演出家 藤井大介が語る

レビュー・エスパーニャ『Gran Cantante(グラン カンタンテ)!!』の見どころ

宝塚歌劇への深い愛情を軸に、スターの持ち味を引き出す秀作を生み出してきた演出家・藤井大介。彼が今回星組で手掛ける、スペインの祭りをテーマにしたパッショネイトなショーへの想いを聞いた。

劇場に響く情熱の歌声!

タイトル『Gran Cantante(グラン カンタンテ)!!』に込めた想いをお聞かせください。

“Gran Cantante”とは、スペイン語で“素晴らしい歌い手”という意味の言葉です。昨年、礼真琴のコンサート『VERDAD(ヴェルダッド)!!』を担当し、あらためて彼女の歌の技量に感心させられました。そんな礼をたたえる言葉として“Gran Cantante”をタイトルに掲げつつ、宝塚“歌劇団”ですから、歌の重要性について今一度、初心に戻って考えてみたいとの想いが起点になっています。

今作の構成を教えてください。

スペインは祭りが大変多く、毎月のように様々な地方で大きな祭りが催されています。それを一年の初めから辿っていく構成にしました。
幕開きは1月にバスク地方で開かれるサン・セバスチャンの太鼓祭りで、星組組長の美稀千種たちが実際にタンバリンや太鼓などを叩き、賑やかに始まります。そこにいかにもスペイン!という衣装をまとった礼の「Ole!」の掛け声で2月のカーニバルが始まり、疾走感のある主題歌へと繋がっていきます。今回はプロローグから大階段を使用しますので、お楽しみに。
3月、バレンシアのサン・ホセの祭りで綺城ひか理と天華えまを中心としたシーンの後は、4月のセビーリャの春祭りです。元々、畜産の祭りとして始まった春祭りでは、人々が美しい馬に乗って祭りを楽しみます。そこで、瀬央ゆりあにニンジンに恋をする馬に扮してもらい、力強く、かつコミカルな場面にしようと思っています。役どころは馬ですが、衣装は格好良いスーツの予定ですのでご安心ください(笑)。
5月はコルドバのパティオ祭り。礼がアンダルシア地方に伝わる踊りのサパテアートを踊ると、娘たちが次々に現れて奪い合うという、とにかく礼が格好良い場面です。

そして中詰めは?

中詰めは6月のサン・フアンの火祭りです。『誰がために鐘は鳴る』(1978年星組初演)、『去りゆきし君がために』(1980年雪組)、『情熱のバルセロナ』(1982年月組初演)など、宝塚のスペイン物の名作を彩った主題歌の数々を、スターたちが歌い、踊り継いでいこうと思っています。お客様に楽しんで、盛り上がっていただきたいですね。何より私自身が宝塚ファンとして観劇していた頃の気持ちを思い出し、興奮しながらつくっています(笑)。

後半はどのような場面がありますか?

8月のフェリア・デ・マラガ、10月のピラール祭りをテーマにした場面になります。フェリア・デ・マラガでは、闘牛士に扮した礼が闘いの相手であるはずの牛に恋をしてしまうことから展開する、ドラマチックな場面を描きます。ここからピラール祭りへと繋がり、ゴスペル調の壮大な歌で、「明日に向かって歩いて行こう」というメッセージを込めた、前向きで力強い場面にしたいですね。
フィナーレもスペインらしい楽曲を使い、格好良く展開しますのでご期待ください。

星組のエネルギーが迸るショーを

トップスター・礼真琴に期待すること。

彼女の実力が申し分ないのは周知のとおりですから、今回はその技術力に加えて、とことんまで男役度を上げてもらおうと思っています。
そして、歌い手・礼真琴の素晴らしさをお見せする狙いもありますので、音楽の手島恭子先生、青木朝子先生には、何でも歌いこなしてしまう彼女がさらに挑めるような、なるべく難しい曲にしてほしいとお願いしました(笑)。

今の礼真琴の印象は?

下級生の頃から非常にしっかりした人でしたが、トップスターになり、星組のみんなのことをとてもよく見ている様子に感動します。先日も、自分とは直接関係のない振付を遅くまで一人ひとりに教えている姿を見て、頼もしくなったなとしみじみ思いましたね。
そんな礼が率いる星組は、とにかく熱い組です。休憩の声が掛かっても踊っていたりしますね。礼たち上級生の背中を見て、自然に身についた姿勢だと思います。やる時はとことんやる、遊ぶ時も一生懸命で、団結した大家族のようですね。

トップ娘役・舞空瞳について。

私は踊り手としての舞空にも大変魅力を感じていまして、今回は大人っぽい雰囲気のダンスで魅了してもらいたいと思っています。普段はとても可愛らしい女性ですが、舞台に立つとたちまち凛として、一人でも広い空間を埋められるほどの力強さがありますね。そんな彼女の魅力を生かせるような場面を考えていますので、ご期待ください。

礼と舞空は実力派トップコンビとして、ますます充実していますね。

言うなれば“優等生コンビ”の二人は、実力に甘んじることなく、さらに高みを目指して努力を惜しまないところが美点です。妥協をしない礼と、そこにしっかりと付いて行く舞空には、何でもできるがゆえの苦しさもたくさんあるはずですが、乗り越える強さが素晴らしいと思います。
田原俊彦さんの「Bonita」という曲に乗せて踊る、パティオ祭りでのフラメンコのデュエットは、見応えのある場面になると思いますので、どうぞお楽しみに。

専科からは万里柚美、美穂圭子が出演します。

見せ場としては、お二人にも中詰めの名曲メドレーに出てもらう予定です。前星組組長の万里さんは、星組の良さ、宝塚の良さを熟知している先輩として、伝統を現在の星組に伝えてほしいと思います。美穂さんはそれこそ“Gran Cantante”ですので、中詰め以外でもスパニッシュの曲を歌ってもらいます。

瀬央ゆりあの存在も頼もしいですね。

常に前向きで元気、場を和ませてくれる明るさが魅力の瀬央は、同期の礼をいつも横で笑わせたり励ましたりしている姿が微笑ましいですね。
今回、彼女には表現力が特に求められる、擬人化した2役を演じてもらいます。前半の春祭りの場面では瀬央らしい朗らかな魅力、トロ(牛)に扮してもらうフェリア・デ・マラガでは、マタドールの礼を誘惑する中性的な色気と、両面を出してくれることを期待しています。

綺城ひか理、天華えま、極美慎など、逸材が揃います。

綺城は、星組らしいゴージャスさ、スケールの大きさを持ったスターで、内面からも大きなオーラが出ていて頼もしいですね。大人の魅力も加わり、さらなる飛躍を期待しています。
天華は、“爽やかプリンス”といいますか、そこにいるだけで清らかな風が吹くような雰囲気が持ち味だと思っています。着実に経験を積んできたことを感じる一人ですね。
極美は、初舞台公演を担当した時、スタイルの良さが印象的でした。中詰めは彼女の歌から始まりますので、あれから8年の成長をしっかり見せてほしいです。
この公演で宝塚を去ることになる天寿光希、音波みのりには、信頼しているからこそ任せられる役割を担ってもらいます。二人とも非常に良い舞台人なので、残念でたまりませんが、餞になれば嬉しいですね。

この公演は第108期生の初舞台公演でもあります。

ロケットは、スペインの代表的な花、サフランの祭りをモチーフに、初々しくも情熱的に踊ってもらいます。先日、初舞台生の音楽学校文化祭を観たのですが、歌もダンスも上手く、基礎がしっかりしているという印象を持ちました。爽やかに、そして臆することなく、舞台上で一人ひとりが自分の魅力を存分に発揮してくれることを願っています。

最後に、お客様にメッセージをお願いします。

宝塚大劇場公演は春真っ盛り、東京公演は初夏に向かう良い季節に上演いたします。この舞台で、星組、専科の二人、そして初舞台生38名の情熱を受け取っていただきたいと思います。観るだけで汗をかくほどのエネルギッシュな舞台を目指しております。テーマは“ワイルド&セクシー”です!(笑)どうぞご期待ください!

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【プロフィール】

藤井 大介

東京都出身。1991年宝塚歌劇団入団。1997年宝塚バウホール公演『Non-STOP!!』(月組)で演出家デビュー。2000年『GLORIOUS!!』(宙組)で宝塚大劇場公演デビューを果たす。トップスターのお披露目公演(『Joyful!!』2003年雪組・『宙 FANTASISTA!!』2007年宙組)、退団公演(『Dear DIAMOND!!』2015年星組・『Forever LOVE!!』2016年月組ほか)も数多く手掛けている。2005年韓国公演、2013年台湾公演ではショー作品の作・演出を担当し、宝塚歌劇の魅力を存分に発揮した作品で両公演とも好評を博した。『“R”ising!!』(2010年宙組)や『REON!!』(2012年星組)、『DRAGON NIGHT!!』(2015年月組)などライブやコンサートでもその手腕を発揮。『Santé!!』~最高級ワインをあなたに~(2017年花組)、『Gato Bonito!!』 ~ガート・ボニート、美しい猫のような男~(2018年雪組)、『クルンテープ 天使の都』(2019年月組)、『アクアヴィーテ(aquavitae)!!』 ~生命の水~(2020年宙組)、『Cool Beast!!』(2021年花組)など、多彩な作品を発表。2021年、『VERDAD(ヴェルダッド)!!』—真実の音—(星組)では、進化し続ける礼真琴の“今”の魅力を詰め込んだ、コンサート形式のスペシャルショーを演出し、話題を呼ぶ。エネルギッシュで独創的な作品を次々と送り出し、宝塚歌劇のショーシーンを牽引するひとりとして活躍している。