楽曲提供のドーヴ・アチア氏 来宝インタビュー
囲み取材<前編>
宝塚歌劇花組公演『CASANOVA』の全楽曲をご提供いただくドーヴ・アチア氏が、11月8日(木)、宝塚を訪れ、作・演出を担当する生田大和、花組トップスター・明日海りお、花組トップ娘役・仙名彩世を交えて、囲み取材が行われました。
『CASANOVA』の楽曲制作を依頼された時の感想。
アチア:私の作品が日本で知られるようになったきっかけは、タカラヅカでの上演です。プロフェッショナルかつ才能豊かな皆さまが、作品に対する私の思いを尊重しながら、日本の文化と巧みに融合させ、フランス版に負けずとも劣らないものへと仕上げてくださったことに驚き、心から感動しました。今回、私にとっての新たなチャレンジとなる機会をいただけたことを、本当に嬉しく、光栄に思っております。
アチア氏に楽曲制作を依頼した経緯。
生田:まだ『1789 -バスティーユの恋人たち-』(2015年月組)の演出助手を務めることも決まっていない頃、渡仏した際に、偶然オリジナル版『1789』のCDと出合い、ドーヴさんの楽曲に恋をして、繰り返し聴いておりました。
今回、明日海・仙名のコンビで一本物作品を担当させていただくことに、私のキャリアではまだ早いのではないかという大きなプレッシャーを感じていましたが、「自分にとってタカラヅカとは何か」という問いに向き合う絶好の機会であると前向きに捉えるようになりました。この『CASANOVA』含め、数本の候補作を考えていましたが、どんな時代のどんな物語であるにせよ、フレンチ・ミュージカルのような、現代性を伴ったポップなテイストが欲しいと考えていましたので、大好きな『1789』を手掛けられたドーヴさんの大きな力をお借りできないかという思いに至り、今回のコラボレーションの運びとなりました。
全曲がアチア氏による書き下ろしと聞いた時の感想と、アチア氏の楽曲について。
明日海:大変驚きましたし、今でもまだ信じられない気持ちでいます。月組の『1789 -バスティーユの恋人たち-』で、初めて劇場でドーヴさんの作品を拝見しました。1幕最後に歌われる「声なき言葉(LES MOTS QUE L’ON NE DIT PAS)」は、メロディーやリズムが持つ格好よさの奥に、登場人物たちが背負っている運命の過酷さ、彼らの強い意志、刹那的な感情、そして愛と慈しみなどを感じ、いつまでも耳と心から離れませんでした。その後、フランスの方が歌われている楽曲も聴いていたほど大好きな曲のひとつです。
仙名:以前からドーヴさんの楽曲や舞台作品をたくさん拝聴、拝見していたこともあり、このような素敵な機会をいただき、大変光栄に思っております。ドーヴさんの楽曲はとてもエネルギッシュですし、心に沁みるものも多く、魂に訴えかけてくる素晴らしいものばかりです。私はロック・ミュージカルに出演した経験がありませんが、今作でどのような楽曲に出合えるのか、とても楽しみにしています。
イタリアを舞台にした『CASANOVA』での、楽曲の構想について。
アチア:私の父も祖父もイタリアにルーツがあり、私の中にはイタリア人の血が流れていることから、イタリア文化には馴染みがあります。楽曲はモダン・ロックをベースに、イタリアらしさをアクセントとして入れる予定です。マンドリンやチェンバロといった楽器を用いたり、ワルツのような曲調にしたり、抒情詩的な雰囲気を加えたりしたいと思っております。
『太陽王』や『ロックオペラ モーツァルト』も同じ手法なのですが、あらゆる世代に対して訴求力がある現代音楽を、他の要素と融合させるよう意識し、古い題材を現代のテイストへとアップデートするような作品づくりを心掛けています。『CASANOVA』に関しても、現代的なものを基礎として、そこに少しずつ古典的なテイストを入れていく形で創ろうと考えています。
生田:女性にとても愛されたカサノヴァは、タカラヅカの男役が演じるにふさわしいと感じましたし、ドーヴさんとお仕事をするにあたっては、イマジネーションを共有しやすい人物ではないかと思います。ドーヴさんがイタリアにルーツをお持ちだというのは、今初めて聞きましたが(笑)、それも含めさまざまな要因が、この舞台を創るための、ある種の必然に向かって結び付いていったような感覚がありますね。
囲み取材<後編>
タカラヅカのための制作で感じること。
アチア:『太陽王 ~ル・ロワ・ソレイユ~』(2014年星組)で初めてタカラヅカを観るまでは、女性が男性を演じることに懐疑的な気持ちもありましたが、観た瞬間、そんなことはすぐに忘れてしまいました。男性を演じきる皆さまの完成度に大変驚き、感銘を受けました。今では、男役の方々は男性的な歌もきっと歌い込めると信じていますので、タカラヅカのために特別にクリエイティブになる必要性は意識していません。強いて言いますと、男性が普通に歌う音域とは若干異なり、男役のパートは少し低めに、娘役のパートは少し高めにして、お互いの音域に少しの開きをつけることで、コントラストを出していきます。
明日海、仙名の印象。
アチア:お会いした瞬間から、お二人がトップスターでいらっしゃる理由がすぐにわかりました。これまでフランスのプリンシパル級の方々とも何度も仕事をしてきましたが、お二人には、彼らに共通する器の大きさを感じます。そして、実際に歌を聴かせていただきましたが、とても素晴らしい歌声でした。お二人の声質や雰囲気を活かしながら、お会いした時に感じたインスピレーションを作曲にも盛り込んでいきたいと思っております。出演者の皆さまの歌声が、素晴らしい響きとなって客席にお届けできるよう曲を作りたいです。
アチア氏の曲を歌うにあたって。
明日海:ドーヴさんの曲が宝塚歌劇の舞台から生み出され、それを歌わせていただけることが本当に幸せです。一曲一曲を大切に、ドーヴさんが思い描かれているものをきちんと表現できるよう、頭の中で柔軟にイメージしながら、お稽古に臨みたいと思っております。
仙名:今は一緒に舞台を創らせていただけることが大変嬉しく、本当にワクワクした気持ちでいっぱいです。ご提供くださる曲を全身全霊で受け止め、世界観をどんどん拡げていけるように精進していきたいと思っております。
最後に、公演に向けて。
アチア:『CASANOVA』のお話をいただいたことは、私にとって新たなエネルギーを感じる挑戦であり、大変興奮しています。特に、伝統的な部分を残しながら新しい発想でお客様を驚かせたいという、生田先生の豊富なアイデアに刺激をいただいています。私はあらゆるサプライズには慣れているつもりでしたが、生田先生は常にそれを超えた提案をしてくださるんですよね。お客様に喜んでいただける、たくさんのサプライズが詰まった作品になるでしょう。私自身、とても楽しみにしています。
生田:今ドーヴさんから嬉しいお言葉を頂戴しましたが、私の方こそドーヴさんから大いに刺激をいただいています。ドーヴさんと共通する私の想いは、創作において「失敗を恐れず、挑戦することの大切さ」です。今回のコラボレーションにおいて、とても重要なことだと捉えています。ドーヴさんといろいろなアイデアを出し合いながら、この作品を創っていきたいと思っております。
リスクを恐れず、新しいことを仕掛けたいと意気込むドーヴ・アチア氏と生田大和のコラボレーションで綴る、愛と自由の人、ジャコモ・カサノヴァの生涯。明日海りお、仙名彩世ら花組メンバーが舞台で繰り広げる冒険譚『CASANOVA』に、どうぞご期待ください!
【プロフィール】
ドーヴ・アチア(Dove Attia)
フランスの作曲家。理工系の学問を修得しながら、ミュージカル界へと転進した異色の経歴を持つ。その才能は、1999年に共同製作した『十戒』にて開花。フランスで瞬く間に前代未聞の大ヒットを遂げると、『風と共に去りぬ』(2003年)、『アウトロー』(2004年)と、立て続けに作品を発表。2005年には、ルイ14世のヴェルサイユでの生活を小説風に潤色した『太陽王』を創作。台本と楽曲の両方を手掛け、大成功を収める。その3年後にはモーツァルトを18世紀のロックスターとして独創的に表現した『ロックオペラ モーツァルト』が劇的なヒットを果たす。続く『1789-バスティーユの恋人たち』『アーサー王伝説』発表の頃には、『太陽王』や『ロックオペラ モーツァルト』が多くの国で上演され始める。これらの作品は日本で特に歓迎され、『太陽王 ~ル・ロワ・ソレイユ~』(2014年星組)で、ついに宝塚歌劇の舞台に登場。以後、『1789 -バスティーユの恋人たち-』(2015年月組)、『アーサー王伝説』(2016年月組)も上演され、大好評を博す。これまで手掛けた8つのミュージカル作品は、フランス国内だけで約700万人の観客を動員。うち3作品は、現在もフランスの観客動員記録トップ5に入っている。
花組公演
祝祭喜歌劇『CASANOVA』
公演情報
- 宝塚大劇場:2019年2月8日(金)~3月11日(月)
[一般前売:2019年1月5日(土)] - 東京宝塚劇場:2019年3月29日(金)~4月28日(日)
[一般前売:2019年2月24日(日)]