ヌードルスの生きる時代
『ONCE UPON A TIME IN AMERICA(ワンス アポン ア タイム イン アメリカ)』に描かれる1920年代から1950年代のアメリカは、まさに激動の時代。目まぐるしく移ろう時の流れのなかで、主人公ヌードルスたちはそれぞれの人生を歩んでいきます。作品の背景となる象徴的な事柄と、当時を舞台にした演出家・小池修一郎の作品をご紹介しましょう。
ヌードルスの少年期<1920年代~>
第一次世界大戦からの戦後復興に沸き返る、狂騒の時代
ゴールデンエイジや、ジャズ・エイジとも言われ、まさにアメリカが目覚ましい発展を遂げた時代だった。同時に、1920年に始まった禁酒法により、ギャングが大きな力を得た時代でもあった。
【『ONCE UPON A TIME IN AMERICA』に見る1920年代】
東欧からの移民
移民が大挙してアメリカに渡り始めたのが、19世紀半ば。それから半世紀ほど後にアメリカに移住してきた東欧出身のユダヤ系移民たちは、マンハッタンの東側、イタリア系移民が多く住んでいたリトル・イタリーに程近いローワー・イーストサイドにコミュニティを形成した。経済的に厳しい状況にあった移民の中には、生きるためにギャングなどの裏稼業に手を染める者もいた。
劇中でも、主人公ヌードルスたちが少年期を過ごした場所として、ローワー・イーストサイドが登場する。
【同時代を描いた小池修一郎作品】
『ヴァレンチノ』(作・演出)
イタリア移民としてアメリカに渡り、1920年代の映画界で活躍、全世界の女性から“永遠の恋人”と呼ばれた世紀の二枚目、ルドルフ・ヴァレンチノの半生を綴った、小池の演出家デビュー作。
- ・1986年雪組 ■主演・・・杜 けあき
(『ヴァレンチノ』-愛の彷徨(さすらい)-のタイトルで上演)
・1992年雪組 ■主演・・・杜 けあき
・1993年雪組 ■主演・・・杜 けあき
・2011年宙組 ■主演・・・大空 祐飛
『華麗なるギャツビー』(脚本・演出)
20世紀の世界文学史上、最高傑作の一つと数えられる、F・スコット・フィッツジェラルド作「グレート・ギャツビー」の、世界初のミュージカル化。“ジャズ・エイジ”と呼ばれた狂乱の1920年代を背景に、アメリカン・ドリームを追い求め、挑み、散る男の青春を、華やかに描き出した。
- ・1991年雪組 ■主演・・・杜 けあき、鮎 ゆうき
・1992年雪組 ■主演・・・杜 けあき、紫 とも
・2008年月組 ■主演・・・瀬奈 じゅん(『グレート・ギャツビー』のタイトルで上演)
ヌードルスの青年期<1930年代~>
世界恐慌、第二次世界大戦を経て、経済大国へ
現在でもマンハッタンのランドマークである高層ビルが、立て続けに建設された好景気から一転、1930年代は不況に陥り、多数の失業者が街に溢れた。大きく動く時代の流れは、ギャングにとっても無関係のものではなかった。
【『ONCE UPON A TIME IN AMERICA』に見る1930年代】
禁酒法によって登場した“スピークイージー(もぐり酒場)”
1920年に施行された禁酒法。酒の製造・販売・輸送を禁じたこの法律に目を付けたのが、ギャングだった。彼らが密造・密輸した酒を提供する“スピークイージー”と呼ばれるもぐり酒場は、禁酒法廃止直前には全米で約22万軒あったともいわれ、巨万の富を生み出した。こうした時流に乗って、莫大な利益を得たうちの一人が伝説のギャング、アル・カポネだ。しかし、1933年の法律廃止によって、ギャングたちは新たな資金源を求める必要に迫られることとなる。
ヌードルスの幼馴染で、仲間でもあるマックスが経営する「クラブ・インフェルノ」も、“スピークイージー”の一つ。こうした酒場はニューヨークだけで3万軒以上あったとされている。
ブロードウェイからハリウッドへ
ブロードウェイでは、1907年から24年間に亘り上演された「ジーグフェルド・フォリーズ」のような華やかなショーや、数々の名作ミュージカルからスターが誕生した。同じころ、ハリウッドはサイレント映画から、トーキーへと大転換期を迎え、隆盛を極めていた。ブロードウェイで成功を収めたスターたちは、次々にハリウッドへと進出していくようになる。
ユダヤ系移民であるデボラが、貧困から抜け出す手段として選んだ道がブロードウェイだった。当時、ユダヤ系移民は映画などのエンターテインメント業で職を得る者も多かった。
【同時代を描いた小池修一郎作品】
『失われた楽園』-ハリウッド・バビロン-(作・演出)
1930年代後半、黄金時代を迎えた「夢の工場」ハリウッド。野望と愛憎渦巻く中で、大物天才プロデューサーと新人女優の、短くも激しく燃え上がる恋を描いた作品。
- ・1997年花組 ■主演・・・真矢 みき、千 ほさち
『NEVER SAY GOODBYE』-ある愛の軌跡-(作・演出)
1930年代後半を舞台として、“ロスト・ジェネレーション”と呼ばれた芸術家たちをモデルに、平和を求め、ファシズムと戦った男女の愛の物語を描いた、メッセージ性溢れる超大作ミュージカル。ブロードウェイで活躍中の作曲家フランク・ワイルドホーン氏が全曲書き下ろしてのコラボレーションは、宝塚歌劇では初の試みであり、大変話題となった。
- ・2006年宙組 ■主演・・・和央 ようか、花總 まり
『アデュー・マルセイユ』-マルセイユへ愛を込めて-(作・演出)
禁酒法時代のアメリカに高級ワインを密輸する計画を持つ粋でダンディな男が、マルセイユを浄化するために努力する清純な娘と恋に落ちるが、やがて偽札事件に巻き込まれていく。フランスの港町マルセイユを舞台に、当時のアメリカの社会情勢を反映した物語。
- ・2007年花組 ■主演・・・春野 寿美礼、桜乃 彩音
『ベイ・シティ・ブルース』(作・演出)
1940年代後半のアメリカ西海岸の大都会を舞台に展開するマフィア版「ハムレット」。裏の世界でただ一つの真実を求めて彷徨う悲しき青年のハードボイルドを、当時のスイング・ジャズやブルースに乗せて描いた。
- ・1993年花組 ■主演・・・安寿 ミラ、森奈 みはる
・1994年花組 ■主演・・・安寿 ミラ、森奈 みはる
『カステル・ミラージュ』~消えない蜃気楼~(作・演出)
人気のない砂漠の寒村に、蜃気楼の宮殿(カステル・ミラージュ)ならぬ夢の街「ラスベガス」を創り出した男の、愛と野望の物語。アウトローでありながらもロマンを追い求めた主人公の光と影を、スイング・ジャズに乗せて綴った。
- ・2001年・2002年宙組 ■主演・・・和央 ようか、花總 まり
ヌードルスの壮年期<1950年代~>
アメリカが世界の頂点に。夢と希望に溢れた、アメリカン・ドリームの時代
経済・文化の中心として、その存在を強固なものにしたアメリカは繁栄の時を迎えた。そんな栄華を誇る一方で、国際政治の緊張や言論統制の動きなど、政治的には大きな不安を抱えていた時期でもある。
【『ONCE UPON A TIME IN AMERICA』に見る1950年代】
新しい時代の象徴“ロックンロール”
1920年代から1940年代に人気を博したジャズは、1950年代半ばにはその座をロックンロールに譲ることになる。アメリカで生まれた新しい音楽が、エルヴィス・プレスリーの登場によって世界中を熱狂させたのだ。“若者の音楽”であるロックンロールは、新時代を感じさせる音楽でもあったといえるだろう。
ヌードルスが、ローワー・イーストサイドで共に過ごした友人であるファット・モー。ロックンロールが流れる彼のダイナーに、一人の男が訪ねてくるところから物語は始まる。
【同時代を描いた小池修一郎作品】
『JFK』(作・演出)
1963年に暗殺された第35代アメリカ大統領ジョン・F・ケネディの波瀾の生涯を、ジャクリーヌ夫人との愛の葛藤を軸に、同時代の音楽やファッションの変遷を浮き彫りにしながら描いたミュージカル。
- ・1995年雪組 ■主演・・・一路 真輝、花總 まり
2020年の幕開きを飾る雪組公演『ONCE UPON A TIME IN AMERICA』。
トップスター・望海風斗を中心とした雪組が、ドラマティックで濃密な世界を繰り広げます。どうぞ劇場でご覧ください!