sho-Comi」の50周年で「読み切りを描きませんか」と言われていた時に、タカラヅカでの舞台化のお話をいただき、それなら「天は赤い河のほとり」のエピソードを描こうと、すんなり決まりました。
主な時代背景は古代オリエントですが、時代考証ではご苦労されたのではないでしょうか?
ヒッタイトの歴史を伝える資料は本当に少ないので……。でも、ザナンザ(カイルの弟・ヒッタイト帝国の第4皇子)がエジプト王国へ婿入りする道中で行方不明になった、というのは文章でも残っているんですね。数少ない実在の人物とエピソードなので、ぜひ描きたいと連載当初から思っていました。
あまり資料がないなかで、ビジュアル面で参考にされたものはありますか?
絵を描くうえで参考となる資料はほとんど残っていないので、ビジュアル面は創ってしまってもいいのかなと。服装などは壁画に残っている古代エジプトの装束を参考にし、あとは現代の中東やアフリカの民族衣裳をモデルに描いていました。今回の宙組さんのポスターを拝見して、衣装も雰囲気もとても素敵で嬉しくなりました。
宙組公演『天(そら)は赤い河のほとり』 原作者インタビュー<後編>
インタビュー<後編>では、宙組公演への期待や、出演者の印象を伺いました。
宝塚歌劇で舞台化、というお話を最初にお聞きになった時のご感想は?
タカラヅカをはじめ、舞台を観るのは大好きなので、ものすごく嬉しかったです! タカラヅカは母が大好きだったので、劇場へ連れて行ってもらっていました。私が初めて自分から母に「観にいきたい」とリクエストしたのは、『ベルサイユのばら』だった記憶があります。原作の漫画も読んでいましたし、舞台を観た後も深く心に残りました。
舞台などからインスピレーションを受けることも多いですか?
お芝居やミュージカルを観て感動すると、自分ももっと作品を描きたいなと刺激を受けます。常に感性は磨きたいと思っていて、劇場や美術館へ足を運ぶのもそうですが、さまざまな方の創作物で感動する、というのは大きなインスピレーションになります。また、それぞれの“場所”に出かけるのが好きで、「天は赤い河のほとり」の舞台となったトルコには、これまで20回近く訪れています(笑)。中高校生の頃から歴史が好きなので、日本では奈良も大好きですね。
今回の宙組公演には、どのような期待をされていますか?
タカラヅカと少女漫画はコンセプトが似ていると感じるので、違和感は全くないだろうと思います。“普通の女の子に、格好いい王子様がどうアプローチするか”、ということで少女漫画の読者はドキドキしますが、タカラヅカの舞台とも共通するのではないでしょうか。先程、宙組トップコンビのお二人にお会いしましたが、私が想定していたカイルとユーリにとても近くて、素敵なお二人でした。
カイルを演じる宙組トップスター・真風涼帆の印象はいかがでしたか?
昨年、宙組公演『神々の土地』『クラシカル ビジュー』を拝見し、舞台での凛々しくて格好いい印象から、普段はクールな方かと思っていました。でも、実際はとても気さくで優しくて、柔らかい雰囲気の方で、そのギャップに驚きました。口ベタな私をリードしてくださり嬉しかったです。
真風が演じるカイルはどのような想いを込めて描いていらっしゃいましたか?
カイルはユーリにとって最大の理解者であり、女の子が憧れる王子様、というところを意識していました。ユーリへのアプローチも“ヒーロー”として紳士的な接し方だと思います。
ヒロイン・ユーリを演じる宙組トップ娘役・星風まどかはどのような印象でしたか?
とても可愛らしい方で、ユーリを演じてくださるのが嬉しいですね。観客と同じ目線であるユーリを、上手に表現してくれるのではないかと思います。
芹香斗亜が演じる、エジプトのラムセス将軍については?
ラムセス(ラムセス1世)は、史実上エジプトの第19王朝を興し、ファラオになる人物です。カイルとは完全に対極にいるのではなく、同じような器の大きさがあり、民を率いる者としての目指す方向は同じなのだけれど、目的を達成するためのルートが違う人物というポジションで描いていました。
宙組公演『天(そら)は赤い河のほとり』の内容をお聞きになった感想をお願いします。
単行本全28巻という長い作品なので、約1時間半の舞台にまとめるのは大変だろうなと思っていたのですが、キャラクターの性格、魅力、エッセンスを取り込み、ギュッと凝縮してくださっていて、「素晴らしい!」のひと言です。
宙組の稽古をご覧になって、いかがでしたか?
普段から舞台が大好きなので、演出家の方の指示でどんどん作品が形になっていくのを目の当たりにし、「実際の舞台ではどれだけ進化しているのだろう」と楽しみになりました。貴重なお稽古を拝見でき、「漫画家になって良かった」とも思える時間でした(笑)。
この公演はタカラヅカファンはもちろん、篠原先生の原作ファンの方も、期待してくださっていると思います。最後に、メッセージをお願いします。
少女漫画と宝塚歌劇の世界観は通じる部分がたくさんあるので、タカラヅカのファンの方で少女漫画をあまりご覧にならない方も、少女漫画が大好きだけどタカラヅカの舞台は観たことがないという方も、楽しんでいただけるのではと……!私もいち観客として、ただただ楽しみにしております(笑)。公演にぜひ足を運んでいただけたら私も嬉しいです。
【プロフィール】
篠原千絵 しのはらちえ
1981年「紅い伝説」(コロネット1981年冬の号)にてデビュー。
代表作「闇のパープル・アイ」で第32回、「天は赤い河のほとり」で第46回小学館漫画賞を二度受賞。
ファンタジー、ミステリーなど幅広いジャンル、また、小説などでも活躍中。
現在は『姉系プチコミック』(隔月刊・偶数月5日発売)にて、200万部突破の人気ヒストリカルロマン「夢の雫、黄金の鳥籠」(1~10巻発売中。最新11巻は4月10日発売)を執筆中。