演出家 齋藤吉正が語る
日本オーストリア友好150周年記念 UCCミュージカル 『I AM FROM AUSTRIA-故郷(ふるさと)は甘き調(しら)べ-』の見どころ
多彩な作品で独自の感性を発揮し、観客の心を掴んできた、演出家・齋藤吉正。今回潤色・演出を担当する『I AM FROM AUSTRIA-故郷(ふるさと)は甘き調(しら)べ-』では、大ヒットミュージカルのウィーンの香りをそのままに、巧みな宝塚流アレンジに挑戦。順調にキャリアを重ね、円熟期を迎えた演出家の手腕に、大きな期待が集まる。
ウィーンで観劇した「I AM FROM AUSTRIA」の印象
「エリザベート」の大ヒット以降、ウィーン・ミュージカルは世界を席巻していると言っても過言ではないほどの隆盛を極めています。その勢いを感じたのが、「I AM FROM AUSTRIA」です。「エリザベート」と同じくウィーン劇場協会が制作した作品ですが、これまでのウィーン発作品が持つ魅力とはまた違った現代的なテイストの作品ですね。明るさや躍動感があり、バラエティに富んだミュージカルナンバーの数々にとても惹かれました。実際にウィーンで観劇し、観客の熱量を感じたことで、作品のタイトルにもなっている、“オーストリア第二の国歌”と謳われる名曲のルーツや、そこに秘められた歴史についても、深く考えるきっかけになったと思います。
物語について
珠城りょう演じる主人公のジョージ・エードラー、美園さくら演じるエマ・カーターをはじめ、登場人物はそれぞれに、心のどこかが満たされていません。彼らが奮闘し、互いを思いやりながら、いかに自分のゴールを見つけるかがポイントになってきます。ジョージとエマという二人の若者を軸に、作品の大きなテーマ“故郷”“家族”というフィルターを通して見る、自分探しの青春ストーリーですね。また、まさに現代を舞台にしていて、スマートフォンやSNSなどが出てきますので、お客様自身がご自分と重ね合わせ、共感していただきやすいのではないかと思います。現代の若者を主人公にした、普遍的なテーマの物語は、幅広い年代のお客様に楽しんでいただけると確信しています。
ジョージ・エードラーを演じる月組トップスター・珠城りょうについて
ジョージは老舗高級ホテルの御曹司で、言わば“ボンボン”育ちの現代っ子です。彼なりにホテルへの熱い想いを持っていますが、彼のアイデアは考え方の違いから親の理解を得られず、家族のなかで疎外感を感じています。自分の考え方、生き方を家族に理解してほしいのにわかってもらえない、という葛藤を抱える若者は、現代日本にもたくさんいるのではないでしょうか。そんな時にエマと出会い、互いに自分が持ち得ない強さを相手に感じ、影響されながら惹かれ合っていきます。
演じる珠城は、公演ごとに全く異なるタイプの役が待ち受けていることが特に多いように感じるのですが、その都度、見事に変身し、演じ分けてきました。最近では、前回私が担当した『夢現無双 -吉川英治原作「宮本武蔵」より-』の宮本武蔵役のほか、『ON THE TOWN(オン・ザ・タウン)』のゲイビー役を好演していましたね。こうしてトップスターとなってからも多彩な役柄を得てキャリアを重ね、月組のリーダーとして頼もしさを増す珠城が、現代のごく普通の若者ジョージをどのように演じてくれるのか、とても楽しみです。
エマ・カーターを演じる月組トップ娘役・美園さくらについて
エマ・カーターは、オーストリア人というルーツを隠してハリウッドのトップ女優になった人物で、故郷を再訪したことにより、偽りの生き方を変えようと自らを見つめ直します。美園は『ON THE TOWN』では女優を夢見るショーガール役でしたが、欧米人の役をとても自然に演じますね。今回のエマ役もきっと似合うと思っています。彼女は一見、天性の勘やフィーリングで演じているような印象を受けますが、実は大変緻密な役づくりをします。そのうえで、役を自分自身に投影させるのがとても上手な役者だと感じています。『夢現無双』の時も、私が出す一つの要求に対してとことん考え悩んで、お通という役を創り上げてくれました。そんな美園ですから、自分に嘘をつきながら女優として頂点を極めたエマが、次第に、自分に正直に生きたいという想いを募らせていく過程をきっとうまく表現してくれるでしょう。
リチャード・ラッティンガーを演じる月城かなとについて
月城には、正義感の強そうな風貌から好青年のイメージがありますが、今回彼女が演じるエマのマネージャーのリチャードは、とてもアクが強く劇画チックな役です。いつも強気で、ジョージに難癖をつけ、やることなすこと過剰で、一人で笑って一人で怒っている…という、作品の中でも強烈なインパクトをもつ役ですので、大いに“遊んで”ほしいです。今、演じることを渇望している月城には、うってつけの役かもしれませんね。彼女がこれまで演じたことのないような役だけに、新たな引出しになるのではないかと期待しています。
その他にも、月組には個性的な役者が揃っています
花組で経験を積み、舞台人として一層磨きがかかった鳳月杏にとって、“生まれ故郷”である月組に帰って初めての大劇場作品です。彼女が扮するヴォルフガング・エードラーは、非常に軽妙で面白い人物です。妻には頭が上がらないけれど、息子ジョージの気持ちを理解し尊重して、陰では応援しています。友だちのような親子関係を、新人公演時代から仲が良く、信頼し合ってきた珠城とのコンビネーションで、しっかりと表現してくれることでしょう。
その妻ロミー・エードラーを演じる海乃美月は、幅広い役柄を経験し、実力を充分に付けてきているなと感じます。ジョージとエマの若いカップルの物語である一方で、倦怠期を迎えた夫婦が情を取り戻していくという物語でもありますので、やり手の女社長とのんびりした夫、そして息子という、3人の家族の肖像にもご注目いただければと思います。
そして、サッカーのアルゼンチン代表選手でスーパースターのパブロ・ガルシアを、暁千星が演じます。誰よりも自由人で、別次元に存在しているような人物ですが、心優しい一面も見せる役です。パブロを中心とした楽しいナンバーもありますので、ショースターとしての魅力も備えた暁が、場面を引っ張ってくれることを楽しみにしています。
最後に、お客様にメッセージを
日本とオーストリアが国交を結んでから150年、そして宝塚歌劇105周年のこの年に、このような大きな作品を担当させていただくことに誇りを感じながらも、責任を痛感しております。
月組はとてもチームワークが良く、それがミュージカルナンバーやお芝居のアンサンブルに強く反映される組だという印象がありますが、これまでも数々の海外ミュージカルでその魅力を発揮してきました。月組とともにウィーン発のミュージカルを日本にご紹介できる喜びを胸に、この作品がお客様の明日への活力となれますよう、努力してまいります。
【プロフィール】
齋藤 吉正
神奈川県出身。1994年宝塚歌劇団入団。1999年宝塚バウホール公演『TEMPEST-吹き抜ける九龍-』(宙組)で演出家デビュー。宝塚大劇場デビュー作である2000年『BLUE・MOON・BLUE』(月組)は独自の世界観を描き、インパクトあるショーに創り上げた。青池保子氏の代表作をミュージカル化した2007年『エル・アルコン—鷹—』(星組)、ネルソン海軍提督の波乱に満ちた生涯を描いた2010年『TRAFALGAR』(宙組)、大ヒット漫画を原作とした2012年『JIN-仁-』(雪組)など、ミュージカルでも豊かな感性でヒット作を生み出した。また、2016年『桜華に舞え』-SAMURAI The FINAL-(星組)、2019年『夢現無双 -吉川英治原作「宮本武蔵」より-』(月組)など、歴史上の人物を主人公にした独創的な作品でも好評を博す。ショー作品においても、情熱の愛と夢の数々を描いた2015年『La Esmeralda』(雪組)、台湾公演も行なった2018年『Killer Rouge(キラー ルージュ)』(星組)と、多種多様な趣向を凝らした作品を発表。2019年6月には、宝塚歌劇初となる横浜アリーナ公演『恋スルARENA』(花組)を上演、舞台機構を駆使したエキサイティングな構成で観客を圧倒した。
今作『I AM FROM AUSTRIA-故郷(ふるさと)は甘き調(しら)べ-』で、2015年の英国製ミュージカル『TOP HAT』(宙組)に続き、海外ミュージカルの日本初上演に挑む。