演出家インタビュー
演出家 原田諒が語る『雪華抄(せっかしょう)』の見どころ
骨太なテーマを、大胆でありながら繊細に描き出す、確かな手腕が高く評価される原田諒。今回、初の日本物レビューに挑む原田に話を聞いた。
色彩的にも贅沢な、格調高い正統派の日本物レビューを
——もともと日本物レビューに興味があった?
幼い頃から歌舞伎や古典芸能は好きでしたので、宝塚歌劇の日本物レビューを観た時は、とても衝撃的だったことを覚えています。オーケストラで行うというだけでなく、男役の若衆姿ひとつをとっても、宝塚歌劇独特の日本物の美しさがあり、ただただ圧倒されました。
——初めて日本物レビューを手掛けるにあたって
実は、これまで藤間勘十郎(8世)さんの日本舞踊の台本をいくつか書かせていただく機会があったのですが、宝塚歌劇の日本物レビューというのはそれともまた違いますし、もっとベテランの先生方が手掛けられるものだと思っていましたので、今回のお話をいただいた時は正直驚きました。
本来三味線の音色や“間”で踊る日本舞踊を洋楽で演じることの難しさを考えると、宝塚創設期からここに至るまでの道のりは大変なものであっただろうと思います。しかしながら、演出の先輩方や歴代のスターたちはそれを成し得てきたわけですから、そういった宝塚歌劇ならではの日本物レビューの伝統とそのDNAは、今の出演者たちにも脈々と受け継がれているはずだと信じています。花組としては、『花は花なり』(日本物の舞踊ショーと芝居で構成)以来、約21年ぶりの日本物レビューとなりますが、きっと初日までにいい仕上がりになると思います。
——今作のテーマや見どころは?
今日の宝塚歌劇では、枠にとらわれない多彩な日本物作品が上演されています。今回は、明日海りおというトップスターを中心とした花組の布陣から考えて、正統派の美しい日本物レビューがぴったりかと思いましたので、“春夏秋冬”“花鳥風月”といった日本ならではの趣をテーマにご覧いただければと思っています。日本は四季の移ろいがあり、春に桜が咲けば“日本人で良かった”と誰もが実感しますよね。そういった日本の良さもこの作品で楽しんでいただければと思います。
——一方で、現代的なエッセンスを加える構想もあるとか
普段あまり日本物に馴染みのない方や、現代のお客様の感性に合うものにするにはどうすればいいか……。いわゆる正調の日本物レビューではありますが、ある種の現代性は意識したいと思い、国際的に活躍されているファッションデザイナーの丸山敬太さんに衣装デザイン・監修をお願いしました。
——丸山敬太さんに依頼したきっかけは?
以前から丸山さんとは面識があり、その感性や美意識に惹かれるものがありました。いつかは仕事でご一緒できればと考えていたところ、今作のコラボレーションの運びとなったわけです。丸山さんの色彩感覚、繊細さ、ファンタジックな部分がうまく宝塚歌劇の舞台に反映されたらと、とても楽しみにしています。衣装のデザイン画を拝見した折には、色彩的にも豊かな世界観を表現できると確信しました。
明日海りお率いる今の花組の魅力について
——主演の明日海りおの魅力をどう活かすか?
今回は、明日海りおの美しさはもちろん、彼女の様々な面をお見せしたいと思います。ソフトな部分だけでなく、男役としての骨太さも増してきましたので、作品としても緩急に富んだ内容にして、単なる若衆姿だけではなく、彼女の多面性を引き出せるように創っていきたいと思っています。
——その他にも花組には頼もしいメンバーが揃っていますが
花乃まりあは宙組公演『ロバート・キャパ 魂の記録』以来の再会となりますが、立派なトップ娘役になったと感じています。彼女にとっての花道、娘役としての集大成となるような場面も考えています。
今の花組を支える中心の一人、芹香斗亜は、ここ数年、いちじるしく役者としての厚みが出てきたと思います。明日海とのコンビネーションも、とてもいいバランスですね。柚香光とは三度目の仕事となりますが、独特の個性がより増して、男役としての魅力が深まってきたと思います。
2016年、私は『For the people —リンカーン 自由を求めた男—』の作・演出に始まり、『ME AND MY GIRL』の演出補と、1年間ずっと花組と共にあったのですが、改めて人材豊富な組だと感じています。男役も娘役も充実期に入っていますし、様々な個性があって、とても華やかですね。そんな彼女たちの魅力をきちんとお届けできる作品を目指したいです。
——専科から特別出演の松本悠里さんについては?
ミエコ先生(松本悠里の愛称)が出演してくださるということで、とてもありがたく、気の引き締まる思いです。作品の層がグッと厚くなりますし、稽古場では、ミエコ先生の場面になると花組生も緊張した面持ちで見入っています。こうして宝塚歌劇の伝統や精神は綿々と引き継がれていくのだなと実感しています。
——作品を創る上で大切にしていることは?
常日頃から、宝塚歌劇でしか表現できない色彩や格調、品格、夢を大切に創っていきたいと思っています。
とはいえ、こういう仕事は勉強してどうこうというよりも、自身の感性や美意識に委ねられるところが多いと思います。もちろん知識も必要ですが、それをいかに自分の中で咀嚼して、宝塚歌劇の舞台として表現していくのか……。かつて岸田辰彌先生や白井鐵造先生が、パリで大人の香り漂うレビューをご覧になり、それを宝塚歌劇に合うように、いわゆるスミレ色のベールをかけて、甘く、そして清く正しく美しくと、アレンジして創ってこられたからこそ、宝塚歌劇は100年以上続いているのだと思います。その伝統を汚すことなく、宝塚歌劇の作品として恥ずかしくないものにしたいです。
——お客様にメッセージを
宝塚歌劇でしかできないこと、宝塚歌劇だからできることがまだまだたくさんあると感じています。今回の作品も、宝塚歌劇だからこそできるものだと思っています。出演者、スタッフ一丸となって取り組んでおりますので、ぜひとも“贅沢な夢”を楽しんでいただけたら嬉しく思います。
プロフィール
[演出家] 原田 諒
- 2003年に宝塚歌劇団に入団。バウ・ミュージカル『Je Chante(ジュ シャント) -終わりなき喝采-』(2010年宙組)で演出家デビュー。『ニジンスキー -奇跡の舞神-』(2011年雪組)を経て、2012年『華やかなりし日々』(宙組)で宝塚大劇場・東京宝塚劇場デビューを果たす。この『華やかなりし日々』と『ロバート・キャパ 魂の記録』(2012年宙組)で第20回読売演劇大賞 優秀演出家賞ほかを受賞。その後も『白夜の誓い -グスタフⅢ世、誇り高き王の戦い-』(2014年宙組)、『アル・カポネ -スカーフェイスに秘められた真実-』(2015年雪組)、『For the people -リンカーン 自由を求めた男-』(2016年花組)を作・演出。いま最も注目を集める若手演出家の一人。
演出家 上田久美子が語る『金色(こんじき)の砂漠』の見どころ
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愛憎あいなかばするスリリングな展開でカタルシスを
——今作への意気込みは?
これまでの私の作品よりも“エンターテインメント性”を意識して創りました。フィナーレナンバーもありますので、お客様に時を忘れて夢中になっていただければと思います。スリリングな展開で、最後にはカタルシスを得ていただけるような作品にしたいと思っています。
——「トラジェディ・アラベスク」と銘打っていますが
“アラベスク”の唐草模様というイメージから、絡み合った因果応報の“トラジェディ(悲劇)”という意味合いを込めました。“愛憎あいなかばする”という言葉がありますが、愛と憎しみは表裏一体というところがあります。現実でそのようなことが自分の身に降りかかることはなかなかありませんが、強烈な愛が憎しみに転じ、でもその裏にはまだ愛がある……という役柄を明日海りおに演じてほしいと思い、当て書きしました。芝居の舞台は古代の砂漠、イスラム教が生まれるよりも昔、紀元1世紀ぐらいの時代で、架空の世界の王朝をイメージしています。
——明日海りおの魅力は?
明日海は役者としてたぐいまれな才能を持った人だと感じています。その美貌でまず注目されることが多いのですが、誰よりも強くて深い感情を持っていて、その内面性は役者としての稀有な才能だと思います。きっと幼い頃からのさまざまな経験から培われてきたのでしょう。役創りも直感的にシミュレーションし、カチッとパズルのピースのようにはまれば、すぐにできてしまう人だなと感心しました。
——明日海りおが演じる奴隷・ギィとは?
役どころは、花乃まりあ演じるタルハーミネの奴隷。ギィは聖人君子の役ではなく、道徳や善というものを超越したようなキャラクターです。明日海は激情のままに恋愛や自分が情熱を傾けるものに向かっていくような役柄が似合うと思います。花乃のタルハーミネも同じようなタイプで、他の人には理解できなくても二人だけは分かり合える、そして主人公とヒロインが二人だけの世界に突き進んで行ってしまう、そういうストーリーになっています。
——花乃まりあの役どころは?
彼女が演じるタルハーミネは、イスファン国の第一王女。天真爛漫で、聖女のような悪女のような人物です。自由奔放で、悪いことを言ったり行動に移したりしてもそれが魅力に見えるような役です。宝塚歌劇の娘役が演じるには難しいキャラクターですが、花乃自身にエネルギッシュな魅力がありますから、彼女が演じるからこそタルハーミネは「素敵だな」と感じていただけると思います。
——芹香斗亜に期待することは?
芹香は生まれ持ってのスケール感が魅力の一つ。彼女が演じる奴隷のジャーは、二人だけの世界に行ってしまうギィとタルハーミネを、お客様と同じ価値観で見守る、語り部を兼ねた難しい役です。ジャーはとても情が深く、女性にとってはある種理想の男性像です。その彼の人間的な温かみは悲劇である物語全体を救うような役割を担っています。そのような“体温”は「持ってください」と言って持てるものではなく、彼女が本質的に持っているものですから、とてもニンに合っていると思います。
——専科から特別出演の英真なおきさんについては?
英真さんが舞台にいると、そのキャラクターが本当に存在して、リアルに生きているという感覚が呼び起こされます。所詮は虚構の世界だと思って観るのと、舞台上の世界が現実にあって登場人物が実際に存在するのだ、と感じながらご覧いただくのとでは全然違います。そういった意味で、英真さんは、常に舞台にリアリティを与えてくれる方です。
華やかなフィナーレ、デュエットダンスで芝居も完成
——ポスターへのこだわりは?
私が宝塚歌劇団に入団する前、宝塚歌劇を観ようかなと思ったとき、まずはポスターを見て演目を選んでいたのですが、折角観るのなら“オーソドックスなタカラヅカ体験”をしたいと思っていました。例えば京都へ行ったら“湯豆腐”を食べて“哲学の道”を歩こうかなと思うような感覚ですね(笑)。そんな自分の体験を踏まえて、今回は古典的な宝塚歌劇の王道を意識しました。ギィがタルハーミネのマントを握っていますが、これは“彼女をつかみたい”という彼の思いも表現しています。
——演出やセットでの新たな試みなどは?
本来、私は落ち着いて芝居を観たいタイプなので、一場面が終わったらカーテンが締まって転換、というシンプルな様式が好きなのですが、今回はそれではスムーズに場面転換ができないので、盆が回り、抽象的なセットを様々なものに見立てるという“構成舞台”を考えています。若干映像も使う予定ですが、これも私の中では挑戦ですね。どの手法が自分の作品に合うのかは一度試してみないとわかりませんから、あえて今までやってこなかったものに挑んでみます。また今回は濃厚で艶やかな世界観のお芝居なので、ラブシーンについても新たな試みをしております。こちらもご期待いただければと思います(笑)。
——フィナーレについて
一番の見どころは、やはりトップコンビのデュエットダンスです。役のイメージで踊るので、ある意味このデュエットダンスで本編が完成する、と言っても過言ではないぐらいです。お芝居も華やかな衣装で豪華になりますし、本編と共にフィナーレもぜひお楽しみください。
——お客様にメッセージを
今稽古場で観ていて、正直「面白い!」と(笑)。一観客目線でエンターテインメントとして脚本を書いたからかもしれません。作品を創らなければというプレッシャー以上に、面白いなと感じることが多いです。また、主人公の明日海は役のキャッチも素晴らしく、常に私が想定していた以上の演技を見せてくれるので、お客様にも楽しんでいただけると思っております。
※ご利用環境によっては「逢」の文字が正しくご覧いただけない場合がございますが、1点しんにょうの「逢」です。
プロフィール
[演出家] 上田 久美子
- 2006年に宝塚歌劇団に入団。バウ・ロマン『月雲(つきぐも)の皇子(みこ)』-衣通姫(そとおりひめ)伝説より-(2013年月組)で演出家デビュー。同年に東京特別公演として同作を再演。『翼ある人びと-ブラームスとクララ・シューマン-』(2014年宙組)を経て、2015年『星逢一夜(ほしあいひとよ)』(雪組)で宝塚大劇場・東京宝塚劇場デビューを果たす。この作品で読売演劇大賞の優秀演出家賞を受賞。綺羅星のごとく輝きを増す若手演出家の一人。