『アクアヴィーテ!!』の世界 presented by Bar大介
宝塚を心から愛する人たちがこぞって通う幻の店がひと公演限りのオープン。その名は“Bar大介”。
オーナーバーテンダーは、研ぎ澄まされた五感で、ファンのニーズを捉えた作品を次々と発表し続けている、宝塚歌劇団演出家の藤井大介だ。
今回、宝塚大劇場では2019年を締め括り、東京宝塚劇場では2020年の幕開きを飾る、ウイスキーをテーマに構成されたショー『アクアヴィーテ(aquavitae)!!』について、オーナーバーテンダー自ら、見どころなどを語ってくれた。
ウイスキーは大人の男こそ似合う
私にとって憧れの味
なぜ、ウイスキーをテーマに?
私は、これまでもカクテルをテーマにした『Cocktail』(2002年花組)、ワインをテーマにした『Sante!!』(2017年花組)という作品を創りましたが、実は、いつかウイスキーをテーマにしたものをやりたいと、ずっと機会を狙っていました(笑)。
夢が叶うわけですね。
そうですね。今回、宙組のショーを担当することが決まり、ガウンを着た真風涼帆が、広いリビングでソファに座って、独り静かにウイスキーのロックを飲んでいる姿がパッとひらめいて(笑)、今回はウイスキーでいこう、と決めました。今まで温めてきたテーマに、ピッタリの出演者がめぐり合い、『アクアヴィーテ(aquavitae)!!』という作品を生み出すことができて、感慨深いですね。
自身にとって、ウイスキーとは?
宝塚歌劇団に入団して演出助手をしていた頃、大先輩の先生によくバーに連れて行っていただきました。お店の雰囲気から、なんとなく背伸びをしてウイスキーを飲んでいたのですが、“これが大人の味なんだな”と感じると同時に、“いつかウイスキーの似合う大人の男になりたい”という思いがありました。私にとってウイスキーは大人の味であり、憧れでしたね。
ウイスキーにまつわる思い出はありますか?
学生時代は友人と安いウイスキーの瓶を開けてワイワイ騒いでいました。入団してからも、よく齋藤吉正君と演劇談義なんかをしていたのですが、その時に飲むものは決まってウイスキーでしたね。
Chaser1
アクアヴィーテの始まり
錬金術によって生み出された“生命の水”
ラテン語で「生命の水」という意味が「アクアヴィーテ」です。ウイスキーの発祥にはさまざまな説があり、どれが正しいのかは謎に包まれています。その中でもユニークだと思ったのが、4世紀頃のエジプトで、とある錬金術師が非常に強い薬を作り上げたらしいんですよ。その薬は燃え上がるように口の中が熱くなったそうで、人々は不老不死の薬だと思ったとか。不老不死というところから結局、生命の水という意味の「アクアヴィーテ」という名が付けられて、世界中に広まったという説です。
この薬の製法は、海を渡りアイルランドやスコットランドで大流行したそうですよ。やがてゲール語で“水”と“命”を組み合わせた言葉である「ウシュクベーハー」と呼ばれるようになり、イギリスから世界中に広がって、人々に愛される「ウイスキー」と呼ばれるようになったと言われています。
華やかで美しく
ウイスキーボトルのようなゴージャスなショーに
作品の話に戻りますが、今回はどのようなショーになりそうですか?
ウイスキーには数えきれないほどの種類と個性がありますが、中でも有名なのが、“5大ウイスキー”と言われるアイリッシュ・ウイスキー、スコッチ・ウイスキー、アメリカン・ウイスキー、カナディアン・ウイスキー、そしてジャパニーズ・ウイスキーです。これらの華やかで美しいボトルや、それぞれの味わいから発想を得た場面をご用意しました。
衣装もウイスキーをイメージしたものに?
ショー全体を印象づけるプロローグの衣装は、男役はタキシード、娘役はカクテルドレスですが、ウイスキーらしい琥珀色をベースにしています。そのほかの場面では、それぞれのイメージから派生するバラエティに富んだ衣装を用意しています。
音楽はどのようなジャンルを?
ウイスキーというとジャズをイメージされることも多いと思いますが、今回はジャズ以外にもさまざまなジャンルの曲を使い、趣向を凝らしました。
例えば?
以前から真風で大人っぽいブルースが聴きたいという思いをずっと持っていたので、この機会に歌ってもらうことにしました。先日、歌稽古をしたのですが、非常にセクシーで、真風ならではの哀愁が漂っていて、すでに自分のものにしていましたね。皆さまも、楽しみにしていてください。
Chaser2
琥珀色の秘密
“密造”がなければ無色透明だった?!
ウイスキーを表現するうえでの代名詞ともいえる琥珀色。この琥珀色は、18世紀頃にウイスキーの密造が横行した歴史的背景があったのです。もともと蒸留したての原酒は無色透明のお酒ですが、樽詰めされることによって、あの美しい琥珀色のお酒が誕生しました。ウイスキー生産者が、度重なる徴税から逃れるために、保管や輸送に適した空き樽にウイスキーを詰めたことが発端で、偶然にも樽材の成分が溶け出し、このお酒に魅惑的な色と、芳醇な味、香りを身につけさせたそうです。
まさにアクアヴィーテ!!
出演者の魅力に酔いしれる
構成を少し教えてください。
まずは、バーカウンターを使った、大人の男女による恋の駆け引きから発展して激しく踊るというプロローグで始まります。セットも空間の広い大劇場の舞台一面を巨大なバーカウンターに見立てて、そこに男役や娘役がズラリと並び、宝塚ならではのゴージャスさをお見せします。
話を聞くだけでも、カッコいい場面になりそうですね。
はい。大人っぽくて、すごくカッコいい場面になると思いますので、ぜひご期待ください。そして、中詰はアメリカン・ウイスキーがテーマで、ボトルを夜景に見立てたセットを背景に、ニューヨークのルーフトップバー(屋上やテラスで美しい夜景を眺められるバー)で繰り広げられる賑やかなシーンです。紳士淑女がウイスキーに関する歌を次々と歌い継ぐ、お洒落な中詰になると思います。
後半にはどのような場面があるか気になります。
難しい挑戦になると思うのですが、原料の麦芽から始まり、発酵し、蒸留され、長い間樽に寝かされて熟成するという、ウイスキーができるまでの過程をダンスで表現した場面を予定しています。宙組は団結力でも魅せてくれる組ですので、大勢の力を結集した感動的なシーンになれば面白いだろうなと思っています。大いに盛り上げてほしいですね。
いま、お稽古をしているなかでの手ごたえは?
プロローグで、カウンターから個性豊かな面々が次から次へと溢れるように出てくる場面に、思わず酔いしれそうになってしまいました。稽古を見ているだけで酩酊しそうでした(笑)。そんな彼女たちは、私にとってまさにアクアヴィーテ、“生命の水”ですね。
大人の余裕を感じさせる真風と、少女から淑女へと成長する星風
互いが“一番必要なウイスキー”のふたり
トップスターの真風涼帆の魅力とは?
トップスターとして大劇場公演4作目となり、大人の余裕が出てきたな、と感じます。まさに男役をやるために生まれてきたような恵まれた容姿をしている真風ですが、経験を重ねてさらに内面が豊かになり、ふとした瞬間に包容力を感じさせるところがとてもいいですね。最近では男の私からみても“カッコいい”と感じますし、大変頼もしいです。
そんな真風に、今作ではどのような期待を?
今回は、寡黙にグラスを傾けている真風の男っぽくカッコいいイメージが生きるショーになると思います。今の彼女だからこそ出せる、クールな味わいとでも言いましょうか。しかし、ただカッコいいだけではなく、クールな中に見え隠れする茶目っ気が魅力でもあるので、お客様に彼女の明るい部分も観ていただこうと、ラテンの場面もご用意しています。
一方、相手役のトップ娘役・星風まどかは?
チャーミングな可愛らしさを持つ星風をウイスキーに重ね合わせると、少し背伸びをしているように見えるかもしれませんが、逆にそこが魅力に繋がっていくのではないかと考えています。今、役者として少女から淑女へと成長していく姿を見せる彼女ですが、真風同様にとてもしっかりしているので、トップコンビとして普段から非常にいい関係を築いていることがうかがえます。
最近はふとした瞬間に色っぽさも感じますね。
そうですね。今回も、フィナーレのデュエットダンスは、大人の女として真風と対等に絡む場面にする予定です。真風にとっては星風が、星風にとっては真風が、“一番必要なウイスキー”のような存在であると感じられるショーにできればと考えています。
Chaser3
ウイスキーの定義
いまさら聞けない、ウイスキー
よく耳にする、バーボンやスコッチ、モルトなど、大麦やトウモロコシなどの穀物を原料とし、蒸留してアルコール成分を高めたお酒です。ここで重要なのが、木樽で熟成させることです。ウイスキーをウイスキー足らしめる、魅惑的なお酒を生み出す工程と言えるでしょう。ジンやウォッカなど、穀物以外が原料でアルコール度数が高いお酒もありますが、木樽で熟成されていないので、もちろんウイスキーではありません。ちなみにウイスキーと同じく、大人のイメージのあるお酒の一つ、ブランデーは、穀物が原料ではないんですよね。
ウイスキーはさまざまな国で生産されていますが、アイリッシュ、スコッチ、アメリカン、カナディアン、ジャパニーズといった“5大ウイスキー”が有名ですね。
個性的な出演者が生み出す、
深い味わいの作品を堪能してほしい
芹香斗亜の今作の見せ場を教えてください。
彼女はこれまで爽やかな役や場面を担う印象が多くありますが、この辺りで一度、激しい芹香を観てみたいと、あえて人間ではなく、獣に扮してもらうシーンを取り入れてみました。
獣ですか?
はい(笑)。ウイスキーを飲んだ獣が、その味わいに魅了され、酔って踊り狂うという設定です。そこに居るだけで色気を感じさせる男役に成長した芹香は、真風とのコンビネーションもとても良く、全く味わいの異なる別個性の二人が並ぶ場面は、私自身もゾクゾクしますね。きっと相乗効果が表れやすい、相性の良い二人なのだと思います。
その他、桜木みなとら、宙組には芳醇な香りのするスターがたくさんいます。
公演ごとにめきめきと力をつけてきた桜木をはじめ、人材が実に豊富で、バーのカウンターに並んでいるとりどりのウイスキーのように個性がはっきりしていて、なおかつ、それが一つにまとまった時に殊のほか大きなエネルギーを発揮しています。
一作前の全国ツアー公演で、宙組の約半分のメンバーと一緒に『NICE GUY!!』-その男、Sによる法則-という作品を担当しましたが、今、宙組は本当に充実していると感じますね。今作では、宙組全員の出演となりますので、無限大のエネルギーが感じられる作品になるのではないかと、私自身も楽しみにしています。
そこに専科から英真なおきさんが出演し、さらに深い味わいのショーになりそうですね。
ウイスキーが樽に寝かせれば寝かせるほど美味しくなるように、英真さんの熟練された技は、間違いなくショーの味わいを一層深めてくれると期待しています。
Chaser4
天使の分け前(エンジェルズシェア)
天使が飲めば飲むほど美味しくなる?!
樽熟成中にウイスキーが蒸発し、量が減ってしまう現象、あるいはその減った量を指します。ウイスキーは熟成が進むと美味しくなるとも言われ、この天使の分け前が多いほど、熟成されているということになります。天使が飲めば飲むほど美味しくなるなんて、夢がある逸話ですね。
自分だけの特別なバーに入り、
特別なウイスキーを飲むような感覚で
あらためて、ショー作品における宙組の魅力とは?
宝塚歌劇の歴史から見ると一番新しい宙組には、それゆえの自由奔放な良さがあり、凝り固まることがありません。私はこれまでに何度も宙組を演出してきましたが、会うたびに新鮮で、常に透明な状態から始めさせてくれますね。また、それぞれが互いの個性を尊重し合い、高め合っているなと感じます。それが結果的に、全員でつくる舞台に厚みを出しているのが面白いですね。
最後にお客様にメッセージをお願いします。
今、稽古をしていて、とても大人っぽく華やかな作品になると感じています。出演者の放つエネルギーに、ご覧になるお客様の熱が加われば、劇場全体を酔わせることができるのではないかと、大変楽しみです。寒い時期の公演になりますが、皆さまがご自分だけの特別なお店に入って、特別なウイスキーを飲んでいるような感覚で、身体の外からも中からも熱くなっていただけたら嬉しいですね。どこを見ても楽しい、一回では観きれないような作品になると思いますので、何度でも劇場に足をお運びください。お待ちしております。
夜の喧騒とは打って変わって上質な静寂のひととき、賑わいをみせた“Bar大介”もそろそろ閉店の時間。オーナーバーテンダーは、ひとりウイスキーグラス(ノンアルコール)を傾ける。
少し気怠げに、『アクアヴィーテ!!』の世界を反芻し、今日もその心地よさに酔いしれる……。
“Bar大介”厳選、宙組スターにぴったりなウイスキー
真風涼帆にぴったりなウイスキーとは?
スコッチ・ウイスキーのロック
伝統的なスタイルを踏襲しつつ、男役としての重厚感の中にも彼女独特の魅力が奥深い。ピリリとした刺激の中にも深みのある味わいは最上級、ときには甘さも加わり、一度味わえば逃れられない……。
最強にスモーキー、そしてピーティでヨード香が漂う、そんな上質で癖になるウイスキーがよく似合う。
※ピーティ(ピート香)…ウイスキーの芳しさを演出するのが「ピート」。独特の薬品香(ヨード香)や、スモーキーさが混じった風味を指し、「ピート」による燻香が強く感じられることを表現する。
星風まどかにぴったりなウイスキーとは?
スコッチ・ウイスキーのソーダ割り
正統派の娘役らしく、実力面だけではなく、多面的な魅力を兼ね備えている。爽やかで甘く、飲めば飲むほど深いコクが増す、誰からも愛されるバランス感覚の持ち主。
シトラスや、甘いハチミツの奥に微かなピートのスモーク香、そんな華やかでスイートなウイスキーがよく似合う。
芹香斗亜にぴったりなウイスキーとは?
アメリカン(バーボン)の水割り
一見すると白い貴公子のようなイメージながら、何色にも染まるカメレオン役者。都会的な雰囲気ながらもほのかに感じる甘み、飲めば飲むほど不思議と身体に馴染んでしまう。
スイートかつスパイシー、そんな洗練されたスムーズなウイスキーがよく似合う。
『アクアヴィーテ!!』の世界 公演ドリンク紹介
オーナーバーテンダーも思わず唸る、『El Japón -イスパニアのサムライ-』『アクアヴィーテ!!』公演ドリンク
公演オリジナルカクテル「アクアヴィーテ」
公演のテーマにちなみ、スコッチ・ウイスキーに、飲む香水とも称される香り高いリキュールを加えて組カラーに合わせ、ソーダで割ったお洒落なハイボールです。
公演ノンアルコールドリンク「イスパニア」
公演の舞台となるスペインと公演ポスターをイメージして、フレーバーワイン「サングリア」を、甘くて口当たりの良いトロピカルなノンアルコールドリンクに仕上げました。
※未成年者の飲酒は法律で禁じられています。
藤井大介プロフィール
宝塚歌劇団 演出家 / “Bar大介”オーナーバーテンダー
東京都出身。1991年宝塚歌劇団入団。1997年宝塚バウホール公演『Non-STOP!!』(月組)で演出家デビュー。2000年『GLORIOUS!!』(宙組)で宝塚大劇場公演デビューを果たす。トップスターのお披露目公演(『Joyful!!』2003年雪組・『宙 FANTASISTA!!』2007年宙組)、退団公演(『Dear DIAMOND!!』2015年星組・『Forever LOVE!!』2016年月組ほか)も数多く手掛けている。2005年韓国公演、2013年台湾公演ではショー作品の作・演出を担当し、宝塚歌劇の魅力を存分に発揮した作品で両公演とも好評を博した。『“R”ising!!』(2010年宙組)や『REON!!』(2012年星組)、『DRAGON NIGHT!!』(2015年月組)などライブやコンサートでもその手腕を発揮。『Santé!!』~最高級ワインをあなたに~(2017年花組)、『Gato Bonito!!』 ~ガート・ボニート、美しい猫のような男~(2018年雪組)、『クルンテープ 天使の都』(2019年月組)など、多彩な作品を生み出し続けている。直近の作品として、2019年9月に全国各地で上演、好評のうちに幕を下ろした『NICE GUY!!』-その男、Sによる法則-(宙組)が記憶に新しい。エネルギッシュで独創的な作品を次々と生み出し、宝塚歌劇のショーシーンを牽引するひとりとして活躍している。
※当該公演、並びに、当該コンテンツは飲酒を推奨するものではございません。ショーの雰囲気を楽しんでいただくためのコンテンツとなります。ご了承ください。また、未成年者の飲酒は法律で禁じられています。