心躍る『THE ENTERTAINER!』
演出家 野口幸作が語る『THE ENTERTAINER!』のハイライト
北翔海莉がトップスター就任後、星組にとって初となる宝塚大劇場でのショー作品、また自身の宝塚大劇場デビュー作であり、さらには第102期生の初舞台公演と話題が目白押しのショー・スペクタキュラー『THE ENTERTAINER!』。
この作品のハイライトや、宝塚歌劇のショーの醍醐味について、演出家 野口幸作が語ります。
幼少時に出会った華やかな世界をいま、自らの手で
——『THE ENTERTAINER!』が宝塚大劇場デビュー作になりますが。
私は今年、宝塚歌劇団に入団して10年目になるのですが、宝塚歌劇との出会いは小学生の頃にさかのぼります。テレビで初めてショーの舞台中継を観たとき、世の中にはこんなに華やかなエンターテインメントがあったんだと驚いた記憶があります。学生時代も宝塚歌劇のパンフレットに載っていた台本を見ては、ショーの構成を研究することが好きで……。ミュージカルを手掛けたいという思いで、入団してからはミュージカルの原点でもあるショーのつくり方を勉強してきたつもりです。今回はその成果として、私の大好きな宝塚歌劇の要素と、究極のエンターテイナーである星組トップスター・北翔海莉の魅力、そして今の星組の魅力を融合させたショーをつくっていきたいと思っています。
鼻歌を口ずさみながら帰っていただける作品に
——ずばり、ショーの見どころは?
第一幕の『こうもり』がヨーロピアンスタイルのオペレッタ作品なので、第二幕の『THE ENTERTAINER!』はアメリカンスタイルのショーを展開していきたいと考えています。プロローグは、映画「スティング」の主題歌でおなじみの「THE ENTERTAINER」をアレンジした曲、そして青木朝子先生の作曲で、私が作詞した“胸キュン”ワード満載の主題歌、この2曲を歌いながら、トップハット、ケーン、羽根扇、大階段といった宝塚歌劇のショーといえば、という定番アイテムをすべて詰め込んだ“ザ・タカラヅカ”なシーンから始まります。
プロローグの総踊り後には、今年宝塚歌劇団に入団した第102期初舞台生によるロケットダンスを披露。春の空に飛翔する鳥をイメージした桜色の衣装を着た初舞台生が、春にちなんだ曲のメドレーに乗って踊ります。そしてフィナーレでは、北翔たちがゴージャスなナンバーを熱唱します。
このように明るく、楽しく、華やかな、お客様の心をずっと離さないショーにできたらと思っています。そして、宝塚では花乃みち、東京では日比谷シャンテあたりを、鼻歌を口ずさみながら帰っていただけるような作品にしたいですね。
北翔海莉の芸達者ぶりを余すことなく披露
——ショースターとしての北翔海莉の魅力は?
何でも上手にこなす人をよく“三拍子揃った”と言いますけれども、北翔にいたっては歌、お芝居、ダンス、そしてピアノや三味線など楽器もできて本当に芸達者。今回の舞台では、彼女のマルチぶりを十二分に披露したいと思っています。
もちろん、星組の一人ひとりもエンターテイナーですから、それぞれの魅力もお伝えできたらと考えていて、各人の個性に合った見せ場をつくっていきたいなと。それは宝塚歌劇の生徒をよく知っていないとできないことですから、座付き作家の腕の見せどころだと思います。
——妃海風や紅ゆずるの魅力をどのように表現したいか?
私の中での妃海は、アメリカ女優の香りのするコケティッシュな魅力があって、ディーバ(歌姫)という印象が強いんです。そんな彼女の魅力を生かす場面を考えていますよ。
また、北翔と妃海のジャズのスキャット対決も見どころの一つです。プロ意識が高い2人の、おしどり夫婦のような仲睦まじい様子をできるだけお見せしたいので、今回はデュエットダンスを多めに取り入れています。
一方、紅はユーモアセンスにあふれている人物なので、彼女のパーソナリティが出せるような場面の工夫も考えています。もちろん男役としても素晴らしいものを持っていますので、紅がリードする場面もつくろうと思っています。
歌唱力、個性とも豊かになった新生星組
——現在の星組の印象は?
私は以前から星組公演の演出助手につくことが多く、そのときに感じたのは団結力です。一つにまとまったときの力がものすごい!そのような星組が一つになったものをお見せしたくて、今回は初舞台生も含めた100人以上が参加する、男役は黒燕尾、娘役は黒燕尾ダルマ姿による大スペクタクルなロケットを取り入れました。
そして、北翔がトップスターに就任してからは、歌をより丁寧に歌う組になったという印象があって、組全体の歌唱力が上がってきていると思います。というのも歌稽古中も、北翔が率先して組を指導しているシーンをよく目にします。そういった北翔の姿を見て、さらに星組メンバーの意識が高まり、一人ひとりの個性が豊かになってきたように感じます。ですからダンスはもちろん、歌もきちんとお聞かせできるように、それも皆が一つにまとまった聞きごたえのあるコーラスに仕上げていきたいと思っています。
——宝塚歌劇のショーの醍醐味とは?
宝塚歌劇のショーが他の舞台と大きく違うのは、大人数の出演者が大掛かりな舞台装置を使って繰り広げる“スペクタクルなエンターテインメント”という点だと思います。しかも、短い時間で舞台転換や早替わりを繰り返すなど、展開がスピーディーなところも魅力の一つ。いまの宝塚歌劇のショーは、その原型ともいえるレビューである1927年の『モン・パリ』に始まり、さまざまな演出家が、古今東西の作品を研究し工夫してきた積み重ねのエンターテインメントです。そうしてお客様に楽しんでいただいてきた伝統を守りつつ、定石に従う部分、定石を外す部分を選択して、自分なりのショーをつくっていきたいです。
宝塚歌劇の醍醐味は、やはり“生の舞台”
——お客様へのメッセージ
いまはタカラヅカ・スカイ・ステージやブルーレイ、DVDでも宝塚歌劇をご覧いただいて、多くの方々に、宝塚歌劇を身近に感じ、楽しんでいただける良い時代になりました。ですが、宝塚歌劇の一番の醍醐味は、やはり生の舞台をご覧いただくことだと思います。ぜひ、劇場に足をお運びいただき、星組公演『こうもり』『THE ENTERTAINER!』をお楽しみいただけたら嬉しいです。
ショーでみる!北翔海莉の魅力
星組トップスター・北翔海莉にとって宝塚大劇場・東京宝塚劇場公演では初の主演ショー作品となる『THE ENTERTAINER!』。観客を虜にする表現力、高い技術力、そして熱いハートが備わった北翔海莉ならではの舞台に期待が高まる。そこで彼女の最近のショーシーンの中から、類まれなエンターテインメント性を振り返ってみよう。
幅広い楽曲を歌いこなす歌唱力
北翔海莉 Dramatic Revue『LOVE&DREAM』
—I. Sings Disney/II. Sings TAKARAZUKA —
構成・演出/齋藤 吉正
“Sings Disney”と題したⅠ部ではディズニー作品の名曲を次々と披露。楽しく弾むように歌う「ミッキーマウス・マーチ」、深みのある心地よい熱唱「サムディ」、妃海風との美しいデュエット「ホール・ニュー・ワールド」など、ディズニーの魅力が北翔海莉の歌声でさらにミラクルに開花した。Ⅱ部“Sings TAKARAZUKA”では宝塚歌劇の名曲を歌い、男役・北翔海莉の魅力を印象付けた。包容力溢れる歌声で聞かせた「朝日の昇る前に」、セクシーな大人っぽさで魅了した「セ・マニフィーク」、北翔海莉のバウホール主演作から生まれた名曲「THE SECOND LIFE」の、どこまでも優しく響き渡る歌声。全場で20曲以上を一気に魅せる構成は、北翔海莉の歌声の計り知れない魅力を伝えることとなった。終盤の「シナーマン」は劇場を揺り動かしそうな力強い大熱唱。幕が下りると一瞬の静寂の後、拍手がしばらく鳴りやまず、劇場は大きな興奮に包まれた。
華麗なダンサーとしての魅力
ブロードウェイ・ミュージカル『ガイズ&ドールズ』-GUYS & DOLLS-
A Musical Fable of Broadway
Based on a Story and Characters of Damon Runyon
Music and Lyrics by Frank Loesser
Book by Jo Swerling and Abe Burrows
原作/デイモン・ラニヨン 作曲・作詞/フランク・レッサー
脚本/ジョー・スワーリング、エイブ・バロウズ
脚色・演出/酒井澄夫
翻訳/青井陽治 訳詩/岩谷時子
“GUYS AND DOLLS is presented through special arrangement with Music Theatre International (MTI).
All authorized performance materials are also supplied by MTI.
421 West 54th Street, New York, NewYork 10019 USA Phone:212-541-4684 Fax:212-397-4684 www.mtishows.com”
ダンサーとしても評価の高い北翔海莉。ブロードウェイ・ミュージカル『ガイズ&ドールズ』では、彼女の魅力を引き出すフィナーレナンバーが北翔海莉の宝塚大劇場トップお披露目公演を彩った。大階段を使った男役の群舞は「運命よ、今夜は女神らしく」を原詩で歌う北翔海莉の深い歌声からスタート。ソフト帽の扱い、一つひとつのポーズまで、計算し尽された男役の色気が漂う。北翔海莉が演じたギャンブラー スカイ・マスターソンの粋な格好良さも感じさせる、ダイナミックなダンスで魅了した。続く妃海風とのデュエットダンスでは、相手役を包み込むハートフルな持ち味が全開。甘い空気を自然に出せるのも大きな強みだ。
古き良き宝塚歌劇らしさも感じさせる、クラシカルな男役としての魅力
ロマンチック・レビュー『Amour それは…』
作・演出/岡田 敬二
星組トップスター就任後の第一作目となった全国ツアー公演『Amour それは…』。往年のレビュー作家への敬意をこめて、宝塚歌劇の王道をつめこんだロマンチック・レビュー・シリーズ(岡田敬二作・演出)でも、北翔海莉の安定感、表現力が冴えわたった。愛の喜び、命の尊さを謳いあげる主題歌をはじめ、エキゾチックな衣装で踊る色濃いラテンナンバー、黒燕尾姿の男役の群舞までクラシカルさと新鮮さを併せもった魅力を発揮してそのスター性を放った。客席を歩きながら歌い上げたシーンでは、1970~80年代の名曲「Mr.Lonely」など3曲を英語で披露。北翔海莉のプロフェッショナルな“芸”で観客との一体感溢れる至福の時間を紡いだ。
『THE ENTERTAINER!』の演出家・野口幸作は、「何でも上手にこなす人をよく“三拍子揃った”と言いますが、北翔にいたっては歌、芝居、ダンス、そしてピアノや三味線など楽器もできて本当に芸達者。」と語る。探究心を失わず、常にチャレンジしながら芸を極め続ける北翔海莉の待ちに待ったオリジナルショーは、宝箱を開けたような未知の輝きとエネルギーに溢れていることだろう。