愉快な『こうもり』
演出家 谷正純が語る 『こうもり』の見どころ
ヨハン・シュトラウス二世の傑作オペレッタを、宝塚歌劇ならではのスパイスを加え、愉快なミュージカルにリメイクしたMUSICAL『こうもり』…こうもり博士の愉快な復讐劇…。
その見どころや出演者の魅力について、演出家 谷正純が語ります。
オペレッタの楽しさを再発見できる公演に
——『こうもり』を上演しようと思ったきっかけは?
2013年に『THE MERRY WIDOW』(月組 シアター・ドラマシティ/日本青年館大ホール公演)というオペレッタ作品を、当時専科から特別出演した北翔海莉を主演に上演し、ご好評をいただきました。北翔自身もオペレッタの楽しさを実感していましたし、お客様もオペレッタの魅力にすごく共感してくださったのだと思います。通常のオペレッタは、歌と芝居を歌手が担当してダンスはダンサーが踊るものですが、宝塚歌劇の場合は、全員が歌って踊って芝居ができる。そういう意味でオペレッタではなくミュージカルと名付けました。
オペレッタではミュージカルとは違う発声が求められますが、北翔はその使い分けもできて歌唱力もある。もともと宝塚音楽学校ではクラシカルな発声法も練習していて、その素養は持っているのですが、最近では、なかなかその技術を披露する機会がありません。ですから、時々はこういう毛色が違うものを上演して、オペレッタの楽しさや、宝塚歌劇の新たな魅力を再発見していただきたいと思っています。
星組が磨いてきた歌唱力を生で聞いてほしい
——北翔海莉の歌唱力が活かされるわけですね。
北翔は宝塚音楽学校で学んできた基本を、ずっと訓練し続けている一人。稽古場で歌うときでも、その響きがはっきり分かりますね。まるでオペラ歌手のような迫力です。『こうもり』では彼女が長年磨いてきた歌声を楽しんでいただけると思います。
もちろん、トップ娘役の妃海風も歌唱力に定評があり、コメディセンスがある紅ゆずるもいる。今回の演目では紅演じるアイゼンシュタイン侯爵が北翔演じるファルケ博士に復讐される役になるのですが、そういった役柄にキャスティングがぴったりだと思いました。それと、この演目は舞踏会に大勢の招待客が集うシーンから始まり、40分近くあるひと場面の中で招待客は常にコーラスを歌っています。星組は昔からお稽古後に皆でコーラスの自主稽古をするエネルギッシュな組で、練習で培った歌唱力がある。いろいろなことが重なって、一番いいタイミングで、星組で実現できてよかったという気がしています。
オペレッタを上演する難しさと楽しさとは
——オペレッタ作品を上演する難しさ、楽しさはどんなところでしょう?
オペレッタは歌でストーリーを説明しますが、日本語に翻訳すると元の歌詞よりも字数が少なくなってしまいます。最低限の言葉で表現しないといけないところが難しいですね。
一方で、オペレッタはお客様を楽しませるもの。オペラに対するオペレッタというのは、能に対する狂言のように、同じ能舞台で能も演じれば狂言のような面白い演目もするといった立ち位置だと思っています。『こうもり』は復讐劇と謳ってはいますが、いたずらされたからいたずらの仕返しをするというとても楽しい物語で、根っからの悪人は出てこない。そういうところが宝塚歌劇にぴったりだと感じています。
北翔海莉と紅ゆずる。どちらが騙されたほうが面白いか?
——ファルケ博士役を主役にした狙いは?
北翔と紅。2人のことは宝塚音楽学校時代から知っていますので、2人の持ち味からどちらが騙されるほうが面白いかと考えると、北翔が企む側で、紅が騙される側だろうと(笑)。それならいっそのこと主人公を変えて、いたずらを仕掛けるファルケ博士を主役に、北翔が演じるファルケ博士の復讐劇にしようという結論に至りました。
本番ならではの“ドラマ”に注目
——ファルケ博士役を演じる北翔海莉への期待は?
『THE MERRY WIDOW』のときもそうでしたが、北翔は長年ステージに立っているだけあって、お客様に対するサービスの意識をしっかり持っています。『こうもり』は北翔が酔っ払うシーンから芝居が始まるのですが、稽古が始まったばかりの今でも、もう何かやりたそうな顔をしている。そんな北翔と紅を放っておいたら、アドリブが入って上演時間がどんどん延びるだろうなと(笑)。本番では、上演時間を越えない程度にお客様を楽しませてほしいと思っています。
また、コメディはテンポが大切。昔のオペレッタで笑いを誘えていた場面も、今はもっと速い間じゃないと笑ってもらえないこともある。現代的にアレンジした中で、今の笑いの魅力を追求してもらいたいですね。
——妃海風や紅ゆずるに期待することは?
妃海は普段から本当に明るくて元気な印象です。今回のメイド役にもぴったりなので、それが伯爵夫人に変装したときに、どれだけお客様を納得させられるかどうか。そこが楽しみですね。
紅に関しては、もともと笑いのツボを心得た大阪人ですから(笑)、お稽古を重ねて行く中で、自由に演じられるようになればと期待しています。この演目は次々と曲を歌い継いでいくので、どこまで彼女らしく自由に表現できるかが鍵。そこを乗り越えれば面白いのは絶対だと思います。
垣根を越えて楽しめる愉快な作品
——お客様へのメッセージ
『こうもり』は宝塚歌劇とか、オペレッタとか、そういう世界の垣根を越えて楽しめる作品です。また、この公演は第102期生の初舞台公演でもあります。
宝塚歌劇というのは、宝塚音楽学校で学んだ生徒が初舞台公演でお披露目をして、その中からスターが出てくるという伝統を守っている劇団。そのスタートがこの春の初舞台公演です。とにかく楽しい舞台ですので、宝塚歌劇が初めての方でもご覧いただきやすい作品になっていると思います。どうぞご期待ください。
谷正純×名作オペレッタ
名作オペレッタを原作とした、MUSICAL『こうもり』。
本作品で脚本・演出を担当する谷正純はこれまでにも名作オペレッタの世界に独自のアレンジを加えて、宝塚歌劇の舞台へと送り出してきました。
メリー・ウィドウ
2013年 月組公演
MUSICAL 『THE MERRY WIDOW』
~オペレッタ「メリー・ウィドウ」より~
主演/北翔海莉(当時専科)
<あらすじ>
1905年、ポンテヴェドロ王国。国王から国家存亡に関わるという重大な任務をくだされ、パリ行きを命じられたダニロ伯爵。パリへの訪問に浮足立つダニロだったが、国王からの使命が、ポンテヴェドロ随一の大富豪の莫大な遺産を相続した未亡人ハンナの財産が他国へ流出しないよう、彼女と結婚することだと知る。実は、ダニロとハンナは、かつて結婚の約束までした元恋人同士で…。
優美な音楽と心沸き立つ踊り、そして笑いの洪水の中で繰り広げられる、お洒落な大人の恋物語です。
ウィーンでは年末恒例のオペレッタとして有名な「メリー・ウィドウ」。この物語を斬新な手法で大胆にミュージカル化した本作には、特別出演として星組トップスター・北翔海莉(当時・専科)が出演しました。
オペレッタならではのクラシカルでユーモアな楽曲の数々を、北翔は持ち前の歌唱力をいかして情感たっぷりに歌い上げ、オペレッタの世界を見事に表現しました。
谷正純が語る!
オペレッタではポピュラーとは違うクラシックの発声ができないと成立しません。北翔はクラシックの発声ができて、歌唱力もあります。また、『THE MERRY WIDOW』では歌だけではなく、北翔がカンカンを踊るシーンがあり、お客様にもとても楽しんでいただけましたし、北翔もオペレッタの楽しさを実感していたようです。
ジプシー男爵
2010年 月組公演
ミュージカル 『ジプシー男爵 -Der Zigeuner Baron-』
-ヨハン・シュトラウスII世 喜歌劇「ジプシー男爵」より-
主演/霧矢大夢、蒼乃夕妃
<あらすじ>
舞台は18世紀のハンガリー。テメシュバールの街には、トルコ支配時代に隠された財宝が眠っていると噂されていた。その街へ無実の罪で亡命を余儀なくされたテメシュバールの領主の息子シュテルク・バリンカイが帰還する。彼はジプシー娘ザッフィの美しい歌声に導かれるように、バリンカイ家の城跡にたどりつく。するとそこへ、続々とジプシーたちが集まってきて…。
隠された財宝を巡って巻き起こる騒動と、恋の波乱を美しい旋律に乗せて描いた物語です。
「こうもり」と同じく”ワルツ王”ヨハン・シュトラウス二世が作曲したオペレッタ「ジプシー男爵」に宝塚歌劇らしいアレンジを加えたミュージカル作品。陽気な物語を盛り上げるような華やかな曲や、ジプシーの哀愁を漂わせるような切ないメロディのものまで、オペレッタならではの壮大な楽曲の数々が散りばめられた公演となりました。
谷正純が語る!
オペレッタの楽曲を歌いこなすために必要なクラシカルな発声法は宝塚音楽学校時代に練習しているので、生徒はみなその素養を持っています。最近では、なかなかその練習の成果をお聞かせする機会がありませんので、このような公演でオペレッタの楽しさを再発見していただきたいです。
長きに渡って愛されてきた名作オペレッタに、宝塚歌劇ならではのスパイスを加えて、新たな魅力を引き出してきた谷正純。
彼の手によって、名作オペレッタ「こうもり」は宝塚歌劇の舞台でどのように花開くのか。どうぞご期待ください!