Stage Side
演出家・稲葉太地が語る宝塚歌劇版『ロミオとジュリエット』
星組公演 三井住友VISAカード ミュージカル『ロミオとジュリエット』。2010年に星組で初演し、2011年から2013年にかけて、雪組、月組、星組と再演を重ねてきました。初演からこの作品に携わってきた稲葉太地からのメッセージをお届けします。
演出:稲葉 太地
作品の魅力と見どころ
星組公演『ロミオとジュリエット』は2001年にフランスで初演されたミュージカルが基となっていますが、2010年に宝塚歌劇版として初演する際、潤色・演出を務める小池修一郎先生と共に、フランス版をはじめとする世界各国で上演されたバージョンの映像を観てみたところ、ミュージカルというよりも多彩なアクロバットを全編に盛り込んだスペクタキュラー(即ちサーカス)でありました。「さて、これをどう宝塚歌劇として上演するのだろうか?」と、頭の中には疑問符だらけだったことを今でも思い出します。それが、一曲一曲歌詞が入ってくる度に、シェイクスピアの戯曲を随所に盛り込んだ、宝塚歌劇版のミュージカルとして見事に成立するに至り、多くのお客様に愛される作品になったのを実感しています。
初演時の稽古期間はとても短く、まさに戦場でした。スタッフもキャストも物凄い集中力で闘っていたことをはっきりと覚えています。その集中力とエネルギーこそが、作品を形作ったのでしょう。以降も再演を重ねながら、その時々のキャストの集中力とエネルギーが、作品そのものの魅力に繋がっていると感じております。
大劇場公演2作品目となるトップコンビと、現在の星組の魅力
礼真琴は類稀なる身体能力を持ったスターです。2010年の初演では、宝塚歌劇版にしか登場しない「愛」役を入団2年目で演じ、お客様から大きな評価を得たことが彼女の今日に至るキャリアのスタートではないでしょうか。また、身体能力だけではなく、歌唱力も他の追随を許さぬものがあります。星組のトップスターとなり満を持して臨むロミオ役がどんな次元に行きつくのか、稽古をしていて楽しみで仕方がありません。明るさの中にふと滲む憂い。ダイナミックさの中に垣間見える繊細さ。私が感じるロミオ役の魅力を一層押し広げてくれるでしょう。
また相手役の舞空瞳も、礼と同じく身体能力に秀でた娘役です。ただ、この作品においてはジュリエット役に身体能力はあまり求められません。「なんと勿体ない!」と思いながら稽古を始めてみましたら、歌唱力にも磨きが掛かっておりました。今までは身体能力ばかりに目がいっていたため、「まさかここまで!!」と正直驚いております。彼女は芯の強い娘役なので、今はまだ1幕しか稽古をしていませんが、2幕でロミオと結ばれた後、ジュリエットが少女から女性になるその変化をどう演じてくれるかも今から楽しみです。
そして、愛月ひかる、瀬央ゆりあといった男役スターを筆頭に、代々星組に流れる熱い熱いエネルギーがどう舞台で開花するのか、私もお客様と共に見届けたいです。
今の星組で上演する『ロミオとジュリエット』に期待すること
再演を重ねる作品というものは、その時々のキャストの魅力が全てだと思います。
「○○役を演じている○○さんが素敵!」といわれるように、同じ役を違うキャストが演じると役のイメージや印象が大きく変わってきますが、今回は役替わりもあり、また初演から出演しているキャストも多数おりますので、色々な意味で楽しめます。初演ではモンタギュー、キャピュレットチームの下級生だった出演者で、今回はそれぞれのチームの長となっている者もいます。稽古をしていて面白く感じる瞬間は、そのいずれもが、今回の『ロミオとジュリエット』に向けて“今”を生きているところです。舞台という空間はその時ただ一度ですから、一回一回ご覧になるお客様と大切な時間を共有して、今しかない時間を生きられるようにと、みんなで稽古をしています。
待望の再演への意気込みと、お客様へのメッセージ
今稽古をしていて脳裏に浮かぶのは、過去にこの作品で演じていたキャストの姿です。どの役も、アンサンブルも、真剣にこの作品と自分の与えられた役に向き合ってきました。初演から演出助手としてこの作品に参加してきた者として、その人たちの想いも胸に、今回のメンバーと稽古を共にしております。今回のキャストたちも、これまでのメンバーが辿ったようにもがき苦しみ、そして仲間を信じて懸命に稽古を重ねております。
何より、ご覧になるお客様に、“『ロミオとジュリエット』はやはり素晴らしかったね”と感じていただき、そして、“宝塚は素晴らしいね”と笑顔で劇場を後にされることを強く願っています。まだまだ大変な世の中ではありますが、宝塚歌劇が、お客様にとっての幸せの一つになれますよう、また私も、その作品をつくり上げる一助となれますよう、精一杯努めたいと思っております。
星組では3度目の上演となる 三井住友VISAカード ミュージカル『ロミオとジュリエット』。様々な役を通し今作と関わってきた礼真琴率いる今の星組だからこそお届けできる舞台に、ぜひご期待ください。