演出家インタビュー

藤井大介が語る レビュー・エキゾチカ 『クルンテープ 天使の都』の見どころ<前編>

画像

インタビュー<前編>では、作品の構成を中心に話を聞いた。   

バンコクをテーマにしたレビューを創ろうと思った経緯は?

シンプルに、私自身がタイという国が大好きだからです。宝塚歌劇の演出家なのだから、レビューの本場といわれるパリ等に行くほうがいいのではないかと言われることもありますが、ここ10年以上年に一度はタイに足が向いてしまっていました(笑)。私が行くのは主に首都バンコクなのですが、異国情緒にあふれていて、神秘的で、幻想的で、心をとても癒してくれる街です。そして、ショービジネスが非常に盛んな国でもあり、演出家としてヒントをもらうこともしばしばあります。そんなタイをテーマにしたレビューをいつか創ってみたいと思っていたところ、別名“微笑みの国”とも呼ばれるタイのイメージにぴったりな、いつも穏やかで微笑みを絶やさない、珠城りょう・美園さくらの新トップコンビお披露目公演を担当するというチャンスを得まして、このテーマでいこう、と考えました。アジアをテーマにしたレビューはこれまでにもありましたが、テーマをタイに絞ったレビュー作品はあまり見かけませんし、私にとっても初めての試みです。まだ稽古が始まったばかりなので、どう仕上がるか未知数ですが、独特のオリエンタルな雰囲気のレビューにできたら嬉しく思います。   

“クルンテープ”という言葉を初めて聞くお客様も多いと思いますが。

クルンテープというのは、首都バンコクの正式名称の略称です。略さない名称は現地の方でも覚えられないくらい長い名前なのですが(笑)、それを訳すと、“天使の都”という意味になるのだとお聞きして、それが宝塚歌劇の世界観と合うのではないかと思ったことも、制作のきっかけになりました。   

作品の構成について。

まず、ある5人組のキャラクターが、これから始まるバンコクの素敵な世界へと誘い、その後に蓮の花を持った舞姫たちが銀橋にズラリと並んだところでパッと照明が明るくなる、いわゆる日本物でいう“チョンパ”でレビューの幕が開きます。続いて美弥るりか率いる男役たちが勇壮に踊り、きらびやかなセットに一瞬で転換すると、珠城が華やかに登場します。今回は幕開きから大階段を使用したセットで豪華にいこうと考えています。   

華やかなプロローグから続く場面について。

プロローグの後に、“花”の結婚式の場面があります。美園はこの公演がトップ娘役として初めての大劇場公演ですので、珠城・美園コンビの新たな門出を祝福するという思いを込めて創りました。続いて、ムエタイをイメージした場面になります。ここは月城かなと、暁千星を中心にコミカルに若々しく、楽しい雰囲気をお楽しみいただきます。
それが終わると、タイの名物でもある水上マーケットを舞台に、果物や花を売っている水夫に扮した風間柚乃がボートの上で歌います。そこから珠城と美弥の場面へと続いて、恋愛とは別の意味で、時にはすれ違いながらも通じ合う気持ちを、男役二人のデュエットダンスで表現してもらいます。大きな見せ場になると思うので、楽しみにしていてください。
そして、美園が男役たちとタイポップス風にアレンジした曲を歌った後、月組全員がタイのフルーツに扮してラテン調に盛り上がるという中詰めに入ります。   

終盤からフィナーレにかけては?

タイにはとても華やかで賑やかなバーが沢山ありまして、次の場面は、そんなバーを舞台に珠城がトップホストに扮します。この場面では、珠城の相手役として暁に女役を演じてもらいます。そこに月城・美園というカップルが加わり、四角関係に発展して…という展開です。珠城率いる男役が格好よくポールダンスを披露する場面もありますので、ご期待ください。
フィナーレはロケットから始まります。そして、この公演を最後にタカラヅカを退団する美弥が、心情を込めたナンバーを銀橋で歌った後、大階段での男役のダンスになります。最後に、タイが舞台のミュージカル「王様と私」の挿入曲での珠城・美園のムーディーなデュエットダンスからパレードへと進みます。   

タイがテーマのレビューということは、音楽、衣装、装置も独特なものになりますか?

その予定です。青木朝子先生、手島恭子先生がとても丁寧にピーチャワーや銅鑼などを使ってタイ独特の音を作ってくださっています。タイの伝統的な音楽にはひと昔前の日本を思わせるような郷愁もありますので、その雰囲気が出せたらいいですね。難しいと言いながらも楽しんで取り組んでくださっていますので、私自身も楽しみにしています。
衣装の河底美由紀先生は実際にバンコクに行って雰囲気を感じてくださり、舞台で使えそうなアイデアも仕入れてきてくれました。フィナーレの男役の群舞は、黒燕尾ですが頭にはターバンを巻き腕まくりをしたスタイルで、とても格好いい衣装を考えていただいています。
装置も新宮有紀先生のこだわりが詰まったものになりそうです。たとえば、タイの寺院やお城は、とても細工が細かいのですが、舞台の上にもそれを再現しようと思っていますので、ご注目いただけたら嬉しいですね。タイの方たちは9割以上が仏教徒なのだそうで、いたるところに祭壇があり、花やフルーツが供えられていて街全体がひときわカラフルなんです。ですから、金を基調としたセットにそんな色合いを加えて、作品自体を彩り鮮やかにしたいなと考えています。