ヒャダイン氏×小柳奈穂子 対談
ヒャダイン氏×小柳奈穂子 対談<前編>
J-POP、アニメソングをはじめ、映画やゲーム音楽まで、幅広いジャンルの楽曲を提供しつづける音楽クリエイターのヒャダイン氏と、タカラヅカとの初コラボレーションが、演出家・小柳奈穂子の熱いラブコールにより実現! 星組公演『GOD OF STARS-食聖-』に掛ける意気込みや制作秘話など、楽しいトークが繰り広げられた一部をご紹介しましょう。
宝塚歌劇の印象
ヒャダイン:観る前はなんとなく、先入観がありましたね。わかる人にはわかる、わからない人にはわからない世界なのではないかと。それに、男性の僕にはどうもハードルが高く感じられて、なかなか足を運べずにいました。
小柳:チケットの取り方も最初はわかりませんしね。
ヒャダイン:そうですね、どうやって取ればいいんだろう?って(笑)。 “一見(いちげん)さん”が観に行っても大丈夫かなぁ、なんて思っていたのですが、いざ観劇してみると、もうメチャメチャに楽しいエンタテインメントでした。男役はひたすら格好良く、娘役はとにかく可憐で。他では感じることのできない感情というか、なんだか宇宙を漂っているみたいな気持ちでしたね、“これは一体…?”と(笑)。観終わった時には“タカラヅカ最高!!”となっていました(笑)。
小柳:(笑)。
楽曲を依頼された時について
ヒャダイン:オファーをいただいた時は“本当に僕?なぜ?”と正直、不思議でした。でも、あらすじを伺って“なるほど”と(笑)。
小柳:以前からヒャダインさんの曲が大好きで、ずっと聴かせていただいていました。起伏に富んだ構成のユニークさがタカラヅカの舞台にピッタリだと感じていて、“この作品を完成させるためには、ヒャダインさんの楽曲が必要だ!”と思い、お願いしました。
ヒャダイン:わぁ、それは嬉しいな!
小柳:それに、いつかヒャダインさんの曲を使った作品をタカラヅカで観てみたいと思っていたので“その夢が叶うじゃないか!”と(笑)。
ヒャダイン:自分が観たいものをつくる、ということですね。
小柳:まずそれが一番にありましたね。お受けいただけるか不安でしたが、ご快諾いただけて嬉しかったです。タカラヅカからのオファーには驚かれましたか?
ヒャダイン:驚きましたよ! 驚きと同時に、“夢の世界に関われるんだ、やったー!”という喜びがありましたね(笑)。
主題歌「GOD OF STARS」について
小柳:出来上がった楽曲をお聴きした時、子供の頃に慣れ親しんでいたアニメのオープニングの雰囲気を感じて、「これ!これ!」って興奮しました。
ヒャダイン:僕の中の“チャイナ”を全部出しました(笑)。
小柳:打ち合わせの時、ヒャダインさんが「プロローグの曲は、まず銅鑼の音で始めましょう」とおっしゃったので、「よし、伝わった、もう大丈夫!」と安心して帰りましたね(笑)。
ヒャダイン:メインとなる曲は、紅ゆずるさんが一番格好良く、男っぽさを出せるキーを、とことん意識してつくりました。紅さんのパートは紅さんのためのメロディーですから、別の方が歌うパートはまた別のメロディーに変えていき、小柳先生の構成を取り入れながら、最後はオールスターで一つのメロディーを歌う、という組み立てにしました。
小柳:聴いた瞬間に“イケる!”と確信しました。“頼んだ私、よくやった!”と(笑)。
ヒャダイン:良かった~。それを聞いて安心しました。
小柳:ただ、その後すぐに、歌詞を入れることへのプレッシャーに襲われましたが(笑)。ヒャダインさんに喜んでいただけて、今やっと肩の荷が下りたという気持ちになっています。
劇中のアイドルソングについて
ヒャダイン:アイドルの対決曲に関しては、タカラヅカであることはまったく意識せず、本当のアイドル曲としてつくっています。
小柳:ヒャダインさんも私も、もともとハロプロ(=女性アイドル集団「ハロー!プロジェクト」の略称)が大好きですが、実はハロプロの楽曲からヒントを得ています。2グループが別々に歌っている楽曲を重ね合わせると、一つの楽曲ができ上がる、というものです。劇中に登場する2つのアイドルグループ“パラダイス・プリンス”と“エクリプス”の曲で、同じことに挑戦してみたいと、ヒャダインさんに打ち合わせでお伝えしていました。
ヒャダイン:小柳先生のアイデアをお聞きした時、これは面白い試みだから、絶対にやりたいと思いました。
小柳:振り付けを担当してくださったエンタテインメント・ユニットの梅棒・伊藤今人さんには、2グループの振りが入れ替わるような仕掛けをお願いしました。つまり、歌は一つに合わさるけれど、振りだけ相手グループのものに替わります。
ヒャダイン:それは面白い! こういう仕掛けができるのも、基礎ができているからこそですね。別のメロディーに引っ張られることなく、自分のメロディーを歌いこなせるのですよね。逆に、基礎ができていることがマイナスに働くのでは、と懸念した部分もあります。歌唱法や発声法が普段とは違うでしょうから、激しい16分(ぶ)音符を歌う場合は、かえってリズムがモタったりしないだろうか、と。でも、そんなことは全然ありませんでしたね。やっぱりイマの子だなぁと感心しました(笑)。
小柳:おっしゃるとおりで、彼女たちの耳に馴染んでいる曲に近いから、逆にやりやすい部分があるのでしょうね。
ヒャダイン:皆さん、いい感じに歌っておられましたから、僕の固定観念だったなと思いました(笑)。
ヒャダイン氏×小柳奈穂子 対談<後編>
対談<後編>では、熱気あふれる稽古の感想や、星組公演への期待を伺いました。
稽古をご覧になって
ヒャダイン:最高に面白くて、手を叩いて笑っちゃいました。最初はあまりの近さにドキドキしていたのですが、それに慣れてくると、稽古場にいるはずなのに、シンガポールや上海にいるように感じたのですよね。それくらい惹きこまれて純粋に楽しみました。
小柳:ヒャダインさんが、楽しそうに笑いながら観てくださり、出演者たちにとっても大きな力になったと思います。
ヒャダイン:初めは“笑っちゃいけないのかな”と思っていましたが、面白すぎてついつい笑い声が出てしまいました(笑)。
小柳:そうおっしゃっていただけると嬉しいです。ありがとうございます!
ヒャダイン:僕の曲もいっぱい使っていただいていることに、ビックリしました、嬉しかったー! 何回もリピートしたくなりますね(笑)。主役に限らず、どの役にも見どころがいっぱいありますから。お芝居を付けるのが、大変だったと思います。
小柳:つくり込むうちに、どんどん細かくなってしまいました(笑)。でも、すべてを私ひとりでつくるとなると大変だったと思いますが、一人ひとりが普段積み重ねてきたものを生かして、自主的にやってくれましたので、とても助けられました。
ヒャダイン:“わちゃわちゃ”している場面は、“皆さん、仲がいいのだろうなぁ”と思わせる雰囲気が感じられて、微笑ましかったです。
小柳:家族的な雰囲気の強い組だなと感じますね。
ヒャダイン:やっぱり! そのなかでも、紅さんの“軸となって物語を成立させる人間力”みたいなものを、すごく感じましたね。
小柳:そうですね、トップ力と言いますか。紅は“チューニング能力”がとても高いスターです。面白さを出すこと、作品として成立させること、トップスターであること、この3つの間をいつも綺麗に調整してくれますね。“そこに行くと、こうオチる”ということがきっちり計算できているところが、さすがだなと思います。
ヒャダイン:うん、うん、そう思いましたね。ふざけすぎたら単なるおちゃらけた話になってしまう、でも、“やらされ感”があったら硬くなるし、という、その加減ですよね。人情的なところも蔑ろにできませんし、バランスを取るのが難しそうですが、紅さんの人柄でグッと全体を貫いていらっしゃるなと。
小柳:そう言っていただけるのが、一番ありがたいですね。私はタカラヅカの芝居において、レビューやショーの前に上演する、いわゆる“前モノ”としての美学を持っておりまして、良い前座でありたい、レビューへの良いパスを出したいとの想いでつくっています。まずは芝居を楽しんで、続くショーで気持ちを高めて、そのまま盛り上がった気分で帰っていただけたらと思います。紅もそこをよく理解してくれていると感じます。
今回の作品に期待すること
ヒャダイン:衣装やセットが加われば、もっとゴージャスで、派手さもきらびやかさも増すでしょうし、そこに良い意味でのバカバカしさも相まって、すべてが振り切れたものになると思います。僕の音楽がそれに一役買うことができていれば嬉しいですね。僕自身、お稽古を拝見して、すべてを忘れて楽しめる作品だということを実感しました。最近観たいろいろなエンタメ作品の中でも、特に心地よく観ることができましたね。
小柳:ヒャダインさんは、ご自身の曲をまだオーケストラ演奏で聴いていらっしゃらないのですよね?
ヒャダイン:はい。オーケストラの生演奏が楽しみで、楽しみで!
小柳:オーケストラピットから聴こえる音で、ぜひお楽しみいただきたいです。
私は何作も紅と一緒にやってきて、彼女の良さを生かした作品で幸せな卒業をしてもらいたいと思ってきました。紅本人も、お客様に卒業を祝っていただけるような作品にしたいとの思いでつくってきたので、こうしてヒャダインさんの力強いご協力を得て、さらに進化できるように深めていきたいですね。
ヒャダイン:“コメディーの帝王”たる紅さんの節回し、歌や真剣なお芝居での格好良さも含め、最初から最後までずっと楽しかったので、お客様も絶対楽しいですよ! そして、観るとお腹が減ります、そのくらい臨場感のある作品です(笑)。
小柳:それは最大の褒め言葉ですね(笑)。本日はどうもありがとうございました。
ヒャダイン:こちらこそありがとうございました!
【プロフィール】
ヒャダイン
本名 前山田健一。
1980年生まれ。大阪府出身の音楽クリエイター。
京都大学卒業後、2007年より作家活動を開始。
中毒性のあるメロディと圧倒的な世界観でシーンを席巻、TBS 系列番組「情熱大陸」に出演するなど現在国内で最も注目されているクリエイターの一人である。
ソングライティングのセンス・スピードはもちろん、レコーディング現場でのディレクションにおいても高い評価を得ている。
J-POP、アニメソングの作詞・作曲・編曲をはじめ、映画やゲーム音楽も多数手掛け、多くのヒット作を生み出している。
自身もタレントとして活動し、司会を務めるテレビ朝日系列「musicるTV」他、多数のテレビ、ラジオレギュラーを持ち、その活動は多岐にわたる。
小柳 奈穂子
東京都出身。1999年宝塚歌劇団に入団。2002年、創世記のハリウッドで映画製作に情熱を傾ける人びとを描いた青春群像劇『SLAPSTICK』(月組)で演出家デビュー。その後、コミックをミュージカル化した『アメリカン・パイ』(2003年雪組)、近未来を舞台にしたファンタジー作品『シャングリラ -水之城-』(2010年宙組)、バウ・ラブ・アドベンチャー『アリスの恋人』(2011年月組)など多様な作品を発表。宝塚大劇場デビュー作『めぐり会いは再び』(2011年星組)が好評を得て、翌年には続編『めぐり会いは再び 2nd ~Star Bride~』(星組)を上演。『Shall we ダンス?』(2013年雪組)、『ルパン三世 —王妃の首飾りを追え!—』(2015年雪組)、『オーム・シャンティ・オーム-恋する輪廻-』(2017年星組)、『幕末太陽傳(ばくまつたいようでん)』(2017年雪組)、『天(そら)は赤い河のほとり』(2018年宙組)など、映画・漫画原作のミュージカル化にも定評がある。台湾公演でもその手腕を発揮し、『怪盗楚留香(そりゅうこう)外伝-花盗人(はなぬすびと)-』(2013年星組)、『Thunderbolt Fantasy(サンダーボルト ファンタジー)東離劍遊紀(とうりけんゆうき)』(2018年星組)で高い評価を得た。