『ひかりふる路』の魅力

フランク・ワイルドホーン氏×生田大和 対談

宝塚歌劇雪組公演『ひかりふる路~革命家、マクシミリアン・ロベスピエール~』の作曲家・フランク・ワイルドホーン氏と、脚本・演出を手掛ける演出家・生田大和に話を聞いた。今作の楽曲やコラボレーションの感触、雪組新トップコンビへの期待など、さまざまな話題が繰り広げられた。   

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フランク・ワイルドホーンさんの音楽には常に魂が宿る

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おふたりのコラボレーションの始まりについて教えてください。

生田:当初、“全曲をお願いしたいが、無理ならせめて1曲、2曲でも……”と考えておりましたら、「全曲を書きたい」とおっしゃってくださり大変驚きました。そこからすべてが始まったという思いがあります。
ワイルドホーン:私はこれまで、ミュージカルでは必ず全曲を書いてきました。何曲か創ってハイと渡して作品から離れる、ということができないタイプです(笑)。自分の心に湧き上がるものや情熱をキャラクターの中に込め、それを曲に乗せていくと、やはり“全曲を書きたい、全曲を書かねば”と思います。
生田:まだ本格的な打ち合わせに入る前、ほんの少し物語のイメージや、「物語の始まりではロベスピエールは理想を抱いていた」など、物語の骨格をお話しました。その時、フランクさんは笑顔で聞いてくださっていたのですが、数日後に「インスピレーションが湧いたので曲を書いたよ」とメールがあり、驚きました。主題歌「ひかりふる路」を初めて聴いた時は、もう言葉が出ず、泣きそうになったのを覚えています。“どうしてこのようなイメージ通り、いや、イメージをさらに膨らませてくれる、力のある楽曲が今ここにあるのだろう”と、信じられない思いでした。今回、創作の際にフランクさんの音楽によって引き出されるものがとても多かったです。なぜなら、その音楽には常に魂が宿り、そこで何を歌えばいいのかがはっきりと伝わってくるからです。
ワイルドホーン:2曲(制作発表会で披露した「ひかりふる路」「今」)を作曲した後に、英訳された歌詞を読みましたが、とても素敵ですね。私は演劇からではなく、ポピュラー音楽の作曲からスタートした人間ですが、演劇を愛していますし、日本の演劇に関わることを楽しみにしています。その日本で、作詞作曲の新しいパートナーをまた一人持てたことがとても嬉しいです。
生田:ありがとうございます。
ワイルドホーン:打ち合わせ中に行ったセッションも楽しかったですね。生田先生が何かお話して、それをきっかけに私が演奏…と。あの“音楽が生まれる瞬間”がとても楽しかった。私があまりに没頭していたので、「もう一度」と言われても同じようには弾けないぐらいでしたから。その場でピアノの音を録音してくださっていて、本当によかったです(笑)。   

今回のコラボレーションで特に感じていることは?

ワイルドホーン:今、私たちは一緒に、とても壮大で大切な作品を創っています。アメリカ人の作曲家と、日本人の演出・脚本・作詞家というコラボレーションは、なかなかないと思いますよ。音楽には国境がないと、あらためて実感していますし、私はふたつの"ストーリー"が同時に進行しているのを感じているのです。ひとつは、この新しい"作詞作曲チーム"の協同制作が向かう先は…というストーリー。もうひとつは、二人のアーティスト(望海と真彩)が、初めてコンビを組んで歩んで行くというストーリーです。そのふたつのストーリーの中で、たくさんの新しい発見があるわけですが、私自身もどんどん夢中になっていくのを感じているところです。
生田:私も宝塚歌劇団に入団してから仕事を積み重ね、今こうしてフランクさんとお仕事させていただけるところに辿り着きました。人と人との縁の思わぬ繋がりの上に人生があり、そしてその周囲にはいろいろなストーリーがあるのを感じています。   

雪組新トップコンビの可能性にワクワクする

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制作発表会で望海風斗、真彩希帆のパフォーマンスをご覧になっていかがでしたか。

生田:望海が歌っているのを聴いて、私自身も勇気をもらいました。ひとつ形になった安心感もあり、歌声を聴いて新しいインスピレーションも湧きました。特別な瞬間でしたね。
ワイルドホーン:おふたりは本当に素晴らしい音楽家です。日本で何年も仕事をしていますが、最初から"自分の音楽がこのように聴こえたら"と望む形どおりにおふたりは歌ってくれています。これは私にとっても、とても珍しい体験なのですよ。だいもんさん(望海風斗の愛称)は非常にパワフルなシンガーで、ストレートトーンが得意で、音程も素晴らしい。また、とても大きなハートを感じさせる歌手です。まあやさん(真彩希帆の愛称)は、"自分がどこまで才能を持っているか"を、まだご自身では気付いていないと思います。
生田:そうですね(笑)。
ワイルドホーン:彼女のように現代的な感覚を持っていて、自然体でありながらソウルフルな声を、ソプラノの音域で出せる人は希少なのです。スタート地点がそこですから、今後、さらに才能が開花すると思いますよ。だいもんさんもそうですが、おふたりの可能性を考えると、非常にワクワクします!   

望海さんの声を聴いてから作曲されたのですか?

ワイルドホーン:そうです。『NEVER SAY GOODBYE』のたかこ(元宙組男役トップスターで夫人である、和央ようかさんの愛称)の時もそうでしたが、やはり声を聴くと、その人のパーソナルな部分が伝わってきます。生田先生が、彼女たちからどのようなもの引き出すのか、とても楽しみですね。私は音楽の寿命は作品を超えたところでも続くと思うのです。例えば、11年前の『NEVER SAY GOODBYE』は、演目こそ再演されていませんが、「NEVER SAY GOODBYE」や「ONE HEART」といった曲は、今でもいろいろな機会にいろいろな方が歌ってくださっています。今回、作曲する楽曲も永く皆様に愛していただけることを願っています。
生田:よくフランクさんは「コンテンポラリーに歌って」とおっしゃいます。歌い方もそうですが、フランクさんの曲自体が、時代を超えた普遍性と現代性を持っていると感じています。ですから歌詞も、この作品に限定されないもっと大きなメッセージ、いつ誰が歌っても成立するものを書かなくてはと思っています。
ワイルドホーン:そうなのです!生田先生は、それを実際にやっていらっしゃるところが素晴らしいですね。初めにこの演目のあらすじを伺った時、とてもドラマチックだと感じました。男女が出会い、そこに葛藤が生まれるという物語は、どの時代をバックグラウンドにしても成り立ちます。つまり、この物語には音楽と同じく普遍的な魅力があるということです。
生田:ありがとうございます。歴史をよりドラマチックに創作できるところがフィクションの強みです。実は最初に、フランクさんから「歴史に恋をしてはいけないよ」と言われました。これはお気に入りのフレーズです。私が歴史に恋をしそうなタイプだと見抜かれたのですよね(笑)。
ワイルドホーン:(笑)。私は大学で歴史を専攻していたからこそ分かるのですが、歴史をそのままお見せしても必ずしも素晴らしいミュージカルになるわけではないってね!   

いつでも"冒険や挑戦"を楽しむ気持ちが大切

ワイルドホーンさんは宝塚歌劇にどのような印象を持っていますか?

ワイルドホーン:タカラヅカは本当にユニークで、作曲家としてこれほどのチャレンジができる場所はなかなかないですね。いつもハードなチャレンジにはなりますが(笑)、それを含めて楽しむようにしています。
常に意識していることは、男役さんに、音楽的にも男性的な視点を与えることです。『THE SCARLET PIMPERNEL』は、タカラヅカでも外部の舞台でも成功を収めましたが、それは音楽的な面で男性、女性というのがしっかり分かれていることが一因ではないでしょうか。その意味でも、女性が男性を演じるタカラヅカでの仕事は、毎回、私にとってとてもクールな挑戦です!
生田:フランクさんがよくおっしゃる言葉で私が好きなのが、「冒険をしよう、冒険を楽しもう」です。昔『NEVER SAY GOODBYE』で歌劇団にいらっしゃった時も、お稽古場でおっしゃっていました。
ワイルドホーン:11年前にも言っていましたか!?
生田:はい(笑)。大好きな言葉です。
ワイルドホーン:正直なところ、11年前の『NEVER SAY GOODBYE』は本当に大きな冒険でした。文化の違いというところも含めて冒険でしたね。今回の作品では、だいもんさんもまあやさんも、まだまだ伸びる方たちですから、無難なところでとどまるのはもったいない。さらに成長できると思うので、音楽的な面だけでなく演技的な面でもさらに上を目指してほしいです。   

今回、特に注目してほしい楽曲は?

生田:まずはトップコンビのデュエットですね。宝塚歌劇では通常、男役が芯を担い、娘役が一歩下がるというイメージがあります。でも今回は役の関係性はもちろん、それぞれが力のあるアーティストですから、二人が同じ立ち位置で正面切って勝負しないと成り立ちません。それは、光と影など"ふたつの概念が対立する"という作品のテーマにも通じています。物語の後半に登場する曲「葛藤と焦燥」では、二人が歌でぶつかり合う瞬間があります。その場面で劇場内にどういう渦が起こるのか、とても楽しみです。   

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最後にお客様へメッセージをお願いします。

ワイルドホーン:宝塚歌劇団さんとの関係は、私にとってとても大切なものです。前回ご一緒したオリジナル作品から早いもので11年が経ち、今また新たなチーム、新たなスターの誕生、新たな西洋と東洋のコラボレーションなど、さまざまなことが起きています。その刺激的なエネルギーから、まるで魔法のように魅力的なものが生まれると信じていますので、ぜひ多くの方に劇場へ観に来ていただきたいです!
生田:フランクさんと宝塚歌劇とのコラボレーションを、一番楽しんでいるのは私かもしれません。フランクさんから送られてくる曲を、初めて聴く時の興奮はやはり抑えきれませんね!以前、フランクさんから「安全なところにおらず、危険なところへ行きなさい」とのお言葉をいただきました。そのお言葉通り、今作は作品全体のビジュアル、舞台装置や衣装もチャレンジしたものに仕上げようと思っています。あらゆる面で楽しんでいただける舞台にしたいと考えておりますので、どうぞご期待ください。   

【プロフィール】

フランク・ワイルドホーン(Frank Wildhorn)

1959年11月29日生まれ(57歳)アメリカ合衆国の作曲家。特に、ブロードウェイミュージカルの作曲家として知られ、彼が作曲を手掛けたミュージカルは、世界中で上演されている。アジア圏では、日本、韓国で圧倒的人気を誇る。代表作は「ジキル&ハイド」で、ブロードウェイで4年間上演された。1999年、ブロードウェイ、プリマス劇場で「ジキル&ハイド」、ミンスコフ劇場で「スカーレット・ピンパーネル」、セント・ジェイムス劇場で「南北戦争/The Civil War」が上演され、ブロードウェイで自身の作品が3本同時に上演された最初のアメリカ人作曲家となった。ワイルドホーンが作曲したホイットニー・ヒューストンの「Where Do Broken Hearts Go」は世界中で大ヒット、他、ステイシー・ラティソウ、ナタリー・コール、ケニー・ロジャース、パティ・ラベルなどにも楽曲提供している。ワイルドホーンはブロードウェイの音楽家として初めて宝塚歌劇団と共に製作を行い、元宙組トップスター・和央ようかの退団公演『NEVER SAY GOODBYE』の作曲を担当。2015年には作曲を手掛けた新作ミュージカル「デスノート The Musical」日本公演、韓国公演を手掛け、さらに12月には「フランク・ワイルドホーン&フレンズジャパンツアー」として大阪・東京にて自身が手掛けた歴代のヒット曲を集めたコンサートを実施した。

・代表作
「ジキル&ハイド」「ビクター/ビクトリア」「スカーレット・ピンパーネル」「南北戦争」「ドラキュラ」「NEVER SAY GOODBYE」「MITSUKO~愛は国境を越えて~」「シラノ」「モンテ・クリスト伯」「ボニー&クライド」「カルメン」「GOLD~カミーユとロダン~」「ルドルフ」「アリス・イン・ワンダーランド」「デスノート」他、多数。