演出家インタビュー

演出・振付 謝珠栄氏が語る『凱旋門』の見どころ

日本を代表する演出家・振付家として活躍し、宝塚歌劇団でも数々の名作を残している謝珠栄氏に、名作『凱旋門』を、18年の時を経て再び上演するにあたっての胸の内を聞いた。

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『凱旋門』再演への意気込み。

“名作”“傑作”と言っていただくたびにプレッシャーを感じております(笑)。柴田侑宏先生は男女の恋愛をとても丁寧で繊細に描かれる方なので、その部分は何より大切にしたいと思っています。それに加えて、私の役目は、“生きる”ということに向かう人々のエネルギーの輝きや強さをお客様にお伝えすることかなと感じ、初演の時からその点にこだわっていました。今回も初演から変わらず、暗闇が迫りつつある花の都パリで、戦争に翻弄されながらも懸命に生きようとする人々の姿を見ていただければと思っています。ただ、出演者に合わせて、セットも衣装も新しくしますし、音楽の変更や追加もありますので、私としては新しい作品を創るのとまったく同じで、新鮮な気持ちです。

初演と再演の違いについて。

初演の際、パリの街を表現するために舞台の“盆”を多用する演出をして、出演者の方たちに「迷子になりそう」と言われましたが(笑)、そこは今回も変えずにいきたいと思っています。初演との一番の違いは、ラヴィックの友人であるボリス役を、今回は、雪組トップスターの望海風斗さんが演じるということです。ですから、ボリスという役をふくらませることが一番の変更点で、柴田先生も脚本を書きかえていらっしゃいますし、歌も増やす予定です。

初演で主演を務めた轟悠と、トップスター・望海風斗を中心とした今の雪組が共演することの意義。

雪組生たちは轟さんとの共演に緊張しているのではないかと心配していたのですが、ポスター撮影の時、轟さんと、望海さん、真彩さんがすでに良い雰囲気を作っているなと感じました。望海さんは轟さんを姉のように慕っていましたし、実力があり、真面目な望海さんのことを、轟さんも信頼しているという空気も伝わってきました。轟さんが出演した『For the people —リンカーン 自由を求めた男—』(2016年花組)を観た時、心の中を吐露する演技が素晴らしく、共演の花組生たちがそれについていこうとする意気込みを感じました。そのことにより、組全体の演技力がとてもレベルアップしたのを目の当たりにしました。今回、雪組の皆さんにとっても、舞台に対する気持ちや表現者として大切なことを新たに発見する良い機会になると思いますし、それを伝えることが、今の轟さんに与えられた役目ではないかとも感じます。

再びラヴィックを演じる轟悠について。

初演でラヴィックを演じる前から、轟さんの硬派な面とラヴィックの人間性に相通じるところがあるなと感じていましたが、舞台上で実際に演じた姿からは、思っていた以上に、それまで見えていなかった魅力が出ていました。役者にはそれぞれ特質がありますが、『凱旋門』は彼女の持ち味に合っているのだなと思いました。当時でも彼女の演技はすでに完成されていたと思いますが、今回は、18年の間にキャリアを重ねた分だけ、さらに深みのある演技を見せてくれるでしょうし、もっともっと素晴らしいものになると確信しています。最近の彼女の成熟した演技を見て、これなら大丈夫と、とても信頼しています。

ボリスを演じる望海風斗について。

望海さんとは、『るろうに剣心』(2016年雪組)の振付を担当したくらいで、ほとんどご縁がなかったのですが、客席から舞台を観て、ぜひ一緒に仕事をしたいと思っていました。影があるけれども正統派の二枚目もできる、そして、悪役を演じてもすごく素敵という、とても魅力的な男役さんですね。ボリスは、本当は貴族で、ロシア革命の時にパリに逃げてきたという人物ですので、軍人気質のある部分や、クールに見えて、実は人間味がある部分などを掘り下げてみたいとも思いますが、とても歌唱力が高いので、台詞にはない部分を彼女の歌声で表現してくれたら嬉しいですね。ラヴィックとは全く違う性格のように見えて、実は似た面があるということを、彼女なら表現できるだろうと期待しています。

ジョアンを演じる真彩希帆について。

轟さんが真彩さんのことを「タンポポのような子だ」と言っていました。笑顔がかわいくて、“天然”なところがチャーミングで(笑)。そんな彼女にとって、ジョアン役を演じることは挑戦になるかもしれません。しかし逆に、真反対の性格の役だからこそ、意外な良さが出るかもしれないとも思っているんです。ジョアンは、甘い声で男性に寄り添ったり、独りになった途端に自分に言い寄る男性を頼ったりと、見方によっては女性に嫌われかねないタイプの女性です。それは戦争という時代のせいかもしれませんし、生きていくためには仕方なかったのかもしれません。そんな微妙な女心を、タンポポのような真彩さんがどう演じるか、とても楽しみです。

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最後にお客様にメッセージを。

望海風斗さん率いる雪組が新体制になって間もない公演であり、初演時よりキャリアを積んだ轟悠さんが再びラヴィックを演じる公演でもありますので、新鮮さと実績を一気に集めたような、中身の濃い作品にしたいと思っております。柴田侑宏先生の力作、そして、作曲を担当された寺田瀧雄先生の最後の作品でもある『凱旋門』を、私自身も初演よりレベルアップした作品にできるよう、稽古場で奮闘したいと思いますので、出演者たちの演技にぜひご注目ください。

【プロフィール】

謝 珠栄

兵庫県出身。1971年、宝塚歌劇団に首席で入団。翌年花組に配属され、男役として活躍。1975年に退団後、ニューヨークへ留学。帰国後、1978年に東京キッドブラザース『冬のシンガポール』で振付家としてデビュー。“演劇的踊り”が高く評価され、個性的な振付は演劇界に大きな衝撃を与えた。
1981年、劇団夢の遊眠社(野田秀樹主宰)の振付を担当し、以後、同劇団の全作品を振付した。また『こまつ座』(井上ひさし主宰)や青年座等の演劇関係、劇団四季や東宝などの海外ミュージカルの振付を手掛ける一方、映画やTVなどの分野でも振付家として幅広く活躍。1985年、TSミュージカルファンデーションを設立し、オリジナルミュージカルの企画・製作を手掛け、話題作を発信し続けている。1990年より本格的に演出家へと転向。芸術選奨文部大臣新人賞、菊田一夫演劇賞のほか、紀伊國屋演劇賞個人賞、読売演劇大賞最優秀スタッフ賞、松尾芸能賞などを受賞。
宝塚歌劇関連では、1998年月組公演『黒い瞳』において卒業生初となる演出・振付を担当し、ドラマティックなステージングで観客を魅了。その後、1999年『激情』、2000年『凱旋門』、2002年『ガラスの風景』、2007年『MAHOROBA』、2015年『黒豹の如く』の演出・振付を手掛け、いずれも独創的な舞台が好評を博す。
2016年、多摩美術大学教授、梅花学園芸術監督に就任。