演出家 石田昌也が語る

大江戸スクランブル『夢介千両みやげ』の見どころ

2019年の『壬生義士伝』で客席の涙を誘った演出家・石田昌也が再び雪組で手掛けるのは、麗らかな季節に相応しい、明るく楽しい人情ドラマ。ベテラン演出家の手腕が、彩風咲奈率いる雪組から、また新たな可能性を引き出す。

千両役者・彩風咲奈、千両携え道楽修行へ

原作は、山手樹一郎氏の小説「夢介千両みやげ」です。

雪組で明るい時代劇をと打診され、久々に再読した「夢介千両みやげ」を舞台化しようと思いました。江戸時代の中でも明治に近づきつつある頃を舞台にした物語は、宝塚歌劇では珍しいという点も、決め手の一つです。
いわゆる歴史小説でも剣豪小説でもない、痛快娯楽時代劇とでもいうのでしょうか。原作が書かれた頃はGHQの管理下で検閲が厳しく、争いごとを扱った作品は取り締まりの対象となりましたが、市井の人々を中心に描いた山手さんの世話物小説は、すんなり通ったそうです。

原作は“大人の童話”のつもりで書き始められたと聞いています。

彩風咲奈演じる主人公・夢介は、強引にではなく、優しさと金で騒動を解決していくのですが、イソップ物語「北風と太陽」で例えると太陽のタイプと言えるでしょうね。また、宮沢賢治が書いた「風の又三郎」のようなイメージもあります。そんな夢介に影響されて、みんなが善人になっていくストーリーを軸に描く、男女の物語であり、タイプの異なる男同士のバディ物の要素も盛り込まれています。

「優しさと金で騒動を解決していく」とは、ユニークな設定ですね。

夢介は、金持ちの庄屋の息子で、原作では大柄で力の強い青年と書かれています。たくましさを備えつつ心優しい青年でもあり、父親から渡された千両を使って、訪れた土地で騒動に巻き込まれて困っている人々を助けていきます。しかし彼は、そのことを自慢したりはしません。現代では社会貢献や社会福祉といった言葉がありますが、夢介の行動はそういったかしこまったことではなく、彼自身が持つ善意の心のままの行動であるところがポイントです。

セットや音楽などは、どのようなものを構想されていますか?

衣装の加藤真美先生と一緒に選んだ着物の柄の一部を、装置の稲生英介先生に舞台装置に取り入れていただこうと考えています。登場人物はほとんどが町人で、金襴のような衣装を着ているわけではありませんが、リアルさを追求するというよりは、ポップな感じにするつもりです。
また、音楽は、日本物ですがマンボ、ジャズなどを取り入れた曲を使いつつ、少し懐かしい時代劇の味わいに持っていきたいですね。

素敵なお節介、夢介のもたらすもの

夢介は、宝塚歌劇の主人公としては珍しいタイプの役ではないでしょうか。

剣士でもなく、貴族でもない、農家のせがれで、キザなところもありませんからね。しかし、あらためて原作を読み返してみると、実は女性にモテモテで、言うなれば江戸時代の光源氏だな、と(笑)。ただ、光源氏は自ら女性にアタックしていきますが、夢介は硬派なのでそこは違いますね。基本はおっとりしていますが、原作に少し手を加えて、宝塚の二枚目らしい格好良いところも出していきますので、楽しみにしていてください。

トップスター・彩風咲奈の新たな魅力も見どころですね。

私の作品にしてはとても真面目な主人公で、真面目ゆえの面白みもある人物です。夢介役は、一般的なヒーロー像ではないところが、演じるにあたって大変難しいかもしれません。この役は、彩風にとって挑戦し甲斐があると思いますし、彼女にしかできない夢介として成立させてもらいたいです。
彩風はスタイルが良くて舞台映えしますし、熱いハートを持った役者なので、夢介も魅力的に演じてくれるだろうと期待しています。

トップ娘役・朝月希和は、夢介の押しかけ女房となるスリのお銀役を演じます。

東海道でスリをしたことから夢介と知り合うお銀は、すごく魅力的な女性で、気が強くて、おまけに喧嘩も強い(笑)。そのうえ、大層なやきもちやきで、なかなか距離の縮まらない夢介に自分から迫ったりもする、とても可愛らしいキャラクターですね。

彩風と朝月のトップコンビによる掛け合いも楽しそうです。

この二人であれば、夫婦漫才のようなコンビネーションの面白さを出してくれるだろうと思っています。原作のある芝居だと、結末をご存知のうえでご覧になる方もおられますが、オリジナルの要素も取り入れながら、トップコンビが演じる夢介とお銀として、二人の関係性をきっちりと見せていきたいですね。わかりやすく愛を語る二人ではありませんが、互いが交わすちょっとした会話の先に何があったのだろうと、自由に想像を膨らませられる部分も楽しんでいただければと考えています。

朝美絢演じる若旦那・総太郎もユニークな存在ですね。

モテることと着こなしをひたすら自慢している遊び人ですが、女性と良い雰囲気になるといつも夢介に邪魔され、結果、散々な目に遭わされます(笑)。格好つけているけれど可愛げがあって、どこか憎めない男です。タイプの違う二人がやり合う面白さを、彩風とどのようにつくり出していくのか楽しみですし、朝美絢はこんな演技もできるのだなというところを見ていただきたいですね。

専科の汝鳥伶の出演で、一層舞台が引き締まりますね。

夢介の爺やの嘉平役で、汝鳥さん独特のいぶし銀の演技を見せていただこうと思います。日本物が得意な雪組ですが、演技指導者でもある汝鳥さんに細かいところまで見ていただけるのは頼もしいですね。

組替えしてきた和希そらに加え、綾凰華、縣千たち若手スターの活躍も目が離せません。

和希演じるスリの三太は、原作より年齢を上げて17、8歳の設定にしました。姉貴分のお銀とは火事で焼け出された人たちが住む“お救い小屋”で苦労して育った間柄です。雪組生として初めて立つ大劇場で、同期生の朝月と息の合ったところを見せてくれるでしょう。この公演で退団となる綾は、悪七と呼ばれるチンピラの船頭を演じます。毎回喧嘩を売っては返り討ちに遭う、という役どころです。和希と綾には、夢介に同調してどんどん変わっていく過程をうまく表現してもらいたいと思います。縣は原作にはない金の字という役で、一見、ただの町人だけれども何かいわくがありそうな人物です。それはご覧いただいてのお楽しみということで(笑)。彩風を中心に、みんなで物語をどのように回してくれるのか、期待しています。

他にも個性的な人物が多数登場しますので、掛け合いなどで熟成されていくのも見どころですね。

公演を重ね、出演者たちも慣れてきてどんどんテンポが速くなると、掛け合いの楽しさも増していくと思います。そこが映像とは違う、演劇ならではの面白さでしょうね。“大江戸スクランブル”と付けたように、ごちゃ混ぜで交流しながら、しかし総合的に見るとうまく融合されている作品に仕上がれば、と思ってつくっています。

最後に、お客様へのメッセージをお願いします。

人助けを自慢せずに超然とやってのける夢介の、いわば“お節介”がテーマの人情ドラマです。彼のお節介が周囲の人々にどのような影響を与えていくのか、彩風たち演者の表情の変化とあわせてお楽しみいただくとともに、夢介とお銀との恋愛の行く末にもご注目いただければと思います。

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【プロフィール】

石田 昌也

兵庫県宝塚市出身。1979年宝塚歌劇団入団。1986年『恋のチェッカー・フラッグ』(雪組)で演出家デビュー。『青春の旋風(かぜ) -リトル・ヒーロー三四郎-』(1987年月組)、『硬派・坂本竜馬!』(1989年花組)など型破りな青年像を新鮮な感覚で描き出し、好評を得た後、1991年のショー作品『ブレイク・ザ・ボーダー!』(月組)で宝塚大劇場デビューを果たす。以降も精力的に作品を送り続け、幕末の日本を舞台にした『維新回天・竜馬伝!』-硬派・坂本竜馬III-(2006年宙組)、戦後日本の復興・独立に尽力した白州次郎の生き様を骨太に描いて高い評価を得た『黎明(れいめい)の風』-侍ジェントルマン 白洲次郎の挑戦-(2008年宙組)などオリジナル作品のほか、多岐に亘るジャンルを手掛ける。小説やコミックが題材の『殉情(じゅんじょう)』(1995年星組 初演)、『猛(たけ)き黄金の国 -士魂商才!岩崎彌太郎の青春-』(2001年雪組)、『復活 -恋が終わり、愛が残った-』(2012年花組)、『カンパニー -努力(レッスン)、情熱(パッション)、そして仲間たち(カンパニー)-』(2018年月組)、『幽霊刑事(デカ)~サヨナラする、その前に~』(2021年月組)では、原作を尊重しながらも、石田ならではの持ち味で巧みに舞台化。また、『銀ちゃんの恋』(1996年月組 初演)、『双曲線上のカルテ』(2012年雪組)などの、ドラマ化・映画化されたベストセラー作品の舞台化にも意欲的に取り組む。さらに、『相棒』(2009年花組)などの人気ドラマや、『長い春の果てに』(2002年月組)、『愛と青春の旅だち』(2010年星組)などの名作映画といった映像作品の世界を宝塚歌劇に融合させ、話題を集める。大石静氏を脚本に迎え、自身は演出として手腕を発揮した『美しき生涯』(2011年宙組)、『カリスタの海に抱かれて』(2015年花組)では、宝塚歌劇の魅力を幅広くアピールした。数々の海外舞台作品にも挑み続け、『アーサー王伝説』(2016年月組)、『ロックオペラ モーツァルト』(2019年星組)のような大ヒットミュージカルから、バウ・コメディシリーズとして好評を博すことになる『おかしな二人』(2011年専科)、『第二章』-CHAPTER TWO by Neil Simon-(2013年専科)、『パパ・アイ・ラブ・ユー』(2019年専科)といったストレート・プレイまで、その守備範囲は広い。また、ディナーショーや武道館コンサートも数多く手掛ける。今作の『夢介千両みやげ』は、2018年の全国ツアー『誠の群像』(1997年星組 初演)、2019年の『壬生義士伝』に続く、彩風咲奈ら雪組とのタッグとなる。