安蘭けいさん×紅ゆずる 対談

1997年にブロードウェイで初演され大ヒットを記録したミュージカル「THE SCARLET PIMPERNEL」。その日本初演の主演を務められた、元星組トップスターの安蘭けいさんをお迎えし、この度新生星組の船出を飾る同作の主演を務める、星組トップスター・紅ゆずるとのスペシャル対談が実現。2008年の初演時の想い出や今作への期待など、楽しいトークが繰り広げられた一部をご紹介しましょう。

安蘭けいさん×紅ゆずる 対談

精一杯だった新人公演。今回は役を丁寧に掘り下げて創りたい(紅)

安蘭けいさん

——2008年『THE SCARLET PIMPERNEL(スカーレット ピンパーネル)』新人公演の思い出
:『THE SCARLET PIMPERNEL』は宝塚歌劇では初演から二年後に再演されていますし、昨年はとうこさん(安蘭けいさんの愛称)もご出演された、ミュージカル「スカーレット・ピンパーネル」が上演されましたが、私の中では“パーシー”と言えば、やはりとうこさんです。とうこさんがパーシーを演じられた作品の新人公演で突然主演に抜擢していただいたときは、全く信じられない思いでした。私はそれまで通し役というか、ひとつの役だけを演じたことすらなかったので、どうしたらいいのか全然分からなくて。本公演でパーシーを演じていらっしゃったとうこさんに質問攻めでしたよね。
安蘭:していたね、いろいろ。しかも“この人、舞台に立つのが初めてなのかな”っていうような質問ばっかり(笑)。
:「銀橋に出た時、前後が分からなくなりませんか?」とか、「スポットライトが当たると真っ暗になると聞きましたが、どういう感じですか?」とか(笑)。
安蘭:舞台人とは思えない質問内容だった(笑)。でも、突然抜擢されるってそういうことだよね。何も分からない上に勇気も度胸も要る。
:本公演の開演前に、とうこさんが汗だくになりながら振りを教えてくださったことが印象深くて。本当に手取り足取り、一から百まで教えていただきました。
安蘭:でも、さゆみ(紅ゆずるの愛称)の演じるパーシーは面白かったよ。自分も本公演で演じていた役だけど、全く別のものを見ているような感覚。それはもうさゆみにしかない、“面白い”という言葉だけでは表現できない魅力だと思った。
:ありがとうございます!

——パーシー役の役創りについて
安蘭:新人公演初主演の役をトップお披露目公演で演じるなんて、すごいめぐり合わせだよね。
:そうですね。パーシー役はとうこさんが演じられたあと、月組でも上演されて、お客様が持っていらっしゃるイメージが既にあると思うので、そこからあまりはみ出さないものにしたいという思いがあります。私が初めて演じる役でしたら、ご覧になる方もそういう性格の役だと思われるでしょうから、どんな角度から創りこんでもいいと思うんですけど。私の頭の中では、初演の時に毎日見ていたとうこさんのパーシーの印象がとても強くて……。
安蘭:私のイメージは追わずに、さゆみはさゆみの色で演じれば、おのずとさゆみにしか出来ないパーシーになると思うよ。先日もさゆみのプレお披露目公演マサラ・ミュージカル『オーム・シャンティ・オーム -恋する輪廻-』を観させてもらったけど、新人公演の時からたくさんの経験を積んで確実に成長しているのがよく分かったから、役の掘り下げ方はさゆみなりの方法でアプローチしたらいいと思う。私は全く心配していないよ。
:新人公演の時はとにかくとうこさんの真似をすることで精一杯でした。今回はパーシーという人物のバックボーンを考えて、丁寧に役創りをしたいと思っています。彼にはどういう意図があって社交界で慇懃無礼な振る舞いをしているのだろうか、どうしてわざと鈍感な素振りをしているのだろうか……と考えた時、そこには彼がそれまでに培ってきたバックボーンがあり、多分ピンパーネル団を結成する前からそういった要素はあって、結成後に人の目を欺くためにその性格が誇張されたのかもしれないなと。そういった、そうしようと思った背景やそうさせるに至った生い立ちなども考えながら役を掘り下げていきたいと思っています。

「ひとかけらの勇気」は誰もが口ずさめる素晴らしい楽曲(安蘭)

紅ゆずる

——『THE SCARLET PIMPERNEL』の魅力について
安蘭:私は昨年、ミュージカル「スカーレット・ピンパーネル」でパーシーの相手役のマルグリットを演じさせていただいたのですが……。
:パーシーを演じた方がマルグリットもされるって、すごいですよね!
安蘭:(笑)。マルグリット役で「スカーレット・ピンパーネル」に出演して、小池先生は宝塚歌劇に合わせてすごく良く脚色されていたんだなということが分かったの。パーシーとマルグリットだけではなくピンパーネル団の人たちにも恋愛模様があったり、王太子ルイ・シャルルの救出を軸にすることによって違う伏線が出来て世界観が広がったり。宝塚歌劇ならではのエンターテインメント性を持たせて面白い世界観になったんだと思う。
:逆に外部の方の作品は、パーシーがピンパーネル団を作る決意の部分が掘り下げて描かれていたりして、違いが面白いですね。
安蘭:私、最後にパーシーが正体を明かす場面が好き。水戸黄門様が印籠を出すシーンみたいにすっきりするのよね(笑)。ストーリーは深刻に進むんだけど、最後はみんなでパーッと晴れ晴れ終わるところもこの作品の魅力じゃないかな。

——楽曲の魅力について
安蘭:フランク・ワイルドホーンさんの曲はどれも記憶に残るメロディーで、日本人の心に染みるよね。宝塚歌劇のために作曲してくださった「ひとかけらの勇気」は誰もが口ずさめるメロディーで大好き。そこに小池先生がつけてくださった歌詞がよく合って素晴らしいの。
:私も当時、とうこさんが歌っていらっしゃるのを舞台の袖で毎日毎日聴いていました。それを聴いて、「よし、私もひとかけらの勇気を振り絞って頑張ろう!」と思っていたんです。
安蘭:女性だけでなく、舞台スタッフの皆さんも、あの歌を聴くと毎日元気が出るって言ってくださったことが印象的だった。
:みんながリアルに勇気をもらえる歌なんですよね。最初は静かに始まってどんどん熱くなる曲調も好きです。実際に歌うのは難しいですけど、ストーリーの流れに乗っている歌だから、その心のままを乗せて歌えばいいんでしょうか。
安蘭:そうだね。確かに難しいけど、気持ちが自然に盛り上がるから、そういう意味では歌いやすいかもしれないね。

燃えたぎる星組の情熱を引き継ぎたい(紅)

——紅ゆずる、新トップスターに向けて
:トップスターの心得を教えていただけないでしょうか。
安蘭:私は、はじめのうちは自分が引っ張っていかなくちゃ、っていう気負いがあって頑張っちゃったの。まるで演出家のように下級生にアドバイスしたりして(笑)。でも、トップスターが口を出しすぎたらそのすぐ下の人たちが育たないのよ。私が一歩引いたらちえ(柚希礼音さん)が下級生を指導してくれるようになって、それが彼女自身の成長にもつながったと思う。一年間悩んでやっとそこにたどり着いた。そういうことも含め、力を抜いて、みんなが盛り上げてくれる空気に一度乗っちゃった方がいいと思う。
:私の中では自分が今まで見てきたトップスターさんたちがお手本になるんですけど。
安蘭:どのトップさんもはじめは同じように悩んでいたと思うよ。きっと今の星組はさゆみを支えようとする空気が万全に整っていると思うから、あまり頑張りすぎないでさゆみにしかない良さを大切にしてほしいな。
:私の良さっていったいなんだろうって、最近考えるんです。私自身としては真面目に頑張っているつもりですけど、周りにはそういうイメージはないみたいなんですよ(笑)。だから、トップになったからといって急に引っ張っていくタイプに変わっても周りは戸惑うでしょうから、とうこさんのおっしゃる通り、あまり気負わずに、みんなで一緒に創っていこうと思います。私としても一人で展開させる場面よりもみんなで創り上げる方が好きなので、その方が性に合っているかもしれないですね。
安蘭:そういうところが、さゆみのいいところだね。

安蘭けいさん×紅ゆずる 対談風景

——新生星組スタートに向けて
:とうこさんがとても大切にされていた作品を星組で再演させていただくということが、大切な何かを引き継ぐことのように感じているんです。初演の時に出演していた生徒が少なくなってしまったので、とうこさんの時代の燃えたぎっていた星組の情熱を、今の下級生に伝えるには絶好の機会だと思っています。
安蘭:作品的にも大勢の場面が多いしね。
:一人ひとりの情熱が団結して、ことを動かすというストーリー性が、新生星組のスタートにぴったりだと思います。
安蘭:多くの方々に期待されてプレッシャーも感じると思うけど、気負わずに喜びをかみしめながら頑張ってください。さゆみが演じるパーシーは本当に楽しみだし、すごく嬉しい。大勢引き連れて観に行くからね!
:ありがとうございます。頑張ります!

【プロフィール】

安蘭けい

1991年宝塚歌劇団に首席で入団、同年3月『ベルサイユのばら』で初舞台。2003年、オペラ「アイーダ」を題材にした『王家に捧ぐ歌』でアイーダ役を演じ、現役のタカラジェンヌでは史上初の第25回松尾芸能賞演劇新人賞を受賞。また同作品では第58回文化庁芸術祭演劇部門優秀賞を受賞。2006年12月、星組トップスターに就任。2008年、ブロードウェイミュージカルの日本初演となる『THE SCARLET PIMPERNEL(スカーレット ピンパーネル)』でその抜群の歌唱力と柔軟な演技力をいかんなく発揮し、高い評価を得る。この作品は第34回菊田一夫演劇賞演劇大賞を受賞するなど宝塚歌劇の歴史に残る名作となり、自身の代表作にもなった。
2009年に宝塚歌劇団を退団。その後も、歌唱力を生かしたミュージカルや、ストレートプレイ、映像作品で活躍し、「サンセット大通り」、「アリス・イン・ワンダーランド」の演技に対し第38回菊田一夫演劇賞受賞。主な作品に「The Musical AIDAアイーダ」、「ワンダフルタウン」、「エディット・ピアフ」、「MITSUKO~愛は国境を越えて~」、「アントニーとクレオパトラ」、「next to normal」、「幽霊」、「レディ・デイ」、「CHESS THE MUSICAL」、「漂流劇 ひょっこりひょうたん島」など。2016年にはミュージカル「スカーレット・ピンパーネル」のマルグリット・サン・ジュスト役を演じ、大好評を博した。
2017年3月より「白蟻の巣」、5月より「リトル・ヴォイス」に出演予定。