演出家 小柳奈穂子が語る

ミュージカル・エトワール『めぐり会いは再び next generation-真夜中の依頼人(ミッドナイト・ガールフレンド)-』の見どころ

2011年、演出家・小柳奈穂子の大劇場デビュー作にして、多くのファンの心を掴んだミュージカル『めぐり会いは再び』。2012年の続編から10年を経て、待望の最新作上演を控えた小柳に、今作への想いや意気込みを聞いた。

再び動き出す『めぐり会いは再び』の物語

好評だった初演から、今回、シリーズ3作目となりました。

お芝居で続編を上演させていただけることは珍しく、本当に良いのだろうか、という気持ち半分、『めぐり会いは再び』の世界をまた訪れることができる喜び半分、といった心境です。前作から10年が経ちますが、ありがたいことに礼真琴が演じたヒロインの弟ルーチェの“その後”を観たい、とのお声をたくさんいただいてきたこともあり、今回実現する運びとなりました。

2011年の『めぐり会いは再び』は、ご自身の大劇場デビュー作品でしたね。

振り返ってみると、当時の私は怖いもの知らずでした(笑)。今回はもう一度初心に立ち返りながらも、また攻めの姿勢で挑みたいと思っています。ただ、続編をつくらせていただけることになり嬉しい反面、前作までの流れと整合性を取りつつ、初めてご覧になる方に違和感なく観ていただけるストーリーを組み立てるということは、思っていた以上に大変でした。今回も「書けない劇作家」が出てくるのですが、そのつらさが身に沁みましたね(笑)。

作品が愛される理由はどこにあると思いますか?

自由度が高いところでしょうか。例えば、1作目『めぐり会いは再び』(2011年)では、舞台設定はファンタジーであるけれども、物語自体はクラシカルなラブコメ、というのがコンセプトでした。架空の世界にすることで、衣装やセットなども時代設定に縛られず、各キャラクターの個性そのもので楽しめる芝居を目指しました。その結果、ビジュアルの新鮮さ、宝塚らしいストーリー、役者主導の3つが、お客様には新鮮に感じていただけたのかなと思っています。

前作から今作までの間、登場人物たちがどう変化したのかも楽しみです。

「もうすぐ15歳」と言っていたルーチェも、今や24歳の青年ですからね。オルゴン伯爵家の執事ユリウスなど、中には10年前からまったく変わらない人物もおりますが(笑)、前作では台詞で語られていただけのキャラクターが実際に登場したり、前作の登場人物たちについて話題にしていたりと、双方向の楽しみ方もできるようになっています。

セットや音楽はどのように工夫されましたか?

前作から10年後、かつ都会である王都マルクトが舞台ということで、これまでとはイメージを少し変えて、スチームパンクと呼ばれるファンタジーSFジャンルの雰囲気を意識したビジュアルにしています。音楽もクラシックなもの以外にも打ち込みなども使用しています。礼の持ち味にもよく合うのではないでしょうか。

個性派揃いのキャラクターが次々登場!

今回、主人公として、ルーチェ・ド・オルゴン役を再び演じる礼真琴について。

前作では、当時まだ下級生であったにもかかわらず、冒頭で銀橋を渡る大役も務めてもらいましたが、緊張を感じさせず堂々と務めてくれた印象があり、天性の勘の良さを感じました。お姉さん役の夢咲ねねさんと、本当の姉弟のように仲良くしていたのが微笑ましかったですね。

あれから、ルーチェは、どんな青年に成長しましたか?

大学を卒業し、実家には弁護士事務所でバリバリ働いていると嘘をつきながら、実は友人の探偵事務所でお手伝いという名の居候をしています。恋人アンジェリークとの関係も順調ではなく、先行きの見えない人生に悩んでいる状態ですね。それには深い理由があるのですが、彼には周りが思わずお節介を焼いてしまうような魅力があり、その中で人として成長していきます。
ルーチェは、こじらせたところのある役ですが、礼が演じると応援したくなってしまうようなチャーミングなキャラクターになる。礼だからこそ、魅力的に表現してくれる役ではないかと思います。

トップ娘役・舞空瞳は、ルーチェの恋人アンジェリーク役を演じます。

アンジェリークは前作では名前だけ登場し、勝ち気なお嬢様で、ルーチェと喧嘩中という設定でしたが、その理由が今作で明らかになります。守られるだけではない強さと責任感があり、それゆえの葛藤は共感を持っていただける部分かもしれません。ある種の義務を負っている女性で、困難にぶつかったりもしますが、周りの力で立ち直っていく過程を表現してほしいですね。「仲間が付いているよ」という描写は、しっかり者で頑張り屋の舞空自身に向けた私からのメッセージでもあります。

息の合ったトップコンビのやり取りも楽しみですね。

喧嘩と仲直りを繰り返しながら、何年も付き合っているという二人の関係性を、礼と舞空のコンビネーションで、可愛らしく表現してほしいですね。

専科より、万里柚美と美穂圭子の出演も頼もしいですね。

万里さん演じるマダム・グラファイスは、無事に前夫との関係を清算し、ラルゴ伯爵夫人から名前が変わりました(笑)。王女の花婿選びを審査委員長として仕切っていただきます。ちなみに夫のリュシドールは単身赴任中です。
そして、美穂さんは旅芸人一座の歌姫エメロード役です。1作目の時からエメロードに会うことを切望していたユリウス(天寿光希演じる、オルゴン伯爵家の執事)の夢を叶えてあげたいと思い、出演をお願いしました。
お二人の際立つ存在感は、作品のスパイスになってくださると思います。

瀬央ゆりあ演じるルーチェの友人、レグルス・バートル役はどのような人物像ですか。

家業の探偵事務所を継いで、格好付けて名探偵を気取るものの、迷子の犬探しぐらいしか依頼がなく、おまけにルーチェたち居候に押し掛けられて困っていますが、楽しく生きている人です(笑)。もうこれは瀬央そのもののキャラクターですね(笑)。瀬央は明るさと、周囲の人に向ける優しさやさりげない気遣いが魅力の人なので、その部分もいかしながら演じられる役だと思います。

綺城ひか理、天華えま、極美慎が演じる、物語を彩るキャストたちにも注目が集まりますね。

綺城演じる宰相オンブルは、全キャラクターが自由奔放な世界観の中で、悪の空気を纏った人物像を貫かなくてはいけないところが難しい役どころです。物語の中でどのように存在するのか、というバランスが大切な役ですので、一緒に計算しながらつくっています。
天華はルーチェの学友で劇作家のセシル役です。前作で真風涼帆が演じたエルモクラートの弟子で、師匠と同じく筆が遅いという設定です。天華本来のおっとりした可愛さをいかし、大人の男性の愛すべき魅力として表現してほしいですね。
オンブルの息子ロナン役の極美は、派手でキザな礼のライバル役に挑戦してもらいます。ちょうど宝塚バウホール初主演も控えていますので、「極美!これを乗り越えてもっと強くなれ!」と、応援の意味を込めた役にしました。

これまでシリーズを盛り上げてきた天寿光希、音波みのりが、この公演で退団します。

“next generation”とタイトルに入れているように、次世代への「継承」もテーマの一つです。その象徴として、礼と舞空に想いを渡していくところを、二人に表現してもらえたら嬉しいですね。

今の星組ならではの作品になりそうですね。

いつもそうなのですが、今回もかなり当て書きをしていますので、芝居でありつつも、役者本人がそのまま舞台上にいるような和気藹々とした雰囲気も楽しんでいただけると思います。大勢のキャストの中に、礼と舞空がいることで、星組の充実感や、トップコンビの新しい魅力が見えてくると考えています。1作目から11年経った今、3作目をさせていただくわけですから、星組が受け継いできたものをお見せし、これからも引き継がれていくだろうと感じていただける舞台にしたいです。

最後に、お客様へのメッセージを。

お客様からご支持をいただいたからこそ、この作品は、こうしてシリーズ化することができました。皆様の期待を裏切らない舞台をお届けしたいと思います。シリーズ作品ではありますが、初めてご覧になる方にもお楽しみいただける物語ですので、ご心配なさらずにお越しください。そして、今回初めてご覧になった方には前作にも興味を持っていただけるような「宝塚入門編」になればとも思っていますので、どうぞよろしくお願いいたします。

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【プロフィール】

小柳 奈穂子

東京都出身。1999年宝塚歌劇団に入団。2002年、創世記のハリウッドで映画製作に情熱を傾ける人びとを描いた青春群像劇『SLAPSTICK』(月組)で演出家デビュー。コミックをミュージカル化した『アメリカン・パイ』(2003年雪組)、近未来を舞台にしたファンタジー作品『シャングリラ -水之城-』(2010年宙組)、「不思議の国のアリス」をモチーフにした『アリスの恋人』(2011年月組)など多様な作品を発表。宝塚大劇場デビュー作『めぐり会いは再び』(2011年星組)が好評を得て、翌年には続編『めぐり会いは再び 2nd ~Star Bride~』(星組)を上演した。2013年、2018年に実施された台湾公演でもその手腕を発揮し、高い評価を得た。アジアを舞台にしたコメディ作品『GOD OF STARS-食聖-』(2019年星組)では、音楽クリエイターのヒャダイン氏とのコラボレーションも話題を呼んだ。漫画や映画を原作とした作品にも定評があり、『Shall we ダンス?』(2013年雪組)、『ルパン三世 —王妃の首飾りを追え!—』(2015年雪組)、『オーム・シャンティ・オーム-恋する輪廻-』(2017年星組)、『幕末太陽傳(ばくまつたいようでん)』(2017年雪組)、『天(そら)は赤い河のほとり』(2018年宙組)、『はばたけ黄金の翼よ』(2019年雪組)、『はいからさんが通る』(2017年、2020年花組)など数多くの作品を手掛けている。『川霧の橋』(2021年月組)では運命に翻弄される若者たちの心の機微を丹念に綴り、傑作と呼び声の高い時代物の再演を成功に導き、『今夜、ロマンス劇場で』(2022年月組)では大ヒット映画の舞台化を手掛け、宝塚らしい華やかさを加えながらも登場人物の心情を丁寧に描いた演出が好評を博した。