演出家 酒井澄夫が語る
酒井澄夫が語る スペース・レビュー・ファンタジア 『Éclair Brillant(エクレール ブリアン)』の見どころ<前編>
宝塚歌劇の伝統を汲んだ華やかで優雅なレビューを数多く送り出し、観客に夢のひと時を提供し続ける演出家・酒井澄夫。星組とは『Bouquet de TAKARAZUKA(ブーケ ド タカラヅカ)』(2017年)でタッグを組み、魅力を熟知している酒井に、新作に掛ける想いを聞いた。
タイトル『Éclair Brillant』に込めた想い
直訳すると“華麗な稲妻”という意味なのですが、紅ゆずる率いる星組が放つ輝きから、煌めく閃光をイメージして付けたタイトルです。紅が世界中を回っていくなかで、様々に場面が展開していきます。華麗な輝きを持って舞い降りてきた、星の王子様のような雰囲気を出してもらえたらいいですね。
構成について
プロローグの後はまず、“ひとり星の上で”という場面をつくりました。これはフランスを代表するシンガーソングライターで俳優でもある、ジルベール・ベコーのシャンソンのタイトルで、私の大好きな曲です。実は私がこの曲に抱いていたイメージが紅と結び付き、そこからこのレビューを構想しています。いわば“始まりの始まり”ですね。もちろん紅には、この素敵な「ひとり星の上で」を歌ってもらいます。
その次は、礼真琴を中心にしたパリの場面です。礼には、“風の精”という役をやってもらいます。パリの下町に吹く風によって物語が展開する、少しファンタジックなシーンに仕上げました。そして、エネルギッシュなラテンの中詰、情熱的なスペインのボレロを経て、ジャズが流れるニューヨークの場面が登場します。
先ほど申し上げた通り、構成自体は世界を巡るスタイルをとってはいますが、セットなども含めて、それぞれの国のイメージを大胆に抽象化しています。お客様のイマジネーションでさらにレビューの世界を膨らませていただけたら嬉しいですね。
今作の見どころ
すべてと言いたいところですが(笑)、ひとつ挙げるならば、紅ゆずるの男役の集大成に相応しく、クラシカルな黒燕尾の場面に、少し趣向を凝らしてみました。100周年でもお世話になった千住明氏の楽曲「風林火山~月冴ゆ夜~」を、上妻宏光氏が演奏する三味線の音に乗せ、紅を中心とした男役たちに颯爽と踊ってもらう予定です。この豪華な組み合わせに、羽山紀代美先生が素敵な振りを付けてくださいました。紅を中心とした今の星組を感じていただける、見せ場のひとつになると思います。
トップコンビの見せ場について
プロローグ、中詰めのラテン、ボレロ、そしてフィナーレまで、二人の姿をファンの皆さまの目に焼き付けていただこうと、デュエットの場面はたくさんご用意しています。
私自身、紅と綺咲の初めてのオリジナルレビュー作品となった『Bouquet de TAKARAZUKA(ブーケ ド タカラヅカ)』を担当し、そして今回のサヨナラ公演も演出することになりましたので、深い縁を感じますね。この二人はとてもタカラヅカらしいコンビで、見た目の華やかさに加えて、非常に相性も良く、素晴らしいトップコンビになってくれたと思います。
二人の集大成となる素敵な作品になるよう、スタッフを含め出演者一同、稽古に励んでいますので、どうぞ楽しみにお待ちいただければ嬉しいです。
酒井澄夫が語る スペース・レビュー・ファンタジア 『Éclair Brillant(エクレール ブリアン)』の見どころ<後編>
インタビュー<後編>では、紅ゆずるら出演者や、星組の魅力を中心に話を聞いた。
星組トップスター・紅ゆずるについて
『コインブラ物語』(2009年)に出演してもらったのは、彼女が新人公演を卒業して間もない頃でしたが、タカラヅカのスターとしての特別な何か——個性的な輝きのようなものを感じました。生まれ持った“スター性”とでも言うのでしょうか。存在感で十分勝負のできる人だなと思ったことを覚えています。
その後彼女は、弛まぬ努力と、持ち前の圧倒的な輝きをさらに磨き、今では押しも押されもせぬ、素晴らしいトップスターに成長してくれました。退団公演となる今回も、彼女の培ってきた経験と“紅らしさ”を生かして、一際輝いてほしいと思います。
星組トップ娘役・綺咲愛里について
綺咲は、可愛らしくも美しくもなれる貴重な娘役ですね。トップ娘役に就任した頃では想像できないほど、そこにいるだけで存在感を感じるような、スケールの大きなトップ娘役になったと思います。経験とともに自信を付けてきた証ではないでしょうか。
今回が最後の作品となりますから、紅とのコンビネーションをたっぷりお見せしたいですね。ラテンの場面では、彼女が中心となるシーンもありますので、どうぞ楽しみにしていてください。
礼真琴について
技術的にも素晴らしいものを持っている優等生タイプの人ですが、紅の傍で学んできたことが、今まさに実を結んでいるのだと思います。タカラヅカの伝統はもちろんですが紅を中心に、より個性が磨かれてきた星組の伝統も引き継いでほしいですし、今後がとても楽しみですね。今回の作品でも、どのように魅せてくれるのか、私自身も期待しています。
瀬央ゆりあについて
組の中でも中心的存在のひとり、瀬央ゆりあは随分と頼もしい存在になりました。私が担当した『ガイズ&ドールズ』(2015年)で新聞売りの役がとても印象的でしたが、あれからスターとしての頭角をメキメキと表し、包容力を感じさせる、いい男役になったと思います。今後のさらなる飛躍が楽しみなひとりですね。
専科から出演の華形ひかるについて
彼女は何でもこなしてしまう優秀なスターです。今回は、ラテンやジャズの場面で活躍してもらう予定なのですが、専科からの出演だということをあまり意識せず、彼女の個性を生かして、星組出演者の中で伸び伸びとやってほしいと思っています。これまで積み重ねて来た経験が形となって、それが自然に出てくるでしょうから、星組の下級生たちにも良い刺激を与えてくれるはずです。
その他の出演者について
綺咲や礼、瀬央だけでなく、紅を頂点とした今の星組は、下級生から上級生に至るまで、個性豊かに芸名で勝負しているなと感じて、誇らしく感じます。今作でも、個性を各々に発揮してくれると期待を寄せています。
紅ゆずるの退団公演を演出するにあたって
演出家として宝塚歌劇団に入団して、最初に携わったのが星組の仕事で、その後も私の演出家人生において、星組とは深く関わってきました。紅とも仕事をするようになって、あらためて感じるのは、“ショーの星組”と称されるように、昔から星組はショー、レビューの魅せ方が巧みだということです。もちろん芝居にも星組ならではの味わいがありますが、パッと華やかな空気をつくる、独特な明るさを持っているからかもしれません。その時代、時代のトップスターの個性で組の色合いは変わっても、そういった特質は常に変わらなかったように思います。紅ゆずるもその伝統を見事に引き継ぎ、ショースターとして存分に輝いてくれました。紅の有終の美に、ぜひご期待ください。
お客様へのメッセージ
今や本格的なレビューを上演できる場所は、世界的に見ても希少な存在になっていますが、タカラヅカレビューの歴史は90年を超え、さらに若い世代の感覚による素晴らしい作品も生まれています。私自身も、宝塚歌劇に根付く伝統を今後も継承し、守るべき部分を守りつつ、新しいものを創っていきたいですね。その意味でも、紅ゆずるは現代的でありながら、宝塚歌劇の伝統的なスターの色を持っているので、今回も彼女を中心に、今の星組の魅力を充分に引き出した輝かしい作品をお届けできればと考えております。どうぞご期待ください。
【プロフィール】
酒井 澄夫
大阪府出身。1959年宝塚歌劇団入団。華やかで麗しい宝塚歌劇ならではのレビュー演出を多数手掛ける一方、『夜明けの序曲』(1982年花組・1999年花組)、『花舞う長安』-玄宗と楊貴妃-(2004年星組)などのオリジナル芝居の作・演出から、『ガイズ&ドールズ』 -GUYS & DOLLS-(1984年月組・2002年月組・2015年星組)、『ハウ・トゥー・サクシード』(1996年花組・2011年雪組)といった海外ミュージカルの脚色・演出、コンサートやディナーショーの作・演出まで幅広いジャンルでその手腕を大いに発揮。2017年には、紅ゆずる・綺咲愛里のトップコンビとなった星組が初めて挑むレビュー作品『Bouquet de TAKARAZUKA(ブーケ ド タカラヅカ)』を担当。自身の名作『セ・マニフィーク』(1977年星組)のテーマ曲を用いるなど、タカラヅカレビューの伝統継承を意識した演出で、広く新旧のファンにアピールした。宝塚歌劇の伝統と品格を知る、まさに“宝塚歌劇のエキスパート”として活躍を続けている。