演出家 野口幸作が語る

TAKARAZUKA MUSICAL ROMANCE『HiGH&LOW -THE PREQUEL-』の見どころ

気鋭の若手演出家・野口幸作が、大劇場で芝居作品を手掛けるのは今回が初めてとなる。レヴュー・ショー作品で培った経験を携え、今回、大人気シリーズ「HiGH&LOW」のミュージカル化で、男たちの熱き愛と闘いの物語の演出に挑む野口に、その意気込みを聞いた。

LDH JAPANと宝塚歌劇団、夢のコラボレーション!

熱狂的なファンを持つ「HiGH&LOW」シリーズ初のミュージカル化にあたって。

初期の連続ドラマからこの作品を拝見していますが、当時は単純にファンとして応援しており、宝塚と結び付くとは全く考えていませんでした。ですから、今回のお話を伺った時は「令和の宝塚は攻めているな」と驚きました(笑)。原作シリーズは、LDH JAPAN(以下、LDH)様所属の錚々たる人気グループのメンバーが集結した、宝塚で例えるところの『タカラヅカスペシャル』のようなイベント的な作品で、作り手による、「格好良くて興奮できるものを提供しよう!」という清々しいまでの心意気を感じられ、見る度スカッとした気分になれるところが醍醐味です。
多くの俳優さんをブレイクさせ、新陳代謝を繰り返しつつも、そのスピリッツが“無限(ムゲン)”に続いている…この最高のエンタテインメントの力をお借りし、宝塚にとってはある意味冒険ともいえますが、宙組の出演者たちの魅力を最大限お見せできる作品にしたいですね。

人気シリーズだけにプレッシャーも大きいのでは?

確かに大きなプレッシャーを感じることもありました。しかし、宝塚歌劇とLDH双方の良さを生かすため、LDHの作家の皆様とも長い期間をかけて綿密に議論を重ね、宝塚歌劇で上演する意味がある作品になったのではと思います。
LDH会長のEXILE HIROさんが、「HiGH&LOW」についてインタビューなどで“ミュージックビデオを見ているような疾走感と興奮を”と仰っているのですが、宝塚に置き換えるとそれは“レヴュー的なスピード感と感動”ということなのだと思います。今回の作業のメインはひたすら「LDH的なるもの」と「宝塚的なるもの」をどう融合してお見せするかでした。

シリーズの前日譚ということですが。

「主人公のコブラを無口にさせる、ある女性との悲恋があった」という設定に基づき、前日譚としてつくってみてはどうかと最初の打ち合わせでご提案いただき、そこから構想していきました。すでに確立された設定や世界観にそれ以前の物語を繋げるのは難しい作業でしたが、さまざまな方のご協力をいただきながら、1年かけてようやく仕上げることができました。

原作シリーズファンにとっても、初めて明かされる物語ですね。

伝説のチーム「ムゲン」解散後の、それぞれの頭文字を取って「SWORD(スウォード)」と呼ばれる5つのグループ「山王連合会(さんのうれんごうかい)」「White Rascals(ホワイト ラスカルズ)」「RUDE BOYS(ルード ボーイズ)」「鬼邪高校(おやこうこう)」「達磨一家(だるまいっか)」が台頭し、「SWORD地区」が誕生する前夜の出来事を描きます。LDH様からは、コブラとカナがSWORDの街を巡る中で物語が展開してほしいというオーダーもいただきました。
今作を入り口として宝塚歌劇をご覧になる方には、宝塚ならではの衣装の美しさ、舞台機構の素晴らしさもお見せしたいですね。大階段、銀橋、盆、セリなどを駆使して、チームごとの衣装のビジュアルや照明など、まずは視覚的に楽しんでいただくことを考えています。
LDHと宝塚歌劇団は、実は運営方針や体制に共通点があると感じるところが多いので、お互いのファンの方が興味を持つきっかけになれば嬉しいですね。

宙組のカラーが個性的なキャラクターと見事にマッチ

トップスター・真風涼帆は、「山王連合会」の総長、コブラを演じます。

「全員主役」をコンセプトに掲げる「HiGH&LOW」シリーズの中でも、コブラ役は、シリーズの原点であり、男の夢が詰まった理想の男ですから、真風が演じるのはこの役以外に考えられませんでした。今作では、なぜ自分たちが街を守らなければならないのかという悩みを抱えています。真風の持つワイルドさ、哀愁漂う雰囲気は、そういった設定にもよく馴染むと思います。

真風涼帆に期待することは?

ポスター撮影の時から非常に格好良く、コブラそのものでしたので、何も心配していません。真風がこれまでに演じた役の中でも特に若い青年ということもあり、大人の魅力が持ち味の彼女にとって、新たな魅力をお見せできる役になりそうですね。そして、無口になる前の饒舌なコブラを真風が演じるのも、面白いのではないでしょうか。
「Do Or Die」「HIGHER GROUND」など原作で使われた曲を歌ってもらいますが、そこはある意味、宝塚流、真風流に昇華した表現をしてほしいと思いますし、彼女ならできるだろうと確信もしています。

トップ娘役・潤花が演じるカナは、宝塚版のオリジナルキャラクターです。

カナはコブラの幼馴染で、小学生時代コブラに「コブラツイスト」をかけたことのある唯一の人物です(笑)。明るく屈託がないように見えますが、実はとても大きな秘密を抱えていて、再会したコブラにそれを打ち明けるところから二人は急接近していきます。
潤の明るく元気な素の部分と、舞台での凛とした雰囲気を融合させてほしいですね。もちろん舞台上ではカナとして生きなくてはいけませんが、普段の彼女らしさも取り入れて演じてくれると面白いのではないかと思います。

芹香斗亜の演じるROCKY役にも注目が集まっています。

母親と姉を亡くした悲しい出来事のために感情を表に出せなくなったROCKYは、強くなることと女性を守ることを誓って「White Rascals」を結成します。好意を持ったカナがコブラに想いを寄せることを知り、コブラへの敵意を滲ませます。
トリッキーで個性的な人物ですが、男役として多くの経験を積んできた今の芹香なら、深みのある演技で素敵な男性に仕上げてくれるでしょう。独特な役柄を通して、男性的な魅力の表現を期待しています。

スモーキーを演じる桜木みなとも存在感を増しています。

天涯孤独の孤児たちが自衛のために結成した「RUDE BOYS」のリーダー、スモーキーは、原作シリーズのファンにも人気が高い役です。彼らのテーマ曲「RUN THIS TOWN」を歌い踊るミュージカルシーンのほか、アクロバティックな殺陣のシーンもありますので、異色の存在として光を放ってほしいと思います。

日向紀久役の瑠風輝、村山良樹役の鷹翔千空の活躍も楽しみです。

日向紀久は、兄たちの復讐のために結成した「達磨一家」の頭目です。チームのテーマ曲を宝塚風にアレンジした祭りのシーンでは、瑠風を中心にメンバーがトレードマークの赤い法被姿で踊ります。
札付きのワルが集まる「鬼邪高校」の番長、村山良樹を演じる鷹翔には、ミュージカルと殺陣を融合したような世界観で、ドラマの名場面を再現してもらいます。
役の魅力も借りて、瑠風、鷹翔ともにステップアップしてくれたら嬉しいですね。

今の宙組だからこそできる作品といえそうですね。

他組と比べ男役の比率が少し高い今の宙組は、男の世界を描いた「HiGH&LOW」にぴったりだと感じています。長身揃いであることも生かして、この作品を演じる際に必要とされる“輩(やから)感”とでもいうのでしょうか(笑)、リアルな男性像に近い雰囲気を出してくれるのではないかと思います。
また、レディースチーム「苺美瑠狂(いちごみるく)」や、対抗する「苦邪組(くじゃく)」というチームに属する苦邪組七姉妹(くじゃくななしまい)など、娘役たちにも活躍の場面がありますのでご期待ください。

最後に、お客様にメッセージをお願いします。

まずは原作の再現にこだわりながらも、ただのコピーにならないよう、宝塚で演じるからこそ素敵に見えるというポイントを探っているところです。
個性豊かで癖の強いキャラクターたちが“大渋滞”し、大真面目にやり合っているところなど、突っ込める部分も含めてワイワイ楽しめるエンタメだと思います(笑)。ご覧になった方が、爽快な気分になって、明日への活力にしていただけたら嬉しいです。
私事ですが、大劇場での“お芝居”のデビュー作になりますので、初心に立ち返り、妥協することなく全員で稽古に励んでまいりたいと思います。どうぞご期待ください。

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【プロフィール】

野口 幸作

神奈川県出身。2006年宝塚歌劇団入団。2013年に『フォーエバー・ガーシュイン』-五線譜に描く夢-(花組)で演出家デビュー。2014年にスタンダールによる小説をミュージカル化した『パルムの僧院 —美しき愛の囚人—』(雪組)、2015年に若手スターを中心としたワークショップ公演『A-EN(エイエン)』(月組)を発表。2016年には究極のエンターテイナーをテーマにした『THE ENTERTAINER!』(星組)で、宝塚大劇場デビュー。続く2017年には新生雪組の大劇場お披露目公演となる『SUPER VOYAGER!』 -希望の海へ-(雪組)、2018年には『BEAUTIFUL GARDEN −百花繚乱−』(花組)を発表。大劇場での3作品は“スペクタキュラー・シリーズ”と銘打ち、伝統的なレヴュー、ショーに現代的なアレンジを加えた演出が、好評を博した。2019年には神尾葉子原作の少女漫画の金字塔的作品『花より男子』(花組)を舞台化。同年ブロードウェイ・ミュージカル『ON THE TOWN(オン・ザ・タウン)』を新演出・新振付による「宝塚歌劇バージョン」として再構築。2022年、『ODYSSEY(オデッセイ)-The Age of Discovery-』(雪組)で、蘇った伝説の海賊船をテーマに、美麗荘厳なパフォーマンスを演出。“スペクタキュラー・シリーズ”の第4弾で、スウィーツを用いた絢爛華麗なパリ・レヴュー『Délicieux(デリシュー)!-甘美なる巴里-』(2021年宙組)、LDH JAPANとのタッグが話題を呼んだ真風涼帆リサイタル『FLY WITH ME(フライ ウィズ ミー)』(2022年宙組)に続いて宙組を担当する今作が、大劇場で手掛ける初の芝居作品となる。