『ME AND MY GIRL』って?
ストーリー
1930年代のイギリス・ロンドン。イギリス貴族の名門ヘアフォード伯爵家はある問題を抱えていた。その問題とは、亡き伯爵の落とし胤である跡継ぎの行方がわからないということ。
世継ぎを探し続けていた弁護士のパーチェスターが、ある日、ついに見つかったと一人の青年を連れてくる。ヘアフォード一族の前に現れた青年はウイリアム・スナイブスン(ビル)。ロンドンの下町・ランベスに住むコクニー訛りの粗野な青年の登場に面食らう前当主の妹で遺言執行人のマリア公爵夫人と、彼女の友人で同じく遺言執行人のジョン卿。公爵夫人の姪であるジャッキーは伯爵家の財産を手に入れるべく新たなヘアフォード伯爵となるビルを誘惑すると宣言し、婚約者のジェラルドに婚約指輪を投げ返す始末。
ビルがヘアフォード伯爵を継ぐための条件はふたつ。ひとつは「ヘアフォード家を継ぐのに相応しい人物であること」。遺言書に記されたこの条件を満たすために、公爵夫人はジョン卿の反対を押し切って、ビルを紳士に育てる行儀教育を行うと決意する。
もうひとつの条件は「同じ階級の娘と結婚すること」。ビルの恋人・サリーは、ビルと同じくランベスで育った女の子で、この条件に当てはまらないと、公爵夫人はビルにサリーと別れるように迫るのだった。ビルはサリーとの別れを拒むが、サリーはビルのために自分が身を引いたほうが良いのではないかと考え始めていた。最初こそビルが伯爵家の世継ぎであることを喜んでいたサリーだったが、公爵夫人のレッスンを受けて徐々に貴族然としてくるビルの変化を感じていたのだ。
そんな時、ビルの伯爵家継承披露パーティが開かれることになる。そこには若き伯爵として堂々と振る舞うビルの姿があった。そんなパーティの最中、立場の違いをビルに理解させるために、ランベスの仲間を連れて現れたサリーだったが、彼女の本心を感じ取ったビルはサリーがランベスに帰るのなら、自分もまたランベスに帰る道を選ぶのだった。
ビルが本気で自分といるためにすべてを捨てる覚悟であることを知ったサリーは、ビルの幸せを願ってひとり、ランベスへと帰ってしまう。サリーが去ったことを知ったビルは、彼女を追ってランベスへと向かう。しかし、すでにサリーはランベスからも姿を消していたのだった。
ビルは莫大な資産を投じてサリーを探していたが、一向に行方はつかめないまま月日は過ぎた。ビルはサリーを取り戻すために、ついにヘアフォード家を出ていこうとするが……。
登場人物紹介
ウイリアム・スナイブスン(ビル) (明日海りお)
ロンドンの下町ランベス出身で、明るく陽気な恋人思いの青年。ある日、遺言によりロンドンの名門貴族ヘアフォード伯爵家の世継ぎであることが発覚し、人生が一変!伯爵家へ呼び寄せられるが、粗野な言葉遣いや振る舞いで周囲を驚かせる。高貴な家柄に相応しくないと、叔母のマリア公爵夫人から教育を受けるうち、後継者の自覚が芽生え始める。
サリー・スミス (花乃まりあ)
ビルの恋人で、彼を心から愛するランベス育ちの快活な女の子。ビルが伯爵家の世継ぎと知って無邪気に喜ぶが、伯爵家の財産を狙うジャッキーと、ビルをめぐって女の火花を散らすことに…!マリア公爵夫人の教育を受けてビルが紳士へと変化していることに気付き、彼の幸せのために自分が身を引こうと決心する。
ジョン・トレメイン卿 (芹香斗亜/瀬戸かずや)
ヘアフォード伯爵家を切り盛りするマリア公爵夫人の友人で、遺言の執行人。ビルを伯爵家の世継ぎと決める権利を持つ人物。ビルは世継ぎに相応しくないと考え公爵夫人と対立するも、彼女へ特別な感情を抱いている。逆境にあっても固い絆で結ばれたビルとサリーの姿に心を動かされる、2人の愛にとってのキーパーソン的存在。
ジャクリーン・カーストン(ジャッキー) (柚香光/鳳月杏)
マリア公爵夫人の姪で、ジェラルドの婚約者。ビルの登場で、財産欲しさにあっさりとジェラルドを見限りビルを誘惑。あらゆる手でビルに迫るものの、全くなびかない様子にやきもきする。自信家で、世界は自分を中心に回っているかのような行動で周りを騒がせるが、どこか憎めないキャラクター。
ジェラルド・ボリングボーク (水美舞斗/芹香斗亜)
マリア公爵夫人の甥。いかにも上流階級出身らしい気品たっぷりでマイペースなお坊ちゃま。婚約者であるジャッキーには振り回されっぱなしで、ビルに夢中な彼女に婚約指輪を返される始末。なんとかジャッキーの心を取り戻そうと奔走するが、育ちの良さがアダとなってか、なかなか相手にしてもらえない。
ディーン・マリア公爵夫人 (桜咲彩花/仙名彩世)
ビルの叔母で、遺言の執行人。知的で凛とした佇まいのヘアフォード伯爵家の女主人。700年続く伯爵家の血筋を守るという強い信念を持ち、ビルを世継ぎに相応しい紳士にするために教育。身分不相応のサリーとの仲を引き裂こうと画策する。常に冷静なマリアだが、天真爛漫なビルに自分のペースを乱されることもしばしば。
セドリック・パーチェスター (鳳真由/柚香光)
ヘアフォード伯爵家の弁護士。一家のトラブルは何でもお任せあれの家付き弁護士として働く。自分の仕事に誇りを持ち、真面目に取り組んでいるが、なぜかちょっとカラ回りしてしまうキャラクター。今回の世継ぎ問題では、ジョン卿の側についたり、マリア公爵夫人の側についたりとせわしなく動く。
キャストメッセージ
出演者たちからのメッセージが届きました!
明日海 りお (ウイリアム・スナイブスン(ビル) 役)
どんな人でも知らず知らずのうちに虜にしてしまう、あったかーい人、それがビルです!!
「こんな人、本当にいたらいいのになぁ…」と、お客様に心から思っていただけるぐらいに素敵なビルを頑張って演じます!
どうか、ご期待ください!
花乃 まりあ (サリー・スミス 役)
大好きな『ME AND MY GIRL』、そして憧れのサリー役を務めさせていただけます事を本当に幸せに感じております。
歴代の先輩方が築いてこられた作品の世界観を大切にしつつ、明日海さん率いる今の花組の、新しい『ME AND MY GIRL』をお届けできるよう、心を込めて演じて参りますので、皆様ぜひ、観にいらしてください。
芹香 斗亜 (ジョン・トレメイン卿/ジェラルド・ボリングボーク 役)
ジョン卿はイギリス紳士らしい頑固さと、ビルやサリー、マリアを包み込む包容力、その中に見える不器用さのバランスが魅力だと思います。
ジェラルドは頼りないところも多々ありますが、ジャッキーを一途に想う若い青年を微笑ましく見ていただけるよう、可愛く演じたいです。
二役とも、ビルとサリーに出会い、二人の愛に触れるうちに愛する人に愛を伝える勇気をもらいます。
ご観劇後は、皆さまにハッピーになってもらえますように!
瀬戸 かずや (ジョン・トレメイン卿 役)
何十年も密かにマリアを想い続けたジョン卿が、ビルとサリーに出会い“大切な人の存在の大きさ”を知ります。
二人の姿を見ていたジョン卿の心の変化、マリアへの想いをしっかりと表現していきたいです!イギリス紳士の小粋さ、優しさ溢れるジョン卿をおもいきり演じます!!
花組が創りあげるハッピーな空間で皆様のお越しをお待ちしております!!
桜咲 彩花 (ディーン・マリア公爵夫人 役)
“高貴の身には義務を伴う”
全てはヘアフォード家のために。マリアの生きる上での信念。
強く強く生きている彼女も、実は本当に大切なものが欠けていて…ビル、サリーに出会い、彼女自身が知らず知らずのうちに二人に愛というものを教えてもらっている。
マリアの信念、そしてマリアが知った愛を「桜咲 彩花」を通して、たくさんのお客様に感じていただけますように!!!
仙名 彩世 (ディーン・マリア公爵夫人 役)
どんな壁があろうと、自分の信念を貫こうとするマリア。
過去にジョン卿とマリアの間に何があって、どう生きてきたかは、お客様のご想像にお任せします。
先祖に敬意を払い、ヘアフォード家を愛する姿は、改めて大切なことに気付かせてくれます。
気高く生きるマリアを、私なりに深く追求していきたいと思います。
英国貴族の世界を、どうぞお楽しみください!!
柚香 光 (セドリック・パーチェスター/ジャクリーン・カーストン(ジャッキー) 役)
家付き弁護士パーチェスターと、令嬢ジャッキーの二役をさせていただきます。
個性的で魅力的な全く色の違う二人の人物をひとつの公演で演じられることは、予想もしていなかったサプライズで、大変刺激的で嬉しく感じています。
二役ともまだ挑戦したことのないタイプの役どころです。二人の人生を楽しみながら生きて、お客様の心をポッと温めることができるような人間模様をお届けしたいと思います。
鳳月 杏 (ジャクリーン・カーストン(ジャッキー) 役)
全ての人に心からのハッピーを与えてくれる素敵な作品にもう一度めぐりあうことができて、幸せです。役替りでジャッキーを演じさせていただくことになり、新たな挑戦ができる事をうれしく思っています。
ジャッキーという人を知る度に、こんなに素直に強く生きられたら、とそのワガママさや意志の強さをうらやましく思う毎日です(笑)それすらもチャーミングに感じさせるところが、彼女の魅力だと私は思っています。
お客様に愛していただける魅力的なジャッキーになれるよう、心をこめて頑張ります。
水美 舞斗 (ジェラルド・ボリングボーク 役)
愛すべき個性溢れたキャラクターたち、誰もが楽しめるハッピーミュージカル、ランベスウォークで舞台も客席も一体感!
私自身も大好きな『ME AND MY GIRL』の世界を、より多くのお客様に楽しんでいただけますよう、自分なりのジェラルド像をつくりあげ、そして、ジャッキーのことを愛し抜きたいと思います。
劇場でお待ちしております!!
鳳 真由 (セドリック・パーチェスター 役)
私の考えるセドリック・パーチェスター役は献身的にお屋敷に従事し、マリア公爵夫人を"女王陛下”かのように崇めています。ビルがやってきてからは、お屋敷に住む家族たちに責められたりしながらも、お腹の中ではとんでもないことを考えているような、皮肉さとユーモアを持ち合わせた人物です。
日々、色々な重責をブラックユーモアに変え、お屋敷というステージで歌って踊れる不思議な弁護士をつくりあげたいと思います!!
豆知識
ビルが住むランベスってどんなところ?
イギリスの首都・ロンドンは、植民地時代の富で築かれた壮麗な建築物が並ぶ一方、産業革命によって多くの工場労働者が集まる過大都市となりました。ランベスはロンドンの町からテムズ川をはさんだ南側に位置し、インナーロンドンの13あるバラ(区)の中でも、特に多様な人種が混合する労働者の多い地域。新しい時代を生き抜こうとする庶民のパワーが溢れる活気に満ちた下町です。『ME AND MY GIRL』の舞台となった1930年代、こういった下町に暮らす人々にとっての大きな娯楽は映画館通いやラジオでした。物語の終盤にビルがニュース映画に言及しているのは、庶民の暮らしぶりをよく知るビルだからこそと言えるでしょう。
ヘアフォード家はどんな豪邸に住んでいた?
イギリス貴族の屋敷には、大勢の客をもてなすホール(大広間)や蔵書が並ぶ広いライブラリー(図書室)、事務室を兼ねたスタディルーム、チャペル(礼拝堂)などいくつもの部屋が備わっていました。美しく整えられた広い中庭は、富と権力の象徴。地下には多くの使用人たちの働く部屋があり、ビルが調理場に入ってきて召使いたちが驚くシーンからも分かるように、使用人の仕事場に主人が入ってくることはまずありませんでした。館内には先祖の肖像画などが飾られ、華美すぎない品の良さを重視したインテリアは威厳や気品を感じさせます。ただ、大きな屋敷を維持していくのは難しく、現在ではホテルや公共施設として利用されていることも……。
イーストエンドで話される言葉「コクニー」
階級意識が強かった当時のイギリスでは、社会的階層などによって英語の発音や言い回しに大きな違いがありました。ビルたちの住むランベスやイーストエンドでは、労働者階級たちによって「コクニー」が話されていました。例えば、“rain”「レイン」をコクニーでは「ライン」と発音するなどアクセントが異なるほか、「stairs(階段)」を「apples (and pears)(リンゴと梨)」と表現するなど、本来の語の韻をふむ別の言葉を使ったスラングで会話をしていました。対して、貴族階級ではクイーンズ(キングス)・イングリッシュが使われていました。ジェラルドが「僕はあのロンドンっ子の韻を踏んだ訛りに閉口しているんだ」と話す通り、階級によって言葉に大きな隔たりがあったようです。
階級ってなに?
イギリスの貴族には大きく分けて世襲貴族と一代貴族があり、世襲貴族には、公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵という5段階の序列が存在します。ヘアフォード家は世襲貴族の伯爵にあたります。当主の遺産は男子ひとり、長男への継承が原則で、嫡男がいない場合は男系の親族をたどり、最も血縁関係の濃い男性を相続人にするのが定め。これを「限嗣(げんし)相続制」と呼び、ビルはこの限嗣相続制によってヘアフォード家の世継ぎとして呼び寄せられたと考えられます。しかし、ビルは前ヘアフォード伯爵と身分の低い女性との間に生まれ、下町で育ったために貴族社会のしきたりを知らない青年。そのため、マリア公爵夫人はヘアフォード家の血筋と爵位を守るのに相応しいマナーを身につけさせようと、ビルの紳士教育に奮闘しているのです。
貴族の仕事は?
イギリス貴族にとっては働かないことがステイタス。ジェラルドも劇中で「働くってこの僕が? 家名に傷をつけるってのかい?」と働くことを拒んでいます。イギリスの階級制度は、アッパークラス(上流階級)、ミドルクラス(中流階級)、ワーキングクラス(労働者階級)の3つに大きく分類されます。アッパークラスに属し、特権を伴う貴族には古くから報酬を得ずに働く「ノブレス・オブリージュ(高貴なる者の責務)」という不文律が存在し、国家存亡の事態、災害や戦争が発生したときは貴族たちが先頭に立って解決に当たってきました。代々治安判事を務める者も多く、高貴なる者の義務として慈善活動などで社会に貢献するというスタイルが浸透しています。
貴族の娯楽とは?
劇中のビルの服装や持ち物などからわかるように、狩猟や乗馬が貴族の娯楽の代表格でした。イギリスの狩猟といえばキツネ狩りが有名で、たくさんの猟犬をつれて広い領地内で行うことも多かったようです。乗馬は特にイギリス貴族のステイタスで、名馬を所有することで騎士の末裔であることを誇示できました。馬の良し悪しを見分ける鑑識眼、巧みな手綱さばきを備えているのも貴族の証。さらに競馬場は紳士淑女の社交場で、ファッション合戦も繰り広げられたほど。特にイギリス王室所有のアスコット競馬場でのレースは優雅な雰囲気に包まれていました。貴族は馬主に徹し、実際のレースには、雇ったプロの騎手を参加させ楽しむスタイルでした。その他にも、英国発祥と言われるフライング・フィッシュ(疑似餌を使った釣り)も貴族の嗜み。また、テニスは正装して観戦するのがメインで、自ら参加するスポーツは意外に少なかったようです。